東京マラソン自己ベストチャレンジ ー2時間40分切りを目指してみたー
【写真:長田洋平/アフロスポーツ】
この大会で僕は2時間40分切りのチャレンジをした。
それまでの自己ベストは2018年11月26日に行われた大阪マラソンで出した2時間44分10秒。
そこから4分以上タイムを縮める必要があり、かなり厳しい目標ではあった。
自己ベスト更新のために選んだシューズは…
このシューズの力を最大限に発揮するために下記を実施した。
・体幹トレーニングをして、なるべく前傾姿勢で走れるようする。
・ふくらはぎ、すねの筋肉を鍛えるための補強運動を行う。
・ヒールストライク走法からミッドフット走法に変更する。
大阪マラソン後からこの3つを意識して、さらには大好きなお酒もマラソン前1週間(短い期間だが)から断ち、過去最高の状態で当日を迎えることができた。
今回レースで使用したナイキ ズーム ヴェイパーフライ 4% フライニット 【スポーツナビDo】
東京マラソン当日
これはもう記録を狙うための条件が整いすぎている、そう感じていた。
ところが当日朝の天気予報では朝から雨の予報に変わっていた。。。
できるだけ好位置でスタートしたいため、スタート時間の約1時間40分前からスタート地点で待つことを決めていた僕は、とにかくスタート前には降り出さないで欲しい、そう祈った。
そんな願いもむなしく7時過ぎには降り始め、しかも止む気配も全くなかった。
GATEオープンの7時前。既に多くのランナーがゲート前に並んでいた 【スポーツナビDo】
ここであまり体力は使いたくなかったが、ついつい周りにつられてダッシュ。
レースはここから始まっているのだ。
Bブロックの3列目と好位置につけることができた。
ここからが苦行の始まりだ。
雨でせっかくのヴェイパーフライがぬれないようにジャージを下にずらしてシューズを覆い、体育座りで小さく丸まって待った。
ずっと座っているとお尻が痛くなるので、時おり立って待つ。
それの繰り返し。。。
座布団をもってきているランナーもおり、準備のよさの違いを見せ付けられた。
レースは既に始まっていると書いたが、この1時間40分は自分の気持ちとの戦いだ。
こんなコンディションではせっかく頑張ってトレーニングを積んできたのに、それが発揮できない。。。いや、コンディションに左右されないくらいのトレーニングは積んできたはずだ。。。
強気な自分と弱気な自分を戦わせる。
もちろん、強気な自分を無理にでも勝たせるしかない。
スタート前に気持ちがこんなに疲れたのは初めてだったが、それでもスタート5分前に招待選手が紹介されると、僕だけでなく周りもテンションがあがってきたようで、一気に気持ちもレースモードに切り替わる。
いよいよスタート
30秒前……
自分の鼓動が聞こえそうなくらい気持ちが高ぶっている。
そして、いよいよスタート。
気持ちの高ぶりとともに一気に駆け出したいところだが、もちろん前にはAブロックのランナーがいるのでスタート地点通過までに27秒を要した。
1時間40分並んだ甲斐があり、なんとか27秒のロスで済ませることができた。
フルマラソンは最初の5キロが非常に大事になってくる。
ここで調子よく飛ばしすぎると必ずと言っていいほど30kmを超えてから足が動かなくなる。
とはいえ、スタートに27秒かかり、かつ前には大勢のランナーがいるので最初の1km〜2kmは思ったペースで走れない。どうしてもペースが上がってしまう。
都市型マラソンには付き物だが、何回経験しても慣れない。
ランナーの間を縫って走ったこともあり、最初の1kmは3分53秒。
ちなみに3分47秒/kmで走るとぎりぎり2時間40分を切れる。
いきなり6秒のロスは大きいとあせった僕はついついペースアップ。
2km、3kmを3分42秒で走りなんとか最初の1kmの遅れを取り戻した。
このくらいの距離まで走ると自分のスペースもとることができて走りやすくなる。
気持ちも落ち着いてきて余裕も出てくる。
すっかりヴェイパーフライを履いていることを忘れていたが、このシューズは接地するときの音が「ポス、ポス」と鳴り、独特な感じがする。それまで履いていたシューズは「タン、タン」と鳴る。この音の感じ方は、もちろん個人差はあると思うが、これだけでもなんだか足が守られているように思えてきた。
5kmの通過が18分46秒。5km毎のラップは18分30秒〜18分55秒を目安にしていたので、良い感じだった。
これまでのフルマラソンではもちろん走ったことのない速いペースであったが、呼吸にも余裕があり、もちろん足にもまだ余裕があったので、このペースを維持して走ることを心がけた。
この間、というかレース終了までずっと雨は降り続いていたが、それほど気にはならなかった。他のランナーが水溜りに突っ込みその跳ね返りでシューズが濡れたりすることが多少ストレスにはなったが、そもそもシューズはもう濡れているので仕方ない。
