尚志・染野唯月、ゴールを求め貪欲に 覚醒の時を迎えた2年生エース

安藤隆人

尚志高の2年生エース・染野。昨夏にはU−17日本代表に選出されるなど、成長著しいFWだ 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

 尚志(福島)が誇る絶対的エースストライカー・染野唯月(そめの・いつき/2年)が覚醒の時を迎えている。

 鹿島アントラーズジュニアユースつくばから鹿島ユースに昇格できず、福島の尚志高に新天地を求めたストライカーは、高さとフィジカル、そして足下の技術を発揮して、1年生ながらすぐに出番をつかんだ。

 今年度に入ると、プロのスカウトも注目をする存在になった。春先から前線の起点として不動の存在となり、よりたくましくなったフィジカルとアジリティー、そして前へ運ぶ力に磨きがかかった。

 だが、その一方でプレーの連続性という面でまだ課題を残していた。夏のインターハイ2回戦の東山(京都)戦では、ボールを収めてからの仕掛けやパスの精度は高かったが、複数の徹底したマークを剥がし切れずに、試合中に消える時間帯もあった。結果、チームも0−0からのPK戦負け。不完全燃焼のまま夏が終わった。

 しかし、12月の高円宮杯プレミアリーグ参入決定戦で、彼は見違えるほどの成長を遂げていた。

プレミア昇格をもたらしたヘッド

 横浜F・マリノスユースとの一戦。染野は2日前に行われた1回戦のJFAアカデミー福島U−18戦で頭を4センチも裂傷したことで、この試合はベンチスタートだった。エースを欠くチームは前半、横浜FMユースの猛攻に押し込まれ、1点のビハインドを背負った。前半だけを見ると、完全に横浜FMユースの試合で、追加点を決められてもおかしくない展開だった。

 後半、仲村浩二監督は満を持して染野を投入。すると試合の雰囲気が驚くほどがらりと変わった。染野は前線で横浜FMユースの守備陣形を見ながら、オフ・ザ・ボールの動きを繰り返して、相手にマークの的を絞らせないようにした。縦パスやロングボールを動きながら正確に収めて周りのアタッカー陣につなぐと、守備面でも前線から強烈なプレスを仕掛け、前半あった相手のリズムを完全に打ち砕いた。

 60分に生まれた尚志の同点ゴールは相手のGKへのバックパスがそのまま入るというオウンゴールだが、染野の鬼気迫るプレスがそのミスを誘発させた。そして最大のハイライトは後半45分。左CKを得ると、DF沼田皇海(3年)が蹴ったボールを負傷した頭で豪快にゴールに突き刺した。頭一つ抜けた高い打点のヘッドは圧巻で、このゴールが尚志に来季プレミアリーグ昇格をもたらした。

「自分が後半から出て、決めてやろうと思っていた。僕の中では厳しい展開になると思っていたので、その中で自分が点を決める、チームを勝たせるという意識は強く持っていました」

 まさにエースの気迫だった。この変貌ぶりの要因を本人に聞くと、彼は笑顔でこう語った。

「U−17日本代表に入って、すごく刺激を受けました。同じポジションの櫻川ソロモン選手(ジェフユナイテッド千葉U−18)は身体が強いし、きちんと状況判断ができる。あと、僕が見習わないといけないのが清水エスパルスユースの山崎稜介選手で、彼は前線からしっかりと追いかけていくプレーができる。そういうライバルに負けたくないですし、盗める所は盗みたいと思いました」

U−17代表を経て、指揮官も成長認める

 染野はインターハイ前の7月にU−17日本代表に選ばれ、新潟国際ユースという国内のフェスティバルでプレーをした。そして、インターハイ直後に再びU−17日本代表に選ばれ、チェコ遠征に参加。そこで同じ年の櫻川、山崎、栗原イブラヒムジュニア(三菱養和SCユース)らユースのタレント達と過ごし、U−17ウクライナ代表、U−17スロバキア代表、U−17ハンガリー代表、U−17アメリカ代表と、世界の実力国との対戦を重ねた。

 世界に飛び出して、同年代のトップレベルの選手達と過ごした時間は、彼にとってものすごく大きな刺激となった。

「チェコから帰って来たら意識が変わった。自覚というか、貪欲さが出てきた」と仲村監督も彼の成長ぶりに目を細めたように、同年代から受けた刺激は彼を大きく変えたのだった。

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著者プロフィール

1978年2月9日生まれ、岐阜県出身。5年半勤めていた銀行を辞め単身上京してフリーの道へ。高校、大学、Jリーグ、日本代表、海外サッカーと幅広く取材し、これまで取材で訪問した国は35を超える。2013年5月から2014年5月まで週刊少年ジャンプで『蹴ジャン!』を1年連載。2015年12月からNumberWebで『ユース教授のサッカージャーナル』を連載中。他多数媒体に寄稿し、全国の高校、大学で年10回近くの講演活動も行っている。本の著作・共同制作は12作、代表作は『走り続ける才能たち』(実業之日本社)、『15歳』、『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、『ムサシと武蔵』、『ドーハの歓喜』(4作とも徳間書店)。東海学生サッカーリーグ2部の名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクター

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