厚底vs.薄底 東京マラソンで履くならどっち? 箱根ランナーたちに聞くリアルな履き心地 ―ナイキ編―

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【写真:日本スポーツプレス協会/アフロスポーツ】

 最近の陸上長距離界では厚底シューズが話題を集めていますが、薄底シューズも負けてはいません。シューズメーカー各社がしのぎを削り、最先端の技術を駆使した最新モデルが次々とリリースされています。

「東京マラソンでどのシューズを履くべきか……。どれも良さそうでわからない!」と悩んでいるみなさんへ、実際に各社のシューズを履いて箱根駅伝を走ったランナーたちの生の声をお届けします。

 今回は、今年の箱根駅伝8区で区間新記録を達成した小松陽平選手(東海大学)、2年連続で1区区間賞を獲得した西山和弥選手(東洋大学)、そして駒澤大学の5区・伊東颯汰選手、7区・小島海斗選手を直撃。今、陸上長距離界を席巻しているナイキの「ナイキ ズーム ヴェイパーフライ4%」の、リアルな履き心地を聞きました。

走っていて楽しくなるようなシューズを選ぶべき

【スポーツナビDo】

――レース用シューズを選ぶポイントは?

小松 僕は走りやすさはもちろんですが、軽さやフィット感も含めて、自分に一番合っているシューズを選べるかどうか。最近人気の厚底シューズということで、箱根を走るのだったらこのシューズしかないなと思っていました。

――実際に履いて走ってみた時の感触は?

小松 大迫傑選手も履いているシューズなだけあって、実際に自分も履いてみて、スピードも出ますし、本当に走りやすいなと。クッション性も優れていて、これまで履いてきたシューズとは明らかに違う感覚でした。実際に履いてみる前までは、「言うほど変わらないだろうな」と思っていたんですけど、履いてみたら「これは違う!」と。どんどんスピードが出るので衝撃でした。

――タイムはどれくらい伸びましたか?

小松 「ヴェイパーフライ4%」を使う前は、ハーフマラソンで1時間4分5秒が自己ベストだったのですが、その時の状態やコンディション、自分の調子の影響もあるかと思いますが、このシューズを履いて、58秒も短縮し、1時間3分7秒という結果を残すことができました。でも何よりも、今年の箱根駅伝8区で区間新記録という結果を残すことができて、自分の努力ももちろんですが、このシューズに助けられたところも多かったかと思っています。

――スピードが出るということですが、ついハイペースになってしまいませんか?

小松 とにかく速く走り切ることが僕らの目指しているところなので、速く走れることに越したことはないと思っています。「大は小を兼ねる」というか。

――普段のシューズの使い分けは?

小松 僕は練習メニューによってシューズを履き替えています。また、僕はまったく同じシューズでも「ここは狙いたいな」という大会本番には新品のシューズを使っています。やっぱり新品で、きれいなシューズの方が気持ちいいですし、テンションも上がりますね。1000〜2000メートルくらいの距離を走る「刺激練習」の時に一回だけ履いて、そのシューズを使って本番を迎えます。箱根駅伝はもちろんですが、「本当にこの大会は」という時ですね。


――「ヴェイパーフライ4%」に履き替えることで、フォーム修正の必要性は?

小松 僕の場合ですが、特にフォームを変える必要はありませんでした。最近流行りのフォアフット走法を練習している人をはじめ、この厚底シューズは、いろんな人のフォームにあっていると思います。実は最近、自分の兄も「ヴェイパーフライ4%」履いているそうで、兄はこれまでまったく陸上をやってこなかった一般ランナーなんですが、それでも「スピード出たわ〜。走りやすい!」と言っていたので(笑)。

――上り坂、下り坂の走りやすさは?

小松 箱根駅伝の8区は比較的平坦なコースですが、「遊行寺の坂」という1キロくらいの上り坂が難所と言われています。上り坂でも問題なく、すいすいと登ることができました。下り坂ではこのシューズの特性を活かして、さらに速いスピードで走れると思います。「ヴェイパーフライ4%」は、反発力とクッション性の両方を実現しているところがスゴイですね。

――最後に一般ランナーに向けて、シューズ選びのアドバイスを。

小松 走りやすさはもちろんですが、デザイン性や見た目も結構大事だと思います。箱根駅伝ではテレビに映るのでかなりデザインは意識しますが、一般ランナーの方は、走っていて楽しくなるようなシューズを選ぶべきじゃないかなと思います。

シューズに合わせながら自分も進化していくことが大切

【スポーツナビDo】

――「ヴェイパーフライ4%」を最初に履いた時の率直な感想は?

