計27度防衛の王者を2回KO…井上尚弥が「モンスター」になった夜 ナルバエスと陣営は何を思ったか
2013年4月、井上尚弥のプロ3戦目の相手を務めた佐野友樹はそう叫んだ。
それからわずか1年半、世界王座を計27度防衛し続けてきたアルゼンチンの英雄オマール・ナルバエスは、プロアマ通じて150戦目で初めてダウンを喫し2ラウンドで敗れた。「井上と私の間に大きな差を感じたんだよ……」。
2016年、井上戦を決意した元世界王者・河野公平の妻は「井上君だけはやめて!」と夫に懇願した。
WBSS決勝でフルラウンドの死闘の末に敗れたドネアは「次は勝てる」と言って臨んだ3年後の再戦で、2ラウンドKOされて散った。
バンタム級とスーパーバンタム級で2階級4団体統一を果たし、2024年5月6日に東京ドームでルイス・ネリ戦を控えた「モンスター」の歩みを、拳を交えたボクサーたちが自らの人生を振り返りながら語る。第34回ミズノスポーツライター賞最優秀賞に輝いたスポーツノンフィクション『怪物に出会った日 井上尚弥と闘うということ』から2014年12月30日に開催された井上尚弥vs.オマール・ナルバエスの戦いを一部抜粋して公開します。
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【写真:アフロスポーツ】
(アルゼンチン)
2014年12月30日 東京・東京体育館 2ラウンド 3分1秒 KO
WBO世界スーパーフライ級王座獲得
井上の戦績 8戦全勝7KO
2014年12月30日、年の瀬の東京体育館に観衆8000人が集まった。
トリプル世界戦が組まれる豪華な興行の第1試合。ネストルがリングに上がった。フライ級より少し重い51.7キロ契約のノンタイトル8回戦。スピードのある拓真の左を浴び、主導権を握られた。6回には右を効かされた。だが、倒れるわけにはいかない。上下に打ち分けた力強いパンチが飛んでくる。判定は0-3、拓真のフルマークで、ネストルの完敗だった。
「少し体重の差があったかな。あとは拓真のスピード、ボクシング技術も素晴らしかった」
試合を終え、気持ちを切り替え、兄のサポートに取りかかった。
村田諒太がデビューから6連勝を飾り、ホルヘ・リナレスが世界3階級制覇を成し遂げ、セミファイナルでは八重樫東がWBC世界ライトフライ級王座決定戦で散った。
そして、迎えるメインイベント。
オマールは息子のジュニアとともに入場ゲートに上がった。2人にスポットライトが当たる。ジュニアがベルトを掲げて花道を先導し、ネストル、長兄のマルセロらセコンド陣が続き、揃ってリングに上がった。ナルバエス家の晴れ舞台だった。
試合開始を告げるゴングが鳴った。
井上のジャブ、ジャブ、軽い左フックが飛んでくる。左構えのオマールはガードを上げ、右腕で弾いた。一見、何事もない、様子見の攻防だ。
だが、オマールの心の中で衝撃が走った。
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