元日本代表が今治に伝えたいこと 駒野友一と橋本英郎、それぞれの想い
元日本代表の駒野(左)と橋本。2人が今治にもたらすものとは? 【宇都宮徹壱】
こうした状況を見越していたかのように、今季の今治は元日本代表のキャリアを持つ、2人のベテランが加入した。駒野友一、37歳。そして橋本英郎、40歳。Jクラブではない今治に、これだけのキャリアを持つ選手が加入したのは15年の市川大祐と山田卓也以来である(市川は16年、山田は17年に現役を引退)。若手主体のチームにとって、経験豊富なベテランの存在は、非常に重要な意味を持つと言えよう。
駒野と橋本へのインタビューは、今治が出場を逃した天皇杯1回戦の翌日(5月27日)に行った。おりしも夢スタ(ありがとうサービス.夢スタジアム)で行われた天皇杯では、同世代の高原直泰が沖縄SVの中心選手として出場。試合後に駒野と旧交を温める場面も見られた。まずはその話題をイントロダクションとして、今治移籍の経緯や岡田武史会長との関係性、さらにはベテランから見たチームの現状や貢献のあり方についても語ってもらった。
全試合スタメンとベンチ外、明暗を分けた序盤戦
高原(左)と旧交を温める駒野。あらためて天皇杯出場を逃したことを悔やんだ 【宇都宮徹壱】
駒野 「負けたのか」と(笑)。やっぱり僕も一緒のピッチに立ちたかったし、(天皇杯予選に)勝ってあの場に自分たちがいなかったことが、余計に悔しく感じられましたね。
――もし今治が出場して沖縄に勝っていたら、次の相手は駒野さんの古巣であるサンフレッチェ広島でしたからね。その意味でも今大会は残念でした。橋本さんはその日は神戸に帰っていたそうですが、やはり天皇杯に出場できないことに悔しさがあったのでは?
橋本 そうですね。今はJ1のチームと対戦できるのは、天皇杯しかないですからね。僕は去年(東京)ヴェルディにいて、天皇杯で浦和レッズと対戦したんですけれど、敗れた悔しさとは別に楽しさを感じました。あと、タカ(高原)とは同い年なので、そういう選手と対戦する機会が失われたのもの残念です。
駒野 僕はタカさんより2個下ですが、あの試合を見て「すごいな」と思いました。FWだけでなく時間帯によってはサイドとボランチのポジションでプレーしていましたからね。それもほぼ90分間。
――今日はぜひ「ベテランだからこそできること」ということで、いろいろとお話を伺いたいと思います。まず駒野さんですが、ここまでの8試合すべてスタメン出場。(FCマルヤス)岡崎戦は、最後のほうでベンチに退きましたが、それ以外はフル出場。そしてソニー仙台FC戦では初ゴールも決めました。ご自身では開幕前から「やれる」という手応えは感じていたんでしょうか?
駒野 そうですね、キャンプに入ってうまくいっていたところもありますけれど、キャンプはキャンプで「公式戦とは違う」と思いながらやっていました。自分自身、満足のいかない時間帯もありますけれど、試合を重ねるごとにチームとして良くなっている部分はありますし、自分自身もスタメンで出ている以上、もっと結果を求めたいと思います。
――橋本さんは、序盤の2試合はスタメンと途中出場でしたが、その後はけがのためずっとベンチ外でした。今日の練習には参加していましたけれど、どういう状況なんでしょうか?
橋本 今はかなり回復しましたが、もう少し慎重に治していきたいところです。試合に出ていない分、チームの状況を客観的に見るようにはしています。最近は勝てない試合が続いていますけれど、得点のパターンがもう少し増えれば、安心して試合が進められるのかなと。今季はコマちゃんがいるので、セットプレーの形はあるので、あとは流れでの形。ただしバリエーションがあればいいのか、それとも相手が対応できないくらいのレベルに持っていくのか。今はそのあたりのところで迷いがあるのかもしれないです。
岡田会長からのオファーとそれぞれに求められるもの
橋本は岡田会長から「ゲームコントロールができる選手がほしい」と声をかけられたことを明かす 【宇都宮徹壱】
橋本 うちの両親が岡田さんのお父さんと、以前からコミュニケーション取っていたみたいで、たぶんそういう世間話をしていたんだと思います(笑)。
駒野 僕にとっての岡田さんは「厳しい指導者」というイメージがずっとありましたね。でもこっちに来てから、何度か岡田さんのご自宅に食事に呼ばれることがあるんですけれど、その時に初めて笑っている顔を見たように思います。お酒が入っていることもあったと思うんですけれど、「この人、こんなに笑うんだ」って思いましたね。
橋本 確かに代表監督時代よりも、柔らかくなった感じはありますけれど、そこまで笑わないというイメージは僕にはなかったですね。コマちゃんのほうが、W杯みたいな厳しい戦いの中で岡田さんと接することが多かったからじゃないですか。僕が代表に呼ばれていた時は、もうちょっとふわっとした感じだったかも(笑)。
――岡田さんからオファーをもらった時、具体的に今治でどんな説明を受けましたか?
駒野 そんなに細かい話はなかったですね。とにかく「J3に上げるために来てほしい」ということだけです。具体的な戦術とか、ポジションの話はなかったです。
橋本 僕には、ゲームコントロールの話をされていましたね。実は今治には、すでにいいボランチがいるので「だったら僕はいらないだろう」と思っていたんです。そうしたら岡田さんから「これまでのチームは約束事が決まっていて、ずっと同じリズムやテンポで試合をしていた。状況に応じて、ゲームコントロールができる選手がほしい」と。それなら、自分が貢献できる部分があると思いました。
――それぞれベテランと呼ばれる年齢で、初めてJFLという舞台でプレーすることになったわけですが、不安はなかったですか?
駒野 確かに環境面でいろいろ考えるところはありましたけれど、自分にとってサッカーができる環境があることが一番の幸せですから。しっかりグラウンドで表現できる喜びを感じながら、自分に求められていることを常に意識しながらプレーしようと思いました。
橋本 僕は長野パルセイロでJ3を経験しているので、カテゴリーの違いに対する抵抗はあまり感じませんでしたね。ただし「具体的な目標があるか」というのは(移籍先を選ぶ)ポイントではありました。その意味で、今治には「昇格」という明確な目標があったので、ものすごくやりがいは感じています。