W杯後の批判を受け止め…今、優勝は絶対 創造性を取り戻すべく、セレソンの変化
中盤のクリエイティビティを求めて
中盤のクリエイティビティを求め、アルトゥール(中央)らを起用 【写真:ロイター/アフロ】
「レナト・アウグストをけがで失ってチームが大きくバランスを欠くようになった際、その再構成ができなかった」
そのため、試合ごとに選手やポジショニングなど中盤に少しずつ変更を加え、選択肢を増やしながら創造性の向上を目指している。
「コウチーニョは試合を読めるし、攻撃を組み立てられる。相手の攻撃をカットできるし、フィルターの役割もできる。明確なパスも出せる。創造力もある」
その上で、彼とコンビを組む中盤の選手と、そのコンビネーションのバリエーションを増やすことは、親善試合での試みの軸の一つになっている。
「パケタは成長途上だが、司令塔ができる。アルトゥールは攻撃的MFもボランチもこなせる。レナト・アウグストも完全復活しつつある」
その分、守備ではW杯組を多用し、新メンバーをその中に組み込んでみるというふうに、安定を維持しながら慎重なプロセスで進めている。
ゴールにアシスト、チャンスメークとネイマールの好調ぶりを軸に、「4−1−4−1」もしくは「4−3−3」を基本として、大きく崩れることなく18年の6試合をこなした。しかし、「やはりネイマール頼みなのか」という声が出たのは、彼をけがで欠いた今年3月の親善試合。パナマ戦では徹底的に引いて守りを固める相手を攻めあぐね、1−1で引き分けた。
チェコ戦でも、0−1とビハインドを背負った。ただし、後半にパケタ、リシャーリソン、コウチーニョに代え、エベルトン、ダビド・ネレス、ガブリエウ・ジェズスを投入したことでチームの動きはスピーディーになり、軽快なパスワークやドリブルで自由奔放な戦いぶりを展開、3−1で試合を終えた。「チッチがコパ・アメリカでの戦い方の選択肢を増やした」と評価された。
今大会に向けたメンバーは、ビニシウス・ジュニオール(レアル・マドリー)やダニエウ・アウベスのように、この3月にけがで招集できなかった選手をどうするかなど、予想するのが難しい。4月下旬から5月上旬にかけて、チッチと技術スタッフがブラジル国内や欧州、中国に分散して、選手たちの最新のコンディションを確認した後、決定される。
ネイマールも進歩、したはずだった…
キャプテンに固定されたネイマール。進歩したはずだったが… 【写真:ロイター/アフロ】
W杯で批判された彼を盛り上げるためではないかという意見もあるが、チッチは「ネイマールは技術的なリーダーだった。今は1人の選手としても確かなレベルに達し、もう一歩先に進むコンディションができた」と理由を説明。ネイマールも「今はこの役割を担えるようになったと思う」と語り、報道陣にもチームの代表としてきちんと発言するなど、自覚ある姿勢を見せている。一方で、キャプテン持ち回り制の効果は今も続き、代表経験の豊富な選手たちはそれぞれの形でチームやネイマールを支えている。
ただし、現地時間4月27日、フランスカップ決勝でのPSG敗戦後、ネイマールがサポーターに挑発され、殴ってしまうという事件が起きた。2月末に1年前と同じ右足小指を骨折した後、2カ月ぶりに復帰したばかりの中での出来事。チッチにとっては頭が痛い。
開催国の責任もある。しかも、国内にはやはり自国開催だった14年W杯の、ドイツ戦1−7の記憶も、いまだ濃く残っている。チッチは選手たちとともに、そういう雰囲気とも共存しなければならない。ブラジルサッカー連盟(CBF)会長は、「コパ・アメリカの結果がチッチの去就に関わることはない」と明言しているが、結果次第ではメディアや世論は黙っていないだろう。
選手たちも、ここで答えを出すことが今後の代表人生を大きく左右することを分かっているだけに、みんなが招集を待ち焦がれ、優勝に貢献したいと願っている。ネイマールがその思いを代弁していた。
「W杯で敗れた僕らはみんな、早くもう一度W杯を戦いたい、そして勝ちたいと、苦しいほどの思いを抱いている。でも、もし今、良い仕事をしなければ、誰もW杯まで到達できない。だから、今が大事なんだ。今とは、親善試合の一つひとつ、そしてコパ・アメリカ優勝だ」
(文:藤原清美)
※本記事(写真を除く)は『月刊フットボリスタ6月号』(ソル・メディア)からの転載です。