元日本代表が今治に伝えたいこと 駒野友一と橋本英郎、それぞれの想い

宇都宮徹壱

「一人ひとりの技術は高い」けれども

今治に加入し、駒野は選手たちの技術の高さを感じたという 【宇都宮徹壱】

――今治という土地は、駒野さんは初めてですよね?

駒野 実は意外な理由で、一度来ているんですよ。広島時代、片目がぼやけて見える病気になったことがあるんです。原因はよく分からないまま、目薬で1カ月くらい治療して。その時に今治の明堂院というお寺にお参りしたら、ご利益がありましたね。今年の春には今治でお世話になることもあって、家族でお礼参りに行きました。

橋本 ええ話やなあ。

――橋本さんは奥様がこちらの人と聞いたのですが。

橋本 実は今治市ではなく越智(おち)郡というというところで、しまなみ海道にある生名島(いきなじま)の出身です。ちなみに隣の因島(いんのしま)は広島県なんですね。僕自身、年に2、3回は愛媛に来ますけれど、今治とはあまり縁がなかったです。

――お2人とも今は単身赴任だそうですが、今治の土地には慣れましたか?

駒野 慣れましたね。とても過ごしやすいですよ、そんなにざわざわしないし。

橋本 僕はけがの治療もあって、2カ月くらい抜けていたので、これからですね。

――では、チームについてはどうでしょう。これまで所属していたJクラブとは、明らかにいろいろなものが違って感じられたと思うのですが。

駒野 一人ひとりの技術は高いなと思いました。ただ去年に失点が多かったのは、守備の意識ややり方というものが浸透していなかったからだと思います。そこは監督の小野(剛)さんが改善しているところですが、今までやっていないところでしたから「難しいな」と感じる選手もいるとは思います。でもやっぱり、サッカーをやる上では守備もすごく大事だし、そこがなければ上にも上がれないですから。

橋本 僕も「技術はあるなあ」と思う一方で、フィジカルの部分にあまりこだわっていなかったり、ボールの奪い合いでの執着心も低かったり、というのは感じました。せっかく技術があるんだから、そういった部分もバランスを取りながら身に付けてほしいと思います。

──JFLでの戦いというのは、テクニックだけで対処できない相手も当たり前に存在しますからね。特に今治が相手だと、どこも相手の良さを消し去る戦い方をしてきますから。

駒野 それは感じますね。開幕戦のFC大阪もそうでしたけれど、徹底してロングボールを蹴ってきて、向こうがフリーなのにさらに裏を狙って蹴ってくるとか。「こんな戦い方をしてくるのか」と、最初は衝撃を受けましたね。

橋本 ある意味(FC町田)ゼルビアみたいな感じだったよね。去年の町田はJ1に上がれないことが決まっていたので、ノープレッシャーという言い方は語弊があるかもしれないけれど、JFLで対戦する企業チームにもそんな怖さを感じました。だからこそ僕らは、そこを乗り越えるくらいのメンタルの強さを持ってないといけないと思います。

試合に出られていない選手こそ奮起してほしい

求められている役割を理解している2人。ピッチ内外でチームに与える影響は大きい 【宇都宮徹壱】

――というわけで、今季の今治の最大のミッションはJ3昇格。新監督には岡田さんの腹心である小野さんが就任しました。駒野さんは広島時代にも一緒に仕事をしていたわけですが、当時と比べて違いのようなものは感じますか?

駒野 フィジカルや走りについても、小野さんが指導していることですかね。広島時代は専門の指導者がいましたから。ひとりでやらないといけない部分もあるんでしょうけれど、そうした分野でも知識があるんだなって思いました。戦術面では広島時代とあまり変わらないように感じます。映像を使った分析も当時からやっていましたし。

橋本 僕はこっちに来るまで小野さんとの接点がなかったのですが、やっぱりJFA(日本サッカー協会)で指導者講習をしていた人なので話がとても分かりやすい。僕も将来は指導者になりたいと思っているので、勉強になる部分は非常に多いと感じています。たとえばミーティングの作り方とか、グラウンド上で話をするタイミングとか、ロッカールームでの話の内容とか。あと、僕がけがでチームから離れる時も、しっかり相談に乗っていただきましたし。

──小野さんも岡田さん同様、ベテランのお2人にはピッチ外のところでもかなり期待していると思います。ご自身では、どのようなことを心がけているでしょうか?

橋本 若い選手とは、練習以外の時間でもコミュニケーションを取ろうと思っています。このクラブは環境面がある程度整っているので、どこか満足してしまう部分ってあるんですよね。自分が望めば、もっと上のカテゴリーでできる選手もいるので、向上心という部分でアプローチしていければと思っています。

駒野 これはハシさんにも言いましたけれど、まだチームには甘さがあると僕は感じています。勝っているときは「優勝できるんじゃね?」と言っていたのが、ちょっと調子が悪くなると「昇格できればいいんじゃね?」となったり(苦笑)。それと最近は、試合に出る選手と出ない選手が分かれ始め、「出てないからこれでいいや」みたいな弱音をはく選手も出てきてしまう。そうではなく「絶対にポジションを奪い返してやる」みたいな気持ちを、もっと練習から出してほしいと思います。

橋本 コマちゃんと違って僕はベンチ外が続いていたので、試合に出られない選手にアドバイスしやすいと思っています。本当はちゃんと走れるのに、オーバーラップからジョグで戻ってくるとか、そういうのって気持ちの問題なんですよ。監督もそういうのは見ているから、使いたくても使えない部分はあるんじゃないですかね。そのあたりについては、自分の立ち位置を生かしながらアプローチしていきたいと思います。

――うまい具合に役割分担ができていますね(笑)。最後に、それぞれの今季のテーマを一言でお願いできますでしょうか?

駒野 「ぶれない」ですね。今までもそうですけれど、今年はより「ぶれない」。

橋本 かっこいいなあ(笑)。僕は「みんなで昇格」にしておきます。今は試合に出ていない選手も含めて「みんなで昇格」。

――きれいにまとめていただき、ありがとうございました。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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