ペトロヴィッチ×都倉賢 J開幕直前対談 深い絆を感じる教え子への宣戦布告

元川悦子

昨季まで札幌で共に戦ったペトロヴィッチ監督と都倉に、敵として向き合う新シーズンについての思いを聞いた 【スポーツナビ】

 2018年のJ1で一大旋風を巻き起こしたのが北海道コンサドーレ札幌だ。サンフレッチェ広島、浦和レッズで足掛け12年間指揮を執ったミハイロ・ペトロヴィッチ(ミシャ)監督が就任してわずか1年で彼らは戦う集団へと変貌。4位へと大躍進を遂げたのだ。惜しくもACL(AFCチャンピオンズリーグ)圏内の3位には勝ち点1足りず、手が届かなかったものの、進藤亮佑や福森晃斗、三好康児(横浜F・マリノス)ら若い世代が躍動。タイ人助っ人のチャナティップもベストイレブンに選出されるほどの絶大なインパクトを残した。

 14年から札幌に所属していた都倉賢(セレッソ大阪)もJ1初の2桁得点となる12ゴールをゲット。その活躍が高く評価され、今季から新天地に赴くことになった。「プロの世界では選手と監督は常に移籍していくもの」とミシャ監督も快く教え子を送り出した。が、1年間、同じピッチで苦楽を共にした2人の深い絆は変わらない。

 そんな彼らが約2カ月ぶりに再会。一緒に戦った昨季と、敵として向き合う新シーズンについて熱く語り合った。(取材日:2月14日)

都倉「ミシャさんは選手を『戦士』に変える」

「ミシャさんは選手を「戦士」に変える指導者」と恩師との戦いを振り返った都倉 【(C)J.LEAGUE】

ミシャ 久しぶり。今はハッピーかい?

都倉 ハッピーです(笑)。

ミシャ 都倉選手が別のチームに行ってしまったのは残念なことだけど、サッカーではよくあること。札幌でベストを尽くして戦ってくれた選手だし、新天地でもベストを尽くしてくれるはず。そこは期待しています。

都倉 ありがとうございます。

――都倉選手がミシャ監督から学んだことを改めて語っていただけますか?

都倉 戦術的な部分はもちろんですけれど、ミシャさんは選手を「戦士」に変える指導者。マインドをリセットしてくれたと思うんです。昨年は本当にチームのみんなが戦士になれたというのをすごく感じた。ミシャさんに僕ら以上の情熱があったからだと思います。その熱量は今もよく覚えていますし、ありがたい1年だったと強く感じますね。

ミシャ 私自身が選手と仕事するうえで大事にしているのは、楽しんでサッカーをすること。「練習に来られてうれしいし、幸せだ」という気持ちを日々、胸に抱いて活動してもらうことなんです。それを選手たちに常日頃から投げかけていましたし、いい雰囲気作りにも努めてきました。

 もう1つ強調したのは、ミスを恐れないこと。サッカーはミスがつきものだけれど、ミスを恐れていたら縮こまったプレーばかりになってしまう。だから私は「ミスはしていい。ただトライはしなさい」と口を酸っぱくして言い続けました。相手に対してもリスペクトを持つことは必要だけれど、恐れることはないと。どのチームに対しても十分に勝てる実力があるんだから、常に自信を持って強い気持ちで臨んでほしいと伝えたんです。

 そのうえで、選手たちは結果を残し、自信が生まれ、それが確信に変わっていった。そういうマインドの変化が昨季1年間を通して、大いに感じられました。

都倉 確かにそうですね。

ミシャ 都倉選手も私が札幌に行く前から素晴らしい能力があると知っていました。私も日本が長いですから、ザスパクサツ群馬時代、川崎フロンターレ時代、ヴィッセル神戸時代のことも分かっていた。私の下で成長した部分があるとすれば、ボールのないところでの動きや質。そこがものすごく改善されました。だからこそ、得点チャンスに顔を出す機会が増え、実際に得点数も多くなったと思います。加えて言うと、都倉選手は「もっとこうした方がいい」との声を聞き入れる素直さを持っていた。その資質の部分が非常に大きいと感じています。

――都倉選手はミシャ監督の教えを新天地・セレッソ大阪でどう出そうとしていますか?

