「アジア枠」の導入がもたらしたもの 新生Vリーグを振り返る<競技力編>

田中夕子

「日本代表の強化」にプラスはあったのか

アジア枠の採用は、日本代表の強化につながったのだろうか 【写真:森田直樹/アフロスポーツ】

 世界のトップに立つ選手たちがもたらしたものが大きくある一方、前述の「アジア枠」が競技力向上の一員を担ったのは確かだ。

 中国、韓国、台湾が含まれずASEAN加盟国のみに限られる女子は対象がタイ、フィリピンの選手にとどまり、まだまだアジア枠を活用するチームは少なかった。一方男子はJTに中国の劉、東レにミャンマーのアウン・トゥ、大分三好ヴァイセアドラーにフィリピンのマーク・エスペホ、パナソニックに台湾の陳建禎など、各国の代表選手が在籍した。

 アジアの強豪と言えばイラン、オーストラリア、中国、韓国などを想像しがちだが、カタール、インド、台湾などアジアの力関係を描く縮図は昨今、変化を見せている。前述の3選手はシーズンを通して主軸を担い、攻撃力だけでなく守備力の高さも発揮。東レの小林敦監督、JTのヴェセリン・ヴコヴィッチ監督、大分三好の小川貴史監督は「(アジア枠が)大きな戦力であるのは間違いない」と口をそろえた。

 とはいえ、アジア枠を採用し「競技力向上」を掲げる先には当然、リーグの発展だけでなく、日本代表の強化につながるべきであり、そうでなければならない。アジア枠を主軸に起用した各チームで、それぞれの選手が成果を残せば、2枠が外国人選手に占められることで、出場機会を失う日本人選手もいる。

 それでも各々がモチベーションを保ちながら日々鍛錬し、虎視眈々(こしたんたん)とチャンスを待ち、そのための準備を重ねるということ自体に変わりはない。だが、試合に出場しなければ得られない成果や課題は多くある。特に20代前半の若い選手が何年も出場機会を失うのは、日本代表の強化という面で考えれば必ずしもプラスとは言い難い。選手として出場機会を求めるならば、これまで以上に移籍も活発になり、その選択肢は国内だけでなく国外へも広がるのは当然の流れだ。

新生Vリーグの真価が問われるのはこれから

 世界のトッププレーヤーや、アジア枠の選手、外国人指導者や海外で経験を積んだ指導者も増えた結果、どれほど優れたトッププレーヤーがいようと個の力で勝てるほど容易いものではなく、高度な戦術やその遂行能力がなければ勝利を挙げることはできない。その観点で見れば、確かにVリーグのレベルは上がった、と言えるだろう。

 とはいえナショナルチームに目を向ければ、現段階ではVリーグでの新たな試みが競技力向上につながったか、といえば決してイコールではない。真の意味でVリーグでの競技力向上を果たすために、どんな意識を持つべきか。JTでベスト6に選出され、日本代表にも名を連ねるミドルブロッカーの小野寺太志はこう言った。

「日の丸をつけて戦う時は世界を相手に戦わないといけないので、アジア枠はもちろん、クビアク選手やムセルスキー選手のように、世界トップレベルの選手と日本で戦って、肌で感じられるのはすごく大きい経験です。

 アジア枠をどう使うかはチーム次第だと思いますが、(劉)リービンは歳も1つ上で、これから中国代表でも大きな存在になる選手で、ライバルです。そこでどう対応するか、一緒に戦ったことで弱点も見えたし、同じコートでプレーできたからこその経験をこの先につなげたいです」

 新生Vリーグの真価が問われるのは、これからだ。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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