FC今治、J3昇格へすでに機は熟した あとは成績で条件をクリアするのみ

宇都宮徹壱

前半戦を2位で折り返した今治

今季のJFLもいよいよ後半戦。現在2位につける今治は、ホームにFC大阪を迎えた 【宇都宮徹壱】

 参議院選挙を翌日に控えた7月20日、JFLの取材で久々に今治を訪れた。その日の夜、商店街では小さなお祭りが行われていて、いつになく活気に満ちている。当地では8月初旬に「おんまく」という花火大会があるが、東予地方のお祭りといえば西条市や新居浜市のほうが有名だ。150台もの神輿(みこし)や楽車(だんじり)が集結する西条まつり。そして、阿波おどり(徳島)やよさこい(高知)と並ぶ「四国三大祭り」のひとつ、新居浜太鼓祭り。それらに比べると、今治の夏はいささか控えめな印象が否めない。

 さて、早いものでJFLも今回が第16節。16チームによるリーグ戦なので、ここからが後半戦ということになる。あらためて順位を確認しておこう。FC今治のホームゲーム取材は第2節以来となるが、その試合で1-2と敗れたHonda FCは、しっかり立て直して首位を堅持。これを現在4連勝中のFC今治が、わずか1ポイント差で肉薄している。3位以下は、ソニー仙台FC、東京武蔵野シティFC、ホンダロックSC。今治と同じく、来季のJ3入りを目指す奈良クラブは14位に沈んでいる。

 JFLからJ3へ昇格するには、成績面で4位以内に入ることが条件となる。ただし、今季がこれまでと異なるのは、2ステージ制ではなく1シーズン制であるということだ。2ステージ制の場合、ステージ優勝した時点で自動的に2位以内が確定。よって、ファーストステージかセカンドステージのいずれかで優勝するか、もしくは総合順位で4位以内になればよい。一見するとチャンスが多いようにも思えるが、的を絞り切れずに昇格を逃し続けてきたのが、過去2シーズンの今治であった。

 今季の今治の目標は「JFL優勝」である。「J3昇格」ではなく、優勝。「厳しいリーグ戦を制した先に昇格がある」というのが、今季からチームを率いる小野剛監督の一貫した考えである。ステージ優勝がないのなら、30試合すべてで勝ち点を積み上げていくしかない。ただし、ぎりぎりで「昇格を目指す」のでは厳しい。昨年は4位に3ポイント、2年前は7ポイント届かなかった。過去2シーズンの反省に立つならば、優勝して突き抜けていくことが、最も確実な昇格への道筋となる。

 そこで、小野監督が掲げたのが「王者・Hondaにも勝てるサッカー」。この圧倒的な「門番」を倒さなければ、JFLの重い扉をこじ開けることはできない。駒野友一や橋本英郎といった日本代表経験者を補強し、小野監督が得意とする緻密なスカウティングを重ねた結果、今治はJFL3年目にしてようやく「打倒Honda」に成功した。そして2位で折り返した21日の後半戦初戦、夢スタ(ありがとうサービス.夢スタジアム)に迎えるのはFC大阪。今治にとってはある意味、Honda以上に苦手とする相手だ。

「天敵」FC大阪にまたしても苦戦

ロングボールを放り込むシンプルな戦術、そして1対1での激しさにベテランの橋本も苦慮 【宇都宮徹壱】

 1996年設立のFC大阪は「大阪第3のJクラブを目指す」という壮大な目標を打ち出し、15年からJFLで活動を続けている。JFL最初のシーズンは、アトランタ五輪にも出場した森岡茂監督がチームを率いて多少の話題になったが、どちらかというとJFLでは地味な存在であり続けた。それでもJFL参戦後の4シーズン、ずっと1桁順位をキープしているのは見事と言うほかない。際立った選手補強をしているわけでもないのに、昨シーズンは過去最高の2位に上り詰めている。

 企業チームのように施設面で恵まれているわけでもなく、あるいはJ3ライセンスがあるわけでもない(昨年ようやく東大阪市をホームタウンとすることが承認された)。にもかかわらず、安定的な強さを保つFC大阪に、今治は過去2シーズン一度も勝利していなかった。昨シーズンも、その前のシーズンも1分け1敗。今季も開幕戦(アウェー)で対戦し、スコアレスドローに終わっている。その後、Hondaに勝利したことで、今治がJFLで勝利していないチームは、FC大阪のみとなった。今回の「天敵」との対戦は、苦手意識を払しょくする最後のチャンスとなるのかもしれない。

 今にも雨が降り出しそうな空模様の下、17時にキックオフ。今治は駒野と橋本の元代表コンビがそろってスタメン出場し、前線に内村圭宏と桑島良汰を並べた4-4-2のシステムで臨んだ。対するFC大阪は、事前のスカウティングでは「おそらく4バックだろうが、5バックも考えられた」と小野監督。しかしフタを開けてみると、3バックで中央を固めた布陣で、J1でのプレー経験のあるFW横野純貴が前線でデンと待ち構える。ワントップにロングボールをぶつけて、2列目以降がセカンドボールを拾ってチャンスを作るという、FC大阪の狙いは明確だった。

 前半15分、今治は相手ペナルティーエリア付近からFKのチャンスを得る。キッカーはもちろん駒野。「駒野ーっ! そこから直接狙うのは反則や! せめてクロスにしてや!」というFC大阪サポーターのヤジが効いたのか、右足でのキックはポストを直撃する。さらに直後のCKでは、キャプテンマークを巻くDFの園田拓也がヘディングで決めたかに見えたが、主審はオフサイドの判定。この幻のゴールによって勇気を得たFC大阪が、その後の試合の主導権をがっちり握ることとなる。

 エンドが替わった後半も、FC大阪の攻勢は続く。ただしフィニッシュの精度はそれほど高くなく、今治GK修行智仁の好守もあってスコアは動かない。対する今治は、左サイドからの崩しで何度かチャンスを作るものの、それ以外は自陣で耐え忍ぶ時間帯が続いた。ベンチも何とか事態を打開するべく、後半22分には飯泉涼矢、39分には上原拓郎、そして42分には上村岬を投入。前線の人材をリフレッシュさせたものの、やはりゴールは遠い。両者決め手を欠いたまま、開幕戦と同じスコアレスドローで試合終了となった。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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