東京マラソンはとにかく沿道の応援が多く、背中を後押ししてくれる。
知り合いだけでなく知らないランナーも全力で応援してくれる人たちの中を走ることができるのは幸せなことだ。
特に雨が降り寒い中で応援してもらえることにただただ感謝した。
もちろん、知り合いの応援はさらに力になる。
事前にこのポイントで応援してくれていると知っていたので、そこを目標に走ると距離もそれほど長く感じない。
フルマラソンは42.195kmを細切れにして小さな目標を積み上げることが大切だと感じている。
10km、15kmのそれぞれの5kmのラップも設定内でおさめることができた。
本来東京マラソンはコースを楽しんで走るものだが、記録を狙っていたためさすがに景色を見る余裕がなく、自分が東京のどこを走っているのかよくわかっていなかった。
そして、いよいよ中間点。
ここが一つ、その日の調子をはかるポイントだ。
調子が悪い時はこの時点で足が重いのだが、この日はその重さも感じることなく、まだまだ力が残っているのを感じた。
ペースを上げようと思えば上げることができそうであったが、フルマラソンは30kmを超えてからとよく言われているように、まだまだ先には大きな壁があるので、気持ちを落ち着けてそれまで通りのペースで走ることを心がけた。
足が最後まで持つのかドキドキしながら走った 【スポーツナビDo】
レース終盤に待ち受ける最大の壁
これまでのマラソンだとこの距離の前後で足を攣(つ)ってしまっていた。
また今回もそうなるんじゃないのか。。。弱気な自分が出てきてしまう。
フルマラソンは一度気持ちが折れてしまうと立て直すことが難しい。
ここでも何とか強気な自分を無理やり勝たせて、というか足のことは頭から追いやってとにかく周囲のランナーの様子に意識を移した。
この距離になってくると疲れているランナーも増えてきており、追い抜く人数も増えてくる。
自分はまだ走ることができている、それを自信に変えて走った。
35kmまでの5kmも18分44秒と設定の範囲内。
30km以降タイムが落ちることが多い僕にとっては上出来だった。
指の付け根辺りで地面をける時にヴェイパーフライが足を押し出してくれるような感覚があり、推進力を生み出してくれており、タイムを維持できていたのだと思う。
35kmの方がさらに大きな壁になる。
正直、これを上りきるだけの走力は僕にはまだない。
なので壁に押しつぶされないように耐える時間帯が続くことになる。
このたった残り7kmが本当にきつくて、いつもフルマラソンはもう走りたくないと思ってしまう。
そういう意味ではフルマラソンの醍醐味はこの7kmに凝縮されているといっても過言ではない。
36kmの1kmは3分49秒。設定していた3分47秒を超えてしまった。
ペースをあげているつもりでもあがらない。むしろ落ちていく。
肉体的にも精神的にもつらくなってくる。
37kmをすぎると残り5kmの表示が出てくる。ここで時計を確認すると1km4分のペースで走れば2時間40分は切れることがわかった。
ただ、この余裕のない状況では1km4分で走るのもハードルが高い。
まだ2時間40分切りは確実とはいえなかった。
とにかく1km4分を超えないことだけを意識して走った。
知り合いから応援を受けてもまともにこたえることができない状態で申し訳なく思いつつも、とにかく目標のタイムを切ることが応援にこたえることだと、時間とだけ向き合うことにした。
40kmを通過。2時間30分45秒。
残り距離から考えて、これならいける!ここでようやく2時間40分切りを確信した。
とにかく早くゴールしたい。そしてほっとしたい。気持ちはどんどん前にいくけれども、体がついてこない。
もどかしい。
42kmを通過して最後の曲がり角をまがると待ちに待ったゴールが目に入ってきた。
感動して涙が流れるんじゃないかと思っていたけれども、とにかく良かった、目標が達成できるという安堵感の方が大きく、穏やかな気持ちになった。
気になるタイムは...
グロス:2時間39分41秒。ネット:2時間39分14秒。
グロスでも2時間40分を切ることができて本当に良かった。スタート前の1時間40分の苦行に耐えた甲斐があったと思った。
走り終えて自分の腕時計をみて、やりきったんだと達成感がじわじわと涌いてきた。
フルマラソンで目標を達成した時に感じるこの「じわじわ感」がたまらなく好きだ。
これまでのきつかった練習も禁酒も全てこのじわじわ感と入り混じって感動に変わっていく。
フルマラソンはもう走りたくないと残り7kmでは思ってしまうが、このじわじわ感を味わっていると、さらに高い目標を立てたくなる。
次は2時間35分切りを目指して、またトレーニングに励みたい。
(文:平野賢/スポーツナビDo)
35km以降が本当にきつかったけれども、粘って目標達成! 【スポーツナビDo】
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