アジア杯準優勝の厳しい現実
“日本らしさ”の追求は3年後に吉と出るか

決勝が「日本有利」と考えられた理由

カタールに敗れて準優勝に終わり、日本代表イレブンは失意の表情を見せた
カタールに敗れて準優勝に終わり、日本代表イレブンは失意の表情を見せた【写真:ロイター/アフロ】

 アジアカップ28日目。4週間にわたる今大会も「マッチナンバー51」の決勝を残すのみとなった。会場はアブダビが誇る国内最大のシェイク・ザイードスタジアム。ファイナリストは日本とカタールという、大会史上初の顔合わせである。当日の朝、ホテルでの朝食を終えて現地の新聞を眺めると「THANK YOU UAE」というタイトルとともに、今大会に出場した国々のサポーターが国旗を振っているイラストが描かれていた。開催国であるUAEの国旗に次いで、多かったのは日本の日の丸。しかし、その日本と決勝で戦うカタールの国旗は、まったく描かれていない。


 2017年6月から続くUAEとカタールの国交断絶が、今大会にも暗い影を落としていることは当連載でもたびたび触れてきた。準決勝での両者の対戦はカタールの圧勝(4−0)に終わったが、UAEは意気消沈するどころか敵対心をさらに燃やしているように感じる。おそらく決勝のスタンドでは、9割以上の地元ファンが日本を後押しするだろう。それ以外にも「日本有利」の理由はいくらでも挙げることができる。準決勝から日本は中3日で、カタールは中2日。日本はこれが5回目の決勝進出で、カタールは初。加えて日本は、過去4回の決勝で一度も敗れていない。


 とはいえ、カタールが油断ならない相手であることも事実。今大会は、サウジアラビア、イラク、韓国という歴代優勝国に勝利し、6試合で16得点の無失点。そのうち半分の8ゴールを挙げている19番のアルモエズ・アリは、イラン代表のサルダル・アズムンよりも危険なストライカーだ。他にもチャンスメーカーである11番のアクラム・アフィフ、韓国戦で決勝ゴールを決めた6番のアブデルアジズ・ハティムなど、注意すべき選手は何人もいる。選手の多くは政府肝いりの育成機関、アスパイア・アカデミーの出身で、所属クラブもアルサードとアルドゥハイルが大半を占めているため、連携も取れている。


 今大会の特徴として、ヨーロッパの監督を招へいしているチームが多く見られたが、最も「欧州化」に成功していたのがカタールだ。戦術理解度の高さ、足元の技術の確かさ、そしてメンタリティーの強さ。それらは、育成段階からスペインのメソッドを積極的に取り入れてきた成果であろう。しっかりパスをつなぎながらも、切れ味鋭いカウンターで効率的に得点を重ね、状況に応じて4バックにも5バックにも変化する。おそらく今大会に出場した24チームの中で、最も洗練されたサッカーを実践しているのも彼らだ。だが、そういう相手であれば、日本にとって相性は悪くない──。そう、戦前は考えていた。

先制を許したショックを引きずった前半

まさかの2失点を喫し、修正ができないまま前半が終わってしまった
まさかの2失点を喫し、修正ができないまま前半が終わってしまった【写真:ロイター/アフロ】

 キックオフ2時間半前、シェイク・ザイードスタジアムに到着。開催国UAEが敗退したこともあって、白装束の地元ファンの姿はそれほど多くはなく、むしろ目立っていたのはブルーのレプリカを着た日本のサポーターであった。一方でイランやオマーンといった、日本が対戦した国々のサポーターもちらほら。さまざまな国旗が掲げられている光景を見て、あらためてアジアカップのファイナルにたどり着いたことを実感する。しかし、ここでもカタールの国旗を目にすることはなかった。確かに日本にとって有利な状況だが、対戦相手のサポーターが不在というのは何とも寂しい話である。


 この日の日本代表のスターティングイレブンは以下のとおり。GK権田修一。DFは右から、酒井宏樹、冨安健洋、吉田麻也、長友佑都。中盤はボランチに柴崎岳と塩谷司、右に堂安律、左に原口元気、トップ下に南野拓実。そしてワントップには大迫勇也。準決勝のイラン戦で負傷退場した遠藤航のポジションには、これまでクローザーとして起用されてきた塩谷がウズベキスタン戦以来のスタメン。12月のクラブワールドカップ(W杯)に続くUAEでのファイナル出場に、大いに期するものがあっただろう。それ以外は、今大会の不動のメンバーである。


 対するカタールは、「国籍変更の条件を満たしていないのではないか」との疑念があった、アリとバサム・アルラウィがそろってスタメン出場。UAEサッカー協会が、AFC(アジアサッカー連盟)に提出していた訴えが退けられたためである。さらにカタールに追い風となったのが、バックスタンドの一角にカタールのサポーターグループが出現したことだ。もっとも彼らは、実はカタール人のふりをしたオマーン人(と、中東在住のサッカー仲間が教えてくれた)。カタール政府がお金と国旗とユニフォームを渡して、オマーン人たちをアルバイトのサポーターとしてアブダビに派遣した、というのが真相らしい。


 かくして定刻通り18時にキックオフ。いつになくフワッとした試合の入りに、何となく不安を感じていたら、前半12分にカタールが先制する。右に展開していたハサン・アルハイドスから、アクラム・アフィフにサイドチェンジ。さらに中央のアリへ柔らかい浮き玉パスが渡ると、アリは吉田を背にした状態から意表を突くバイシクルシュートを放ち、ボールはゴール右隅に吸い込まれていく。アリはこれで大会記録更新となる9ゴール。一方の日本は、ノックアウトステージに入って初めての失点を喫する。しかし前半の日本の失点は、これで終わりではなかった。

宇都宮徹壱
宇都宮徹壱

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著はスポーツナビでの連載をまとめた『J2&J3 フットボール漫遊記』(東邦出版)

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