「アジア最強」との準決勝を控えて 日々是亜洲杯2019(1月27日)

宇都宮徹壱

イランもまた日本を恐れている?

イラン代表のカルロス・ケイロス監督(左)。日本を「アジアで最も成功したチーム」とコメント 【宇都宮徹壱】

 アジアカップ23日目。早いもので大会も残すところ1週間を切った。準決勝を控えたこの日はノーマッチデー。明日(28日)のイラン戦を控えての前日会見を取材するべく、会場のハッザーア・ビンザイード・スタジアムに向かう。最初に会見を行ったのは、イラン代表のカルロス・ケイロス監督。名古屋グランパスエイト(当時)での監督経験があり、2011年に現職となってからも事あるごとに日本を身近に感じてきたポルトガル人指揮官は、「優勝候補」同士の準決勝についてこのように語った。

「日本はスピードと技術があり、アジアで最も成功したチームだ。しかしわれわれが、自らのアイデンティティを見失うことはない。相手のストロングポイントを消すことも大事だが、必要なのは自分たちのプレーを信じること。明日は準決勝であり、相手は偉大なチームだ。それでも、われわれはイランのサッカーをすることを第一に考えている」

 ケイロス監督が、単なるリップサービスで日本を持ち上げているわけでないことは、その真剣なまなざしを見れば明らかだ。今大会は「アジア最強」という表現がすっかり定着しているイランだが、意外にもアジアカップでのベスト4は4大会ぶり。しかも最後にファイナルに到達したのは、今から43年前の1976年大会までさかのぼる。この時、イランは優勝して3連覇を達成しているが、以降は良くてベスト4止まり。その間に日本は4回、アジアの頂点に立っている。

 43年ぶりのファイナルを目指すイランにとり、準決勝で対戦する日本は果たして好ましい相手なのだろうか。確かに今大会のイランは、ここまで12得点無失点と盤石の戦いを見せている。対する日本はどうか。ここまでの5試合すべてを1点差で勝ち上がり、しかもノックアウトステージの2試合では真逆の戦い方を見せている。これまでの日本のイメージとはまったく異なる「つかみどころのなさ」に、むしろ彼らは胸騒ぎのようなものを感じているのではないか。

 日本がイランを恐れているように、イランもまた日本を恐れている可能性は十分あり得る話だ。「恐れている」が大げさなら、少なくとも「楽に勝てる相手ではない」と思っているだろう。アジアカップの準決勝は、偉大な相手との真剣勝負の場。緊張感をもって臨むのは、実のところ日本もイランも、あまり変わりないように思えてならない。

「日本=04年のギリシャ」という誤解

準決勝が行われる、ハッザーア・ビンザイード・スタジアム。勝ってアブダビに戻るのはどちらか? 【宇都宮徹壱】

 日本の前日会見は、イランの会見から2時間後に行われた。登壇したのは森保一監督、そして選手を代表して遠藤航。ふたりともイラン戦に向けて「いい準備ができている」、あるいは「いいコンディションが作れている」ことを強調していた。もちろんイランの強さについては、チーム内で十分に共有されている。その上で「どう戦うか」については、遠藤のこのコメントに尽きるだろう。

「今大会を通じて、難しい時間帯や自分たちのリズムでゲームを進められない中、選手がピッチ上で考えながら臨機応変にプレーできている。それを(イラン戦でも)継続してやることが大事なのかなと思います」

 ところでこの会見で、ひとつ興味深い気づきがあった。それはイランを含む海外のメディアが、今大会の日本の戦い方を「守備的である」と断じた上で森保監督に質問していたことだ。ある記者によれば「日本はユーロ(欧州選手権)2004のギリシャ代表のようなディフェンシブな戦いをしている」と報じているメディアもあるらしい。

 もう15年も昔の話なので、いちおう補足しておくと、この大会のギリシャは絵に描いたような堅守速攻のチームであった。強固なディフェンスと切れ味鋭いカウンターを武器に、フランス、チェコ、そして開催国のポルトガルをいずれも1−0で打ち破って欧州王者に輝いている。確かに今大会の日本も、ここまで5試合すべてに1点差で勝利しており、ノックアウトステージに入ってからはサウジアラビアとベトナムに1−0で勝利。こうした類似点から、15年前のギリシャのイメージが重なって見えたことは容易に想像できる。

 とはいえ「日本=04年のギリシャ」説が大いなる誤解であることは、ここまでの戦いを通して見れば誰でも気づくはずだ。サウジ戦で守備の時間帯が長かったのは、相手にボールを握らせながらゲームをコントロールすることが目的だったし、そもそも日本の守備は04年のギリシャほど完成度は高くはない(トルクメニスタン戦での不用意な失点シーンを見れば明らかだ)。その意味では、買いかぶりもいいところである。

 もちろんケイロス監督のことだから、そのことはとうに理解しているだろう。ただしメンバーの固定化や交代の遅さなど、これまでの森保監督の謎めいた采配については、まだまだ解析できていない部分もありそうな気がする。実際、本音を語らない指揮官の胸の内は、われわれ日本の取材者にとっても謎のままだ。そうした謎のひとつひとつが、実はイランを倒すための布石なのだとしたら──。そんな淡い期待も抱きつつ、運命のキックオフを待つことにしたい。
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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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