西山 見てもらえばわかると思いますけど、パッと見てソールが厚いですよね? 「これ本当にレースシューズなのかな」って。実際に履くと、こんなにソールが厚いシューズなのに、すごく軽いし、最初に走った時は「トランポリンが中に入っているのでは?」という感じ(笑)。パンパン跳ねるし、グングン前に進むし、本当に画期的なシューズだと感じました。

――実際に「速く走れている」という感覚がある?

西山 昨年に初めて箱根1区で区間賞を獲った時は、感覚的にはいつも通りに走っていたので、後ろの選手が離れているとは思っていませんでしたが、六郷橋の下りから自分でもビックリするくらいのスピードが出ていて、後ろが離れていました。それが昨年の感覚でしたが、今年は「ここでスパートしよう」と意識していました。今年の1区は、選手の半数近くが「ヴェイパーフライ4%」を履いているんですよ。そう考えると、今年は強い選手も「ヴェイパーフライ4%」を履いていたので、そのなかでも2年連続で区間賞を獲ることができて満足しています。

――スピードが出るということですが、ついハイペースになってしまいませんか?

西山 ポンポンと前に進むので、一般ランナーの方はどんどんペースを上げようと思うかもしれませんが、そこは一歩引くのも大切かなと。やっぱり勝負は最後の10キロとか15キロなので。前半はペースを抑えて、最後に勝負をかけることも大切だと思います。勝負所で力を出すために、わざと体を重くして練習をしてみたり、今までは本番の4、5日前から練習を落としていたのを2、3日前にしてみたり、このシューズを履くにあたっては、そういった工夫や調整もポイントかなと思います。

――長い距離を走った時の疲労感は?

西山 このシューズを履きこなせているなと思えた時は、ペース維持、ペースアップの幅も全然違います。どんどん前に進みますし、疲れなく20キロを走ることができました。昨年、今年もそうですけど、箱根駅伝を走り終えた後でも全然疲れなかったんですよ。「まだまだ行けるよ」というくらい。それもこのシューズの良さかなと思います。

――「ヴェイパーフライ4%」に履き替えることで、フォーム修正の必要性は?

西山 僕の場合は、ものすごくありました。大学1年の時の出雲駅伝で初めて「ヴェイパーフライ4%」を履いてレースに出ましたが、まだ対応し切れていなくて区間5位という結果でした。上に跳ねてしまい、このシューズの特性を生かして走ることができなかったんです。2〜3カ月ほど掛けて、昨年の箱根駅伝で区間賞を獲れた時にやっと慣れたなと思いました。このシューズを履きこなすにあたっては、上半身を上手く使う必要があると感じています。普通に考えると、走る時って足を使うものじゃないですか? でも大切なのは、上半身をしっかりと使って全身で走ることだと思います。東京マラソンではたくさんの市民ランナーの方も走ると思いますが、42.195キロを足だけで走るときついし、絶対に苦しい。だからしっかり腕を振って、全身を使う必要があります。これは本当に大事かなと思います。

――「ヴェイパーフライ4%」を履きたい一般ランナーに向けてアドバイスは?

西山 「ヴェイパーフライ4%」はすごく話題になっている注目のシューズだと思います。ただ、僕が大切にしているのは、速く走るために「シューズに助けてもらう」のではなくて、このシューズに「自分自身を合わせていく」ということなんです。自分の力とこのシューズの力が掛け合わさった時に、とてつもないパワーが生まれるのだと思います。このシューズはフォアフット走法の人が結果を残しやすいと言われていますが、一般ランナーの方はかかとから接地する人がとても多いと思います。そこで、少しずつ走り方を修正していくとか、かかとから接地しても走れるフォームを試してみるとか、今までよりも少しだけ筋トレを増やしてみるとか、シューズに合わせながら自分も進化していくことが大切だと思います。

――最後に、デザインはいかがですか?

