周到な戦術プランが30分持たない…
「適応能力」がもたらした異次元のCL

極限まで進化したリアルタイム分析

試合中の選手の戦術適応能力が各段にレベルアップ。瞬時に戦術を修正していた
試合中の選手の戦術適応能力が各段にレベルアップ。瞬時に戦術を修正していた【写真:ロイター/アフロ】

 アヤックスを筆頭に、今季のCLの戦術面からの傾向を言えば、試合中の選手の戦術適応能力が各段にレベルアップしたというのが一番に挙がるだろう。残念だが、日本国内の試合とは比べ物にならないぐらい、そしてこれはちょっと当分日本は追いつけないだろうというレベルまで、選手の戦術適応能力が段違いにレベルアップしてしまった。おかげで、相手の構造的な弱点を突く戦術やゲームプランを用意しても、20分そこそこですべて対応され修正されてしまうようになった。せっかく相手の弱点をたたいてストロングポイントを消す戦術を考え、トレーニングで訓練を重ねて周到に準備してきても、相手の対応速度が早過ぎてそのゲームプランや戦術が30分も持たないという現象が多く見られるようになった。


 その1つの要因に掲げられるのが、極限まで進歩してしまったリアルタイム分析だろう。スタジアムの上から、鍛え上げられた専門の分析官が列をなして並び、データを集め、上空から戦術的問題を即時に把握。ベンチと無線がつながっており、データも分析もリアルタイムでピッチ上と共有できる。さらに、ハーフタイムにはロッカーで直接選手や監督にアドバイスすることができ、前半の映像からいくつかシーンをピックアップしてハーフタイムのミーティングで使うケースも増えてきているという。今季のCLでも何度か、前半終了のホイッスルが鳴るや否や走ってロッカールームまで帰っている監督の姿を見ることができた。選手となのか分析官となのかは分からないが、それだけハーフタイムの間に共有することが多いということだろう。


 もう1つは、選手たち自身の戦術リテラシー、つまり戦術適応能力の向上だ。これは、特にプレミアリーグ所属のチームに見られた(それがCLとELでのプレミア勢の躍進の理由の1つなのかもしれない)。アヤックスの戦術リテラシーの高さはすでに述べたが、アヤックスと同じレベルで、多くのチームが非常に柔軟に戦術的問題に対応し、解決策を自ら出していた。全選手が外から試合を見ているんじゃないかというぐらい、状況を把握し、即座に相手との噛み合わせを見抜き、適切な配置転換を行い、時にはシステム変更まで行っていた。これはものすごくハイレベルなことなのだが、トップクラスのチームではそれをもはや誰もが当たり前のように試合の中で適切な戦術的意思決定を行えていた。


 トッテナムは複数のシステムを使いこなし、さらに監督の指示なしに状況によってそれぞれが最適解となる配置に修正していく。それも、1人として欠けることなく、全員がシンクロしているように対応していく。中でも、「4−4−2」を試合状況に応じてダイヤモンド型、フラット型、ボックス型に次々と変幻自在に姿を変えていく様は、まさに未来のサッカーを感じさせた。マンチェスター・シティは言わずもがな。トッテナムとの準決勝で、トッテナムが中盤ダイヤモンド型でハメに行けばそれに対するポジショニング修正を行い、トッテナムがそれに気づいてフラット型の「4−4−2」に変更すれば即座にそれに対応するシティの選手たち。ピッチで戦っているのではなく上から試合を見ているんじゃないかと疑ってしまうような両チームの戦術適応能力の高さに驚かされた試合だった。リバプールも同様に、リバプール特有のウイングの外切りに対する相手の対抗策への対応ができていたし、PSG戦では試合の途中で即席の「4−4−2」を使って盛り返していた。そのPSGは戦術家トーマス・トゥヘルが可変式システムや相手に合わせた戦術を仕込み、また1つレベルアップした姿を見せてくれている。


 この「適応能力」というのは、今後のサッカー界のキーワードになるかもしれない。コーチングスタッフや上空から見下ろす分析スタッフがどんな小さな問題も見逃さず、ピッチ上で選手たちが次々と修正していく。両チームともに何度も何度も修正が繰り返され、凄まじい速さで試合が動いていく。


 だが、それと同時に、これだけ選手の戦術適応能力がアップするには、トップクラスの選手たちとはいえ、やはり時間が必要だということも、疑いようのない事実であった。それは、今季CLで上位に入ったチームのメンバーを見れば明らかだ。

ファイナリストに見る、「分かり合える」優位性

CLファイナリストたちは在籍年数が長く、「分かり合える」優位性を持っていた
CLファイナリストたちは在籍年数が長く、「分かり合える」優位性を持っていた【写真:ロイター/アフロ】

 実は決勝に進んだリバプールとトッテナムのプレミア勢、この2チームにはある共通点がある。監督と選手の在籍年数が長いという点だ。ベスト4に入ったバルセロナとアヤックスも、選手の在籍年数で言えば長いチームだ。ちなみに、去年のレアル・マドリーも、CLを3連覇した最初の年である15−16シーズン決勝のスタメンと、最後の17−18シーズン決勝のスタメンを比べた時、2人しか代わっていない。


 マウリシオ・ポチェッティーノ監督は今季で5シーズン、ユルゲン・クロップ監督は4シーズンを過ごしている。監督が頻繁に代わる現代のサッカー界では、長期政権と言えるだろう。選手を見てみると、リバプールは決勝のスタメン11人にうちGKアリソンを除けば新加入は1人(ファビーニョ)のみ、半数は3年以上在籍している。トッテナムを見てみると、さらに顕著だ。なんと、決勝のスターティングメンバーに名を連ねた11人の平均在籍年数は5年を超えていた。最も在籍年数が少ないのがムサ・シソコで3年、他選手はなんと5〜7年もの間トッテナムに在籍しているのである。半年で移籍というケースですら当たり前になってきた中で、これははっきり言って異常なレベルの在籍年数の長さだ。


 サッカーとは不思議なスポーツで、プレーしたことのある人には分かると思うが、戦術やら組織やら個やらとは別に「分かり合える」「息がピッタリ」という優位性がある。これは何とも説明しにくく、言語化できないものなのだが、長く一緒にプレーしていればしているほど「分かり合える」し「息が合う」ようになるものだ。それは、そこらの草サッカーでも世界トップレベルでも同じだ。即席で集まったチームより「分かり合える」チームの方が、化学変化が起きやすく、チームが生き物のように一つになりやすい。戦術的適応能力が高く、監督が何か指示を出すのではなく、誰かがリーダーシップを取るのでもなく、ピッチの中で次々と変更と修正を繰り返し、適切な戦い方を誰一人欠けることなく選べる理由も、長い間ずっと一緒にプレーしてきたからこその「分かり合える」優位性があるからだろう。そしてこの優位性は、現代の「足りなければ買う」「いらなければポイ」というマーケット中心に回るサッカー界の今後に一石を投じることになるのかもしれない。


(文:林舞輝/奈良クラブGM)


※本記事(写真を除く)は『月刊フットボリスタ 第70号 18-19欧州総括特集』(ソル・メディア)からの転載です。

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