「アジア最強」との準決勝を控えて 日々是亜洲杯2019(1月27日)
イランもまた日本を恐れている?
イラン代表のカルロス・ケイロス監督(左)。日本を「アジアで最も成功したチーム」とコメント 【宇都宮徹壱】
「日本はスピードと技術があり、アジアで最も成功したチームだ。しかしわれわれが、自らのアイデンティティを見失うことはない。相手のストロングポイントを消すことも大事だが、必要なのは自分たちのプレーを信じること。明日は準決勝であり、相手は偉大なチームだ。それでも、われわれはイランのサッカーをすることを第一に考えている」
ケイロス監督が、単なるリップサービスで日本を持ち上げているわけでないことは、その真剣なまなざしを見れば明らかだ。今大会は「アジア最強」という表現がすっかり定着しているイランだが、意外にもアジアカップでのベスト4は4大会ぶり。しかも最後にファイナルに到達したのは、今から43年前の1976年大会までさかのぼる。この時、イランは優勝して3連覇を達成しているが、以降は良くてベスト4止まり。その間に日本は4回、アジアの頂点に立っている。
43年ぶりのファイナルを目指すイランにとり、準決勝で対戦する日本は果たして好ましい相手なのだろうか。確かに今大会のイランは、ここまで12得点無失点と盤石の戦いを見せている。対する日本はどうか。ここまでの5試合すべてを1点差で勝ち上がり、しかもノックアウトステージの2試合では真逆の戦い方を見せている。これまでの日本のイメージとはまったく異なる「つかみどころのなさ」に、むしろ彼らは胸騒ぎのようなものを感じているのではないか。
日本がイランを恐れているように、イランもまた日本を恐れている可能性は十分あり得る話だ。「恐れている」が大げさなら、少なくとも「楽に勝てる相手ではない」と思っているだろう。アジアカップの準決勝は、偉大な相手との真剣勝負の場。緊張感をもって臨むのは、実のところ日本もイランも、あまり変わりないように思えてならない。
「日本=04年のギリシャ」という誤解
準決勝が行われる、ハッザーア・ビンザイード・スタジアム。勝ってアブダビに戻るのはどちらか? 【宇都宮徹壱】
「今大会を通じて、難しい時間帯や自分たちのリズムでゲームを進められない中、選手がピッチ上で考えながら臨機応変にプレーできている。それを(イラン戦でも)継続してやることが大事なのかなと思います」
ところでこの会見で、ひとつ興味深い気づきがあった。それはイランを含む海外のメディアが、今大会の日本の戦い方を「守備的である」と断じた上で森保監督に質問していたことだ。ある記者によれば「日本はユーロ(欧州選手権)2004のギリシャ代表のようなディフェンシブな戦いをしている」と報じているメディアもあるらしい。
もう15年も昔の話なので、いちおう補足しておくと、この大会のギリシャは絵に描いたような堅守速攻のチームであった。強固なディフェンスと切れ味鋭いカウンターを武器に、フランス、チェコ、そして開催国のポルトガルをいずれも1−0で打ち破って欧州王者に輝いている。確かに今大会の日本も、ここまで5試合すべてに1点差で勝利しており、ノックアウトステージに入ってからはサウジアラビアとベトナムに1−0で勝利。こうした類似点から、15年前のギリシャのイメージが重なって見えたことは容易に想像できる。
とはいえ「日本=04年のギリシャ」説が大いなる誤解であることは、ここまでの戦いを通して見れば誰でも気づくはずだ。サウジ戦で守備の時間帯が長かったのは、相手にボールを握らせながらゲームをコントロールすることが目的だったし、そもそも日本の守備は04年のギリシャほど完成度は高くはない(トルクメニスタン戦での不用意な失点シーンを見れば明らかだ)。その意味では、買いかぶりもいいところである。
もちろんケイロス監督のことだから、そのことはとうに理解しているだろう。ただしメンバーの固定化や交代の遅さなど、これまでの森保監督の謎めいた采配については、まだまだ解析できていない部分もありそうな気がする。実際、本音を語らない指揮官の胸の内は、われわれ日本の取材者にとっても謎のままだ。そうした謎のひとつひとつが、実はイランを倒すための布石なのだとしたら──。そんな淡い期待も抱きつつ、運命のキックオフを待つことにしたい。
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