開催国と前回王者が得たもの 日々是亜洲杯2019(1月25日)

宇都宮徹壱

日本、イランに続いてベスト4に上り詰めたのは?

アルアインのスタジアムで出会った地元の若者たち。スタジアムを訪れた人に紅茶を振る舞っていた。 【宇都宮徹壱】

 アジアカップ21日目。大会が開幕して3週間となったこの日、準々決勝の残り2試合が予定されていた。アブダビでは17時(現地時間、以下同)より韓国対カタール、そしてアルアインでは20時よりオーストラリア対UAE。それぞれの勝者は29日にアブダビで行われる準決勝を戦う。私はこの日、バスでドバイからアルアインに移動。オーストラリアとUAEの一戦を取材して、それから日本代表の到着を待つことになる。それにしても、日本代表と一緒にアルアインに戻ってくることができて、本当によかった。もちろん準決勝のイラン戦は、これまでで最も厳しい試合になることは間違いない。が、いずれにしても頂点まで、あと2勝となった。

 あらためて、ここまで勝ち残っているチームの「優勝への思い」について考えてみることにしたい。すでに準決勝進出を決めている日本とイランは、いずれも今大会の「優勝候補」。日本は「王座奪還」を目指しているが、イランも8年間に及ぶカルロス・ケイロス体制のフィナーレを優勝で飾りたいはずだ(ケイロス監督は大会後、コロンビア代表監督への就任が有力視されている)。オーストラリアは前回チャンピオンとしてのプライドがあるし、韓国にしてもアジア制覇は60年大会以来の悲願。カタールについては、自国で開催されるワールドカップ(W杯)に向けて実績を残したいところだろう。

 問題はUAEだ。彼らに課せられたプレッシャーは、単に「開催国だから」という理由だけにとどまらない。実はUAEは1996年にもアジアカップを開催しており、この時はファイナル進出を果たしたものの、当時絶頂期にあったサウジアラビアにPK戦で敗れている(ちなみに日本は、準々決勝でクウェートに0−2で敗れてベスト8止まり)。2度目の自国開催となる今大会は、当然ながら「96年の準優勝」という栄光の記憶が持ち出される。そのことが、アルベルト・ザッケローニ監督率いるUAE代表に、過度のプレッシャーを与え続けることとなったのは想像に難くない。

 会場のハッザーア・ビンザーイド・スタジアムに到着後、メディアセンターにて韓国対カタールの中継映像をチェック。先制したのはカタールで、後半33分に決めたのはアブデルアジズ・ハティムだった。韓国もファン・ウィジョがネットを揺らすが、すぐさまオフサイドフラッグが上がる。確認のためVARが発動したものの、判定が覆ることはなかった。そのままカタールが1点リードで逃げ切り、史上初のベスト4進出。キ・ソンヨンをけがで欠いていたとはいえ、韓国を打ち破ったカタールの強さは本物だ。3年後のW杯開催に向けて、着実に強化が進んでいることがうかがえる。

ベスト4に進出した開催国、学びと経験を得た前回王者

試合後、スタンドのサポーターに一礼するUAEの選手とスタッフ。準決勝の相手はカタールに決まった。 【宇都宮徹壱】

 ベスト4最後の1枠を懸けた戦いは、地元の圧倒的な声援に後押しされたUAEが、序盤から積極的に仕掛ける展開から始まった。前半21分、マジェド・ハッサンのスルーパスを受けたイスマイル・アルハンマディが左サイドから強烈なシュートを放つも、これはオーストラリアGKマシュー・ライアンがブロック。その後はオーストラリアが徐々にポゼッションを高めながら盛り返していく。エンドが替わった後半18分、オーストラリアは自陣のロングパスを起点にアポストロス・ジアヌーがネットを揺らすも、くさびに入ったマシュー・レッキーにオフサイドの判定。こちらはVARが発動することはなかった。

 その5分後の後半23分、オーストラリアをさらに失望させる展開が待っていた。相手陣内からのロングキックに、最終ラインのミロシュ・デゲネクがマイボールにしてバックパス。しかしGKライアンに届く前に、前線にいたアリ・マブフートがこれを奪ってUAEが待望の先制ゴールを挙げる。その後オーストラリアは、途中出場のアワー・メイビルが積極的にシュートを放つも、UAEの固い守備を崩せず。8分に及ぶアディショナルタイムの間には、キャプテンのファレス・ジュマが負傷(おそらく脳しんとう)でいったんピッチを離れながらも、フラフラになりながら最後までゲームに参加する「ハプニング」もあった。

 最後は「UAE! UAE!」の大合唱に包まれる中、ついに1−0でタイムアップ。開催国UAEは、2大会連続となるベスト4進出を果たした。試合後にはスタンドの地元ファンに対して、選手とスタッフ全員が謝意を表現する姿が印象的であったが、それにしても気になるのがジュマの容態。ザッケローニ監督は会見で「まだドクターから報告を受けていない」としているが、準決勝の出場は難しいだろう。いずれにせよ、頭にダメージを受けた選手をピッチに戻してしまったのは、明らかにスタッフの落ち度。一連の出来事は、決して美談で終わらせるべきではない。

 敗れた前回王者についても言及しておきたい。オーストラリア代表のグラハム・アーノルド監督は、このアジアカップを「グレートジャーニー(大冒険)」と表現した上で「若い選手たちはこの大会から多くの学びと経験を得ることができた」と総括した。今大会のオーストラリアは、大会連覇よりも次のW杯に向けたチームづくりに重きを置いていたようだ。致命的なミスを犯したデゲネクも24歳。カタール大会では主力として活躍できる年齢なので、この経験を糧にさらなる成長を期待したい。それにしても、オーストラリアが組み込まれたトーナメントの山が、これほど厳しいものとは思わなかった。あくまで結果論ではあるが、日本のグループ1位突破はベストな選択だったと言えよう。
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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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