「山の神」チャレンジ ー箱根駅伝5区を全力で走ってみたー
【スポーツナビDo】
そう答える人もたくさんいるだろう。
かく言う僕ももちろんそうだ。
中学生の頃、陸上部だった僕は当時本気で箱根駅伝を走ることを目標にしていた。
「高校は陸上の推薦で入り、結果を残して箱根駅伝強豪校に入る。
そして、箱根駅伝を走る。」
県で1位だった僕には推薦の話もきていたが、家族と話し合い、結果的に陸上の道はあきらめた。
県で2位だったライバルがその後、順調に記録を伸ばし、箱根駅伝を走っている姿を観た時は本当にうらやましかった。
人生に「たら・れば」はないので、そんなことを言っても仕方ないが、もし陸上を続けていれば・・・・・・
その頃の気持ちを今でも引きずっているということはないが、やはり箱根駅伝に対しては憧れがあるし、それを走ることができる選手は本当に尊敬している。
部活としての陸上は中学までだったが、その後も趣味で走り続け、今はフルマラソン2時間45分を切ることができるまでになった。
そんな僕が昔から憧れ続けた箱根駅伝を本気で走ったらどのくらいで走ることができるのか、自分自身に興味が涌いてきた。
現役の箱根ランナーは一体どんなスピードなのか。。。
自分との差はどれくらいあるのか。。。
これはもう走るしかない!
そんなところから今回のチャレンジは生まれた。
中学生の頃から憧れていた箱根駅伝。
あれから20年以上たった今、ようやくたどり着いた舞台。(勝手にだけど・・・・・・)
実際に走ってみて、感じたことを綴ってみようと思う。
いざ、スタート!
箱根駅伝の5区と言えば、今井選手、柏原選手、神野選手といった山の神が誕生している。
箱根の山を制するものが箱根を制すと言われる程、順位が大きく入れ替わる最も盛り上がる区間。
コース距離は大会毎に変化もしているが、現状は小田原中継所から芦ノ湖のゴールまで20.8km。
箱根湯本から最高地点874mまで一気に上り坂をかけあがる過酷な区間だ。
チャレンジしたのは、2018年12月30日(日)。
当日の気温は7℃。箱根の山頂付近では2℃程度しかなく、かなり寒くなるとの予報だった。
そのため、服装はロングTシャツの上にさらにウィンドブレーカーを着、タイツを履いてチャレンジすることにした。
シューズはNIKEのズームフライフライニット。
ちなみにチャレンジした当時の僕のタイム(2年以内の記録)は下記の通り。
フルマラソン:2時間44分10秒
ハーフマラソン:1時間16分25秒
このチャレンジの日は一緒に走る仲間が20名ほどいた。
本気で5区にチャレンジしたのはもちろん僕一人であったが。。。
他のメンバーには先にスタートしてもらい、15分遅れの午前9時05分にスタート。
本当は小田原中継所からスタートしたかったが、箱根湯本駅からのスタート。距離にして3km程度短い、17.8km。
一緒に走った仲間達 【スポーツナビDo】
スタート前の様子 【スポーツナビDo】
それでも、まだ緩い上り坂程度なので、軽快に走る。
感覚的には1km、3分台で走っているつもりだった。
函嶺洞門を過ぎたあたりで1km通過。4分33秒。。。
思った以上にかかっている。
ここでこのチャレンジ1回目の後悔。
こんな緩やかな坂、言わば序章でこのペース。
本格的な上りになった時に一体1km何分かかるんだ・・・・・・
モチベーション的にも下降気味になった。
でも、きっと5区を走る箱根ランナーも同じように感じるはずだ、勝負はまだまだこれからだと気持ちを切り替えて、姿勢もより前傾に切り替えて走り続ける。
立ちはだかる箱根の山
このカーブを曲がれば、その先は平坦かもしれない。(もちろんそんなことはないが)
そう錯覚というか、そうであって欲しいという思いが強すぎて、カーブを曲がった後、より急な坂道が目の前に現れた時の絶望感は想像以上であった。
そんな中、気持ちを切らさずに走ることができたのは、このチャレンジの日に僕達以外にも箱根の山にチャレンジしているランナーやバイカーがたくさんいたことであった。
目の前のランナーに追いつこうと身近な目標ができることで、途中止まりそうになったときも気持ちを奮い立たせることができた。
山中、日陰はやはり寒かったが、日のあたる部分は思ったよりも暖かく、ウィンドブレーカーを着てきたことを後悔したほどだ。
もちろんタイツも脱ぎたいほどであったが、記録を狙って走っているので、脱ぐ時間がもったいない。
汗はかいていたが、そのまま走り続けることを選択した。
まだまだ序盤ということもあり笑顔 【スポーツナビDo】
スポンサーの横断幕を張っていたり、テレビ局の車も数台見かけた。
有名な大平台のヘアピンカーブでは、よくテレビに映る中央大学の横断幕が既に張られていた。
実物をみると、その大きさに驚き、よくこんなところに横断幕が張れるなー、どうやって張ったのだろうと感心させられた。
カーブをいくつ越えたのか既に数えることをあきらめた頃にまたまた有名な宮ノ下にたどり着いた。
このあたりは飲食店等のお店が立ち並び、さらにはほぼ平坦なのではと思われるほど上りも緩やかになるので、気持ち的にかなり楽になった。
テレビで観ていてもここは沿道の応援が一際多く、選手も上りの第1弾を越えたところで気持ちを切り替えて、よしがんばるぞとなるに違いない。
しかし、その気持ちもこの後すぐに打ち砕かれることになる。
宮ノ下の交差点をまがると、これまでに比べてまた一段急になった上り坂が待ち受けていた。。。
ここでこの日二度目の後悔。。。
もはや走っているとは言えないスピードで一歩一歩進むのがやっと。。。
この区間は1km6分22秒と、一番時間がかかっていた。
このタイムを見たときは今回のチャレンジが本当に無謀であったと思わざるを得なかった。
箱根ランナーはこの区間でもおそらく1km3分20秒程度で走っているのだから、圧倒的な力の差を感じた。
僕が1km上る間に2km近く走っている。。。この山で順位が大きく入れ替わるのがうなずける。
最高地点まであと少し!
