「怖くないサウジ」に最少得点で勝利 アジア王者に返り咲くための布石となるか

宇都宮徹壱

アジアカップでの「強いサウジ」と「弱いサウジ」

日本は何度もアジアカップでサウジアラビアと名勝負を繰り広げてきた 【写真:ロイター/アフロ】

 アジアカップ17日目。ラウンド16の2日目は、15時(現地時間、以下同)よりシャルジャにて日本対サウジアラビア、18時よりアルアインにてオーストラリア対ウズベキスタン、そして21時よりアブダビにてUAE対キルギスが開催される。日本にとっては、これがノックアウトステージの初戦。「負けたら終わり」という意味でも、大会の初戦以上に心理的な負荷がかかる一戦である。もう1つ、グループステージとの決定的な違いを挙げるならば、これから日本の前に立ちはだかる相手は、ワールドカップ(W杯)出場国、あるいはアジア最終予選の常連ばかりということ。まさにサウジがそうだ。

 日本にとっては何度も対戦しているサウジだが、とりわけアジアカップでは節目節目で名勝負を繰り広げてきた。そして対戦するたびに、われわれは「強いサウジ」と「弱いサウジ」の極端な差に戸惑うこととなった。1992年大会は、大会3連覇を目指すチャンピオンと決勝で対戦し、1−0で勝利して初優勝。2000年大会では、初戦では4−1と圧倒したものの、決勝では見事に立て直した相手に苦戦し、1−0の辛勝で2度目の優勝を果たしている。07年大会の準決勝では、相手の驚異的なカウンターに切り裂かれて2−3で敗戦。日本が最後に優勝した11年大会では、グループステージで5−0と粉砕している。

 90年代には中東の盟主としての存在感を発揮していたものの、その後はアジアカップで準優勝した07年を除いて、長い低迷期に入ってしまったサウジ。W杯では10年の南アフリカ大会と14年のブラジル大会には出場できず、アジアカップも直近の2大会ではグループステージ敗退を喫した。日本がアジアカップで最後に対戦した11年は、まさに「弱いサウジ」だったわけだが、今回は「強いサウジ」復活の兆しが見て取れる。W杯ロシア大会のアジア最終予選では、日本に対して1勝1敗。久々の本大会では3試合で帰国することになったものの、エジプトには勝利して24年ぶりの勝ち点3を獲得している。

 今回の対戦で注目すべきは、ロシア大会でチームを率いたフアン・アントニオ・ピッツィが、引き続き指揮を執っていることだ。昨年のW杯に出場したアジア5カ国のうち、監督が変わっていないのはイランとサウジのみ。カルロス・ケイロス体制が8年間続いているイランは別格として、サウジも珍しく継続性を重視したことが奏功した。グループステージでは、初戦の北朝鮮戦に4−0、第2戦のレバノン戦に2−0。カタールには0−2で敗れたものの、組織的な守備としっかりパスをつなぐスタイルは、W杯の時からさらに磨きがかかった印象を受ける。実際、彼らが確立したスタイルは、この日本戦でも遺憾なく発揮されることとなった。

ウズベキスタン戦からメンバーを戻した日本

サウジ戦に向けて、森保監督はほぼオマーン戦と同じメンバーをピッチに送り出した 【写真:ロイター/アフロ】

 試合会場のシャルジャ・スタジアムは、ずいぶんと古めかしく、キャパシティも1万1073人と今大会の8会場で最も小さい。20日に訪れたドバイのアール・マクトゥーム・スタジアムは、スタンドの規模感こそ同じだったものの、ヨルダン対ベトナムの雰囲気はラウンド16にふさわしい盛り上がりを見せていた。今回は日本もサウジもサポーターの数が限られていることもあり、グループステージとあまり変わらない空気感である。シャルジャの関係者には申し訳ないけれど、この会場で終戦を迎えることだけは何としても避けたいところだ。

 ここで、日本代表の状況を確認しておこう。20日の前日練習では、右臀(でん)部の痛みで直近の2試合を休んでいた大迫勇也がトレーニングに合流。腰痛の東口順昭は別調整となり、グループステージ第3戦にフル出場した青山敏弘は右ひざの痛みにより参加していない。サウジ戦のスターティングイレブンに関しての注目点は2つ。まずウズベキスタン戦のメンバーのうち、アピールした選手に出番があるかということ。そして、大迫が3試合ぶりにスタメンに名を連ねる可能性である。

 大迫の状況について森保一監督は「状態は上がってきている」とした上で、「今日の練習を見て、どういう状態なのかをメディカルと話して考えていきたい」としていた。この会見が行われたのは、ヨルダン対ベトナムが始まったばかりの時間帯。結果は周知のとおり、PK戦の末にベトナムがベスト8に進出し、日本対サウジの勝者と対戦することが決まった。この結果は森保監督にとって、いつ大迫を起用するかの判断材料となっていたはずだ。

 この日の日本代表のスタメンは、以下のとおり。GK権田修一。DFは右から酒井宏樹、冨安健洋、吉田麻也、長友佑都。中盤はボランチに柴崎岳と遠藤航、右に堂安律、左に原口元気、トップ下に南野拓実。そしてワントップには武藤嘉紀。大迫については、メディカル的な理由でスタメン起用を見送ったようだ。そしてワントップ以外は、第2戦のオマーン戦からすべてのメンバーが復帰。ウズベキスタン戦では、いわゆる「控え組」が結果を出したものの、現状のチーム内の序列は簡単には崩れそうにない。なお青山はベンチ外となり、試合後にチームからの離脱が発表された。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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