コパ・アメリカ2019連載

「ここでやれるところを見せないと」板倉滉は危機感を胸にコパ・アメリカへ

飯尾篤史

出場機会を得られなかったのは力不足と認める一方で、板倉には納得いかない気持ちもあるという 【佐野美樹】

 日本のサッカーファンを驚かせた2019年1月のマンチェスター・シティへの電撃移籍。その後、経験を積むため、フローニンゲンに期限付き移籍した若者を待っていたのは、出場機会を得られない苦境だった。悔しさを胸に秘め、トレーニングで精進する日々。だからこそ、「試合に出たくてウズウズしている」と板倉滉は言う。悔しさをコパ・アメリカでぶつけるつもりだ。

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1試合も出られなかったのは想定外

――今年1月にイングランドのマンチェスター・シティと契約を結び、その後、オランダのフローニンゲンに期限付き移籍して、半年を過ごしました。残念ながら出場機会を得られませんでしたが、それはある程度想定内だったのか、それとも、思っていたよりも厳しい状況だったのでしょうか?

 まったくの想定外ですよね。自分としては、もっと試合に出られると思っていましたから。最初の頃はまだしも、次第に慣れてきたので、終盤にはやれる自信があったんです。だから、なんで使ってくれないんだ、っていうのが正直は気持ちで。

――監督は板倉選手のことをあまり見てくれなかったそうですね。

 最初の頃、そう感じたのは確かです。ただ、監督のせいにしてるわけじゃなくて、自分がそう感じたということです。だからある日、監督に言ったんです。「なんで、使ってくれないんですか」って。そうしたら「お前のことをまだ、よく知らないんだ」って言われて、それもそうだなって。
 結局、半年もいて一度も使われなかったのは、自分の力不足だし、監督に自分のことを使いたいと思わせられなかったわけなので、悔しいですね。でも、一度でも使ってくれれば、やれる自信もあったので、納得いかないというか、なんでだよ、っていう気持ちもありましたね。

――異国の地に飛び込み、そんな状況になってしまって、心が折れそうになることありませんでしたか?

 つらかったですよ。こんな状況になったのは、初めてでしたから。イライラしたり、ストレスが溜まったこともありました。そんなときは、両親や友人と電話で話してリラックスしたりしましたけど、結局、サッカーのことはグラウンドで解決するしかないんですよね。だから、とにかく悔しさを練習でぶつけました。この経験がいつか生きる日が来るといいなって。

――チームメートに堂安律選手がいるとはいえ、孤独を感じることもあったのでは?

 本当にそうで。フローニンゲンって田舎なので、練習が終わって家に帰ってきたら、夕食まですることがないんですよ。だから、天気が良い日にはベランダに出て、音楽を聞きながら、自分を見つめ直すというか、物思いにふけったり。今まで、そんなことしたことがなかったんですけどね(笑)。
 もっとやらないとヤバいなとか、どうしたら試合で使ってくれるだろうかとか、サッカーのことを考えて。夜もすることがないから、サッカーを観ることが増えました。向こうでは、チャンピオンズリーグとかをリアルタイムで観られますから。

殴り合いのケンカも、練習後は後腐れなく

チームとして筋トレの量が多く、板倉自身も積極的に身体作りに励んでいる 【Getty Images】

――ちょうど、夕食後くらいの時間に。

 はい。実は日本にいた頃、あまり観てなかったんですよ。え、もう決勝? どことどこがやるの? っていう感じで(苦笑)。好きなバルサの試合でさえ、たまに観るくらいだったんです。でも今は、チャンピオンズリーグを観るようになったし、シティのことも気にしていますね。

――チャンピオンズリーグのベスト8まで勝ち上がり、プレミアリーグで優勝を果たすようなクラブが自分のことを評価してくれた。それは、大きな自信になったり、苦しい時期に心の拠り所になったりする?

 いや、それは特にないです。もちろん、欲しいと言ってくれたことは、すごくうれしいですけど、今、シティでプレーしているわけではないし、オランダで試合に出ていないのに、シティに戻れるわけがない。だから、早く試合に出ないと、っていう感じです。

――サンフレッチェ広島の松本泰志選手が3月のU-22日本代表のミャンマー遠征のあと、「滉くんは、球際がめちゃめちゃ強くなっていた。ビックリしました」と言っていました。

 守備に関しては、自分でも成長したかな、と思います。監督もチームメートも球際での戦いについて、すごく言うんです。そこで負けるのは許されない、という感じで。今までもこだわっていたつもりですけど、さらに意識するようになりましたね。
 それに、チームメートも当たりが強いですからね。自分より小さな選手に吹っ飛ばされたときは、ショックでしたね(苦笑)。黒人選手なんですけど、脱いだら、いい身体しているんですよ、分厚くて。チームとしても筋トレの量が多くて、シーズン中もかなりやるんです。自分も必要だなと思って、取り組むようにしました。

――トレーニング中もバチバチやり合うそうですね。まるでケンカのように。

 そうなんです。実際、ケンカにもなりましたし。殴り合いになったり。

――板倉選手が?

 僕もやりました。それこそ馬乗りみたいな感じですよ。

――練習中に?

 練習中に、です。僕が普通にボールをカットしたら、足を蹴ってきたんですよ。それでカチンときて。もともとその選手は、僕が日本人だからって、ナメていたんです。だから、次のプレーで僕が思い切り行ったら、その選手がキレて。

――堂安選手も、最初の頃はナメられた、と言っていました。

 そう。日本人のことをナメてくるんです。だから、いつかやってやろうって(笑)。でも、後腐れないというか、ケンカは練習中だけ。練習が終わったら、何事もなかったかのようにフランクになる。そういう関係もまた、いいんですよね。

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著者プロフィール

東京都生まれ。明治大学を卒業後、編集プロダクションを経て、日本スポーツ企画出版社に入社し、「週刊サッカーダイジェスト」編集部に配属。2012年からフリーランスに転身し、国内外のサッカーシーンを取材する。著書に『黄金の1年 一流Jリーガー19人が明かす分岐点』(ソル・メディア)、『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』(講談社)、構成として岡崎慎司『未到 奇跡の一年』(KKベストセラーズ)などがある。

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