都倉 やはりチームあっての個人なので、昨年札幌でやったことをそのままセレッソで出そうとしても全ていい方向に行くとは考えていません。ただ、ミシャさんから学んだ「準備」や「連動」は重要だと思います。ミシャさんと出会う前の自分は「個の勝負でどれだけ勝てるか」を重視していましたが、この1年間で「連動して動けばこんなに簡単に相手をはがせるんだ」と気付かされることがたくさんあったんです。ボールのないところでの準備や予測はどこのチームに行っても必要なこと。それをセレッソでどう生かしていけるかというのはずっと考えていますね。

ミシャ そうやって進化していく都倉選手を止めるために、われわれは全力で戦います。プロの世界は移籍がつきもの。古巣との対戦というのは常に起こり得ます。そういう中で両者の思いがぶつかり合うのがサッカーの素晴らしさであり、見る人の面白さでもある。都倉選手は札幌で非常に愛され、貢献してくれた選手であり、チームが変わってもファミリーの一員であることに変わりない。ピッチで対戦する時は敵同士ですけれど、試合を離れたらファミリー。そこは改めて強調しておきたい点です。

ミシャ「古巣対決でもいいプレーを。ただ、勝つのはわれわれだ」

熱い抱擁で健闘を誓い合う姿は、ピッチを離れればファミリーであるという強い絆を感じさせてくれた 【スポーツナビ】

――札幌とセレッソ、両チームの現状は?

ミシャ 今季を迎えるにあたり、都倉選手をはじめとして何人かが移籍し、比較的若い選手が加わりました。新シーズンになると、必ずと言っていいほど新戦力に注目が集まりがちですが、やはりベースになるのは昨季4位になったチーム。そこは間違いないでしょう。新しい選手は私のやり方や哲学を学びながら、チームになじんでいく時間が必要だと思います。そういう彼らと中長期的なビジョンの下、しっかりとしたチーム作りをしていくことが大事。彼らの成長がチームの成長につながってほしいと強く願っています。

都倉 僕自身が新加入で、セレッソ自体も監督が変わったので、今はチームとしていろいろなトライをしている時期。競争原理が働いて、若手からベテランがいいライバル関係の中、練習できているので、チーム全体がすごくポジティブな状態だと思います。

 ただ、ミシャさんが就任された昨季の札幌もそうでしたけれど、キャンプ中は積極的に新たなトライをする分、練習試合で成果が出ないこともある。去年も第4節のV・ファーレン長崎戦に勝ってチームとしてまとまれた(編注:後半アディショナルタイムにチャナティップが決勝ゴールを決め、シーズン初勝利)ので、その経験をセレッソのチームメートにも伝えています。一番大事なのは、監督の哲学の下、みんながブレずに同じベクトルに向かってやっていくこと。そこは常に心がけていますし、言うようにしていますね。

――ミシャ監督と都倉選手の今季の目標は?

ミシャ サッカーというのは常に前年より上を求められるスポーツ。われわれは昨季を4位で終えましたから、それを上回る成績を目指す必要がある。そこに強い思いを持って挑んでいくべきだと考えています。

都倉 僕自身は昨季15得点という目標を掲げたのに、実際には12点しか取れなかったので、より多い数字を挙げた方がいいのかなと(笑)。なので、今季は20ゴールとメディアには常に公言しています。僕がそのくらいのゴールを取れれば、チームもタイトルが見えてくると思う。そういう責任感を持って、シーズンを戦っていきたいですね。

ミシャ 私も都倉選手がいいシーズンを過ごすことを願っています。そして札幌との古巣対決でもいいプレーをすることを期待しています。ただ、1つ言っておきたいのは、勝つのはわれわれだと(笑)。そこだけは釘を刺しておきます。もちろんピッチ外で何かあればいつでも連絡してください。待っています。
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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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