羽生結弦が好敵手・チェンから受けた刺激 追いつくには「練習しかない」

沢田聡子

2015年NHK杯を思い出させる熱狂

フリーで今季世界最高得点(演技終了時点)を記録するも、2位に終わった羽生。ただ、その場の空気を支配する力は健在であった 【写真:坂本清】

 羽生結弦がフリー“Origin”を滑り終えて手を突き上げると、記者席でもスタンディングオベーションが起こった。

 世界選手権のフリー、羽生は最終グループの4番目に登場した。冒頭、ショートが終わってからの公式練習で何度となく跳んできた4回転ループを成功させると、大きな歓声が羽生を包む。続いて4回転サルコウを跳び、膝を深く曲げながらも着氷。4回転サルコウを除き、羽生にしかできない連続ジャンプである4回転トウループ+トリプルアクセルを含む全てのジャンプ、そしてその他のすべての要素に加点が付いた。

 その結果、フリー・合計の両方でその時点での今季世界最高得点を出したが、このフリーの価値は数字だけでは表せない。さいたまスーパーアリーナの空気を支配し、一体にする五輪王者にしか出せない熱気がそこにあった。羽生を中心にして渦を巻くような熱狂は、2015年長野で行われたNHK杯でフリー“SEIMEI”を滑り、当時の世界最高得点を出した時の会場・ビッグハットの空気を思い出させた。

チェンが語る『くまのプーさん』が象徴するもの

圧巻の演技で世界選手権2連覇を果たしたチェン。彼が語ったのは羽生のファンが投げ込む『くまのプーさん』のことだった 【写真:坂本清】

 羽生のファンによって投げ込まれた『くまのプーさん』のぬいぐるみがたくさん転がるリンクに、SP1位のネイサン・チェン(米国)が入る。チェンは、記者会見で次のように振り返った。

「結弦と日本で競技ができたことは非常にうれしく、当然彼が演技をすれば客席は総立ちになるだろうと、電気が走るようなしびれる雰囲気になるだろうと思っていました。幸い今日は『くまのプーさん』もリンクの片側に寄っていたので、私もウォーミングアップがしやすかったです。日本のお客さんが私たち選手をどれだけ思っているか、またスケートをどれだけ愛しているかは、実は氷を埋め尽くしている『くまのプーさん』が表していると思います。彼らの情熱が象徴されていて、それを見ると感動しています」

 チェンは会場の熱い空気にのまれることなくクールに滑り切り、4本の4回転をいずれも加点のつく出来栄えで成功させて、フリー・合計の両方で羽生の出した今季世界最高得点を即座に更新した。チェンが連覇を果たし、羽生は2位となった。

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著者プロフィール

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

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