子ども達が一生懸命ノボリを立てている姿をみた。
こんな子ども達も箱根駅伝に関わっているのか、と改めて国民的イベントだと感じさせられ、今こうやって苦しんでいる自分もその感覚を味わえること自体、箱根駅伝に関わっているんだという気持ちになり、やはりいけるところまでがんばろうと切り替えた。
恵明学園のフェンスにかけられている手作りボード 【スポーツナビDo】
ちらちらと小雪が舞い始めた頃、急に視界が開けた。
そしてわずかながら下り坂が!
ここはテレビでも観たことがある。
この坂を下り、目の前に見える上り坂を登りきったところが最高地点。
いよいよ、最高地点。
ここまでようやく来た。
874mの標識を真上にとらえたとき、大きな達成感があった。
もうそれはゴールしたにも等しい感覚であった。
ようやくたどり着いた最高地点 【スポーツナビDo】
ラストスパート!
それでも、これまで歩くスピード程でしか走れなかった上りではなく、下りが3kmほど続く。
足の疲れも吹き飛んでしまい、一気に坂を駆け下りる。
とはいえ、これまでのペースとはあまりに違いすぎると転びそうになるので、多少抑えて。。。
箱根ランナーは下りでも前傾姿勢で走っている。
あのスピードで前傾姿勢を維持するのはかなり勇気のいることだ。
襷の重みはそういうところにも表れているのかもしれない。
下りに入っても急なカーブがいくつかあり、完全にスピードに乗り切ることはできない。
上りの疲れもあったためか、一番速い区間でも4分7秒かかっていた。
今回のチャレンジでは一度も1km3分台で走ることができなかった。。。
坂を下りきると箱根神社等の観光スポットがあるため、観光客が一気に増える。
走っている僕の姿をじろじろと見る人もいて、きっと箱根の山を走ってきたのだろうと見られているように感じる。
テレビで観ている限りだとここからはずっと平坦な道のように感じていたが、
小刻みなアップダウンがあり、長い上り、そして急な下り坂を走ってきた足には相当堪えた。。
箱根ランナーを一番苦しめるのは実はこの最後の1.5kmくらいなのかもしれない。
気持ち的にもうゴールしているにも近い感覚で走らなければならない、1.5kmは思った以上に長い。
えっ、まだゴールじゃないの? そう思ったのは1回や2回ではない。
テレビで何度も観たことのあるまだら模様の道路が目の前に表れ、いよいよゴールが近いと感じたときには本当に安堵した。
先にゴールした仲間が応援してくれる。
ちなみにこの仲間、記録にチャレンジしたわけではないが僕よりも7分近く速いタイムでゴールしていた。。。
ゴール前のラストスパート 【スポーツナビDo】
ゴールテープを切る箱根ランナーは結果がどうあれ本当に達成感、もしかしたらそれよりも安堵しているのかもしれない。
うまく走れなかったとしても、ゴールのタイミングでは後悔なんてしていないと思う。
ついにゴール 【スポーツナビDo】
今回のラップタイム 【スポーツナビDo】
急坂でのペースダウンが激しい・・・ 【スポーツナビDo】
山の神チャレンジを終えて
と同時にもう少しいけたのでは? 一度コースを知っていればもっとうまく走れるはずというチャレンジ心が涌いてきた。
何より、あのコースを沿道から割れんばかりの応援を浴びながら走ることができる箱根ランナーにますます憧れと尊敬の念を強く持つようになった。
(文:平野賢/スポーツナビDo)
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