西山 カッコいいです(笑)。ナイキですからね。カッコいいとテンションが上がりますね。僕らにとってユニフォームやシューズは会社員の方のスーツのようなもので、公の場に出ていくにあたっての、きちんとした「身だしなみ」なんです。その点でも、「ヴェイパーフライ4%」は最高のシューズだと思っています。

遊び心でシューズを選んでもいい、その方がかえって長続きする

シューズの魅力を語ってくれた小島海斗(写真左)と伊東颯汰の駒大コンビ 【スポーツナビDo】

――レース用シューズを選ぶポイントは?

伊東 僕はいろいろと重視しているポイントがあって、まずは自分の足に合うか、合わないか。そして、走りやすさ。足が痛くならないかも重要です。シューズの中で、靴下とシューズの底がずれたり、踵がずれたりしないかという意味で、フィット感も大切にしています。

小島 僕は正直に言うと、デザインもありますが、今、みんな「ヴェイパーフライ4%」を履いているので、試してみたいという気持ちで履きはじめました。

―― 「ヴェイパーフライ4%」を選んだ決め手は?

伊東 やっぱり大迫傑選手も厚底シューズを履いて日本記録を更新していますし、エリウド・キプチョゲ選手(ケニア)もこのシューズで世界記録を更新しています。最近の実績を見ていると、厚底シューズの方が、長い距離を走るには適しているのかなと感じました。多くの実業団の選手にも選ばれているシューズですし、履いてみようかなと。

――「ヴェイパーフライ4%」を最初に履いた時の率直な感想は?

伊東 やっぱり反発性は他のシューズと比べても優れているなと感じました。一方で、シューズの性能に頼り切ってしまわないか、自分の筋肉を無駄に使わないという部分で、再度薄底に履き替えた時に自分の脚力をうまく使えるのか、という心配があったのも事実です。ちょっと蹴るだけで前にどんどん進むのですが、自分の筋肉をフルに使えているのかどうか、最初はいろいろと考えましたね。

小島 最初に履いた時は「足を置くだけで前に進む」と聞いていたので、その通りにやってみたら進まないので、少し戸惑いました。でも、ちょっと蹴るようにしたら、どんどん進んでいくので驚きました。すごくいいシューズなのは間違いないのですが、走り方によってダメージがある人、ない人がいるのかなと。蹴って上手く前に進める人にはダメージが残りにくいのですが、蹴りが上手くない人には太ももにダメージがくる印象です。

――「ヴェイパーフライ4%」に履き替えることで、フォーム修正の必要性は?

小島 僕の場合はありました。フォームというか意識付けの部分ですね。今までは足に結構力を入れて進んでいたのですが、「ヴェイパーフライ4%」だと変に筋肉を使ってしまう感覚があったので、膝下に力をまったく入れないイメージを意識しています。蹴りを速くするように修正しました。

伊東 僕は力を入れるのではなくて、地面に足を置いていくような走りを意識するようになりました。僕は5区の山登りでこのシューズを使うのは初めてだったのですが、前に進む力は薄いシューズよりはあったと思います。上りでは特に足を使うので、それで疲労して後半に伸びないこともあるのですが、しっかりと最後まで粘って走れたなと思います。

――実際に記録は伸びましたか?

小島 距離が長ければ長いほど伸びる印象がありますね。

伊東 僕は昨年の7月に履き始めて、自己ベストを更新することができましたが、他の大学の選手と比べてしっかりとタイムが出始めたのは11月頃でした。

――最後に一般ランナーに向けて、シューズ選びのアドバイスを。

伊東 まずは履きやすさが大切。自分の足に一番合うシューズを選ぶことから始めた方がいいと思います。でもわかっていただきたいのは、シューズがどうであれ、日頃の練習があってこそ結果がついてくるということですね。

小島 そこは僕も同じで、いいシューズを履けば速くなるわけではありません。ただ、一般ランナーの方は真面目にトレーニングをしている人もいれば、楽しく走りたい人もいるかと思いますので、「シューズで遊ぶ」ことも大事かなと思います。新しいシューズを買えばやる気も上がりますし、遊び心も持ってデザインで選んだ方が、かえって長続きするのではないかなと思います。

【写真:日本スポーツプレス協会/アフロスポーツ、スポーツナビDo】
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著者プロフィール

習慣的にスポーツをしている人やスポーツを始めようと思っている20代後半から40代前半のビジネスパーソンをメインターゲットに、スポーツを“気軽に、楽しく、続ける”ためのきっかけづくりとなる、魅力的なコンテンツを提供していきます。

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