FC今治、J3昇格へすでに機は熟した あとは成績で条件をクリアするのみ

宇都宮徹壱

着実に「地域になくてはならない存在」へ

試合はドローに終わったが、首位とは3ポイント差。試合後、選手はサポーターとハイタッチ 【宇都宮徹壱】

「互いに自分たちのレールの上でサッカーしようという展開で、自分たちの方に引き込み切れなかった。相手はシンプルにロングボールを入れてきて、前線で競ってセカンドボールを狙ってくることを徹底させていました。ある意味、いろいろなことやるチームよりも、そっちのほうがウチとしてはやりづらい。けれども(JFLで優勝するためには)、そこを乗り越えていかないといけないと思っています」

 試合後の小野監督のコメントである。何も付け足すことはあるまい。この日、首位のHondaは松江シティFCに2-0で勝利し、2位今治との差は3ポイントに広がった。そのHondaとは次節、アウェーでの首位決戦に挑む今治だが、逆転で首位に立つには2点差以上での勝利が必要。しかし小野監督は「相手へのプレッシャーという意味では、3ポイント差で対戦するのは重要ですが、次の試合ですべてが決まるわけではない。それよりも、ひとつひとつ勝ち点を積み重ねたい」との見解を示した。これまた、何も付け足すことはない。

 久々に訪れた今治の試合は、スコアレスドローという、いささか残念な結果に終わった。とはいえ、まったく収穫がなかったわけではない。なぜなら、これまで以上にクラブが地域に根ざしているという印象を強く受けたからだ。この日はあいにくの天候だったにもかかわらず、夢スタには2413人の観客が集まった。ここまでのホーム平均入場者数は3008人。3桁の入場者数が当たり前のJFLにあって、人口わずか17万人ながら平均3000人以上の集客を誇る今治は、このリーグでも別格の存在となっている。

「西条や新居浜では大きなお祭りがあって、そこで地域の住民がひとつになるんですが、今治にはなかったんですね。それがサッカーでひとつになっていることに、驚いている人は(愛媛)県内でもけっこう多いと思います。先週の奈良戦も雨が激しかったのに、それでも2000人以上入りましたしね。夢スタからユニホームのまま帰ると、見ず知らずの人から『今日は勝ったの?』と聞かれるようにもなりました(笑)」

 試合前日、ある今治サポーターからそんな話を聞いた。岡田武史会長の挑戦がスタートして5年目。当初の目論見どおりなら、今頃はJクラブになっているはずであったが、これで良かったようにも感じている。FC今治というクラブは、あらゆる面でJFLのレベルアップに貢献する一方で、着実に「地域になくてはならない存在」となりつつあるからだ。悲願の昇格に向けて、すでに機は熟した。あとは、文句なしの成績で条件をクリアするのみ。この次に訪れる時には、昇格のカウントダウンが始まっていることだろう。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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