「人生で一番悩んだ」ソフトB武田の1年 配置転換でフォームと考え方を確立
連続完封、2度の2軍落ち…波が激しい1年
2018年は「波が激しい」一方で「すごく大きな1年にもなった」と話す武田 【写真:BBM】
2018年はどんな年だったか。そう問われると、武田は思案を巡らせ、こうつぶやいた。まさにこの一言に尽きる。試行錯誤を繰り返しても、なかなかうまくいかない。うまくいっても、なかなかそれが続かない。そんな日々の連続だった。だが、ただ苦しみ、もがいただけで終わったわけではない。
「でも、すごく大きな1年にもなったと思います。考え方が180度変わりましたから」
もがいた先には、確かな手応えをつかめた1年だった。
波乱の幕開けだった。常勝ソフトバンクの先発ローテーションの一角を任されて迎えた開幕2戦目のオリックス戦(3月31日)。5回途中4失点と満足いく投球はできずに敗戦投手となった。そこから4試合白星がつかめず、失点を繰り返した。
初勝利は5月5日のオリックス戦。工藤公康監督の誕生日に、あと一歩でノーヒットノーランという快投で、1安打完封勝利を挙げた。さらに続く13日の北海道日本ハム戦でも2安打完封勝利。2試合連続の完封勝利という好投を見せて、この先も白星を積み重ねていくだろうと思われた。
だが、ここから苦悩の月日が長く続くことになる。翌週の千葉ロッテ戦で5回7失点KOを食らうと、そこから8試合連続白星なし。一度は中継ぎ登板を強いられる憂き目にもあい、わずか2カ月ほどの間で2度もファーム落ちを宣告された。
「人生で一番じゃないかっていうくらい悩みましたね」
普段は飄々(ひょうひょう)とした口ぶりで話し、あまり苦悩の色を表に見せない武田。だが、このときばかりは表情は暗く、そしてこれまでにないくらいに頭を悩ませた。
「年々悪くなっていっているなという感覚を実感できたシーズンでした。抑えられるときはすごく抑えられるんですけど、悪いときはとことん悪い。悪いときの度合いがハッキリ出ました」
感じていた不安が現実に
宮崎日大高から11年ドラフト1位でソフトバンクに入団した武田。ルーキーイヤーの7月に1軍に初昇格すると、初登板初先発で初勝利を挙げ、そこから高卒ルーキーでは46年ぶりとなるデビューから無傷の4連勝。最終的に8勝1敗、防御率1.07という成績を残した。
2年目、3年目は右肩故障などもあって振るわなかったものの、4年目の15年に初の2ケタ勝利となる13勝、翌年も14勝を挙げて2年連続2ケタ勝利をマーク。エース候補として順調にステップアップを遂げているように見えた。だが、17年はまたも右肩を痛めて6勝止まり。そして、今年の開幕から続いた不振。小手先だけではどうにも対処できない。感じていた“不安”が、いよいよ現実のものとなった。
「高校まではできていた投げ方が、できなくなっていたんです。プロに入っていろいろな知識が増えて、こういうふうに投げるんだという“感覚”ができたことで、自然体で投げられる投げ方ではなくなってしまっていた。理にかなっているか、かなっていないか、というところで、理にかなっていない投げ方をしていたということです。去年の肩も、理にかなっていない投げ方になっていたから痛めたんだと思うんですよね。投げ方を確立していないというか、自分で分かっているはず、やろうとしていたはずの投げ方を、決まった枠の中でやろうとしていたんです」
既成概念の“破壊”
7月18日の西武戦で2回7失点KO。翌日に2軍落ちするも、ここからの10日間が武田に光を与えた 【写真:BBM】
暗中模索──。まさに暗いトンネルの中にいた武田に、ここからの10日間が光を与えてくれた。久保康生2軍投手コーチの指導の下、イチからフォームを見直した。その中で気付いたこと、それは既成概念の“破壊”だった。
「日本のピッチャーってこういう投げ方でしょう、こうあるべきでしょう、みたいな中でやっていた感じが強かった。その中でも『下半身をしっかり使って投げる』というのが、自分の中での一番の間違いでした。“使って”というのが違っていた。調子が悪くなったときに直す方法も、日本では下半身から直すように言われるんですけど、今の僕の理論から言うと、下半身は“使わない”。上半身の動きを直すと、下半身は勝手についてくるんですよ。上半身の動きを整えると、下半身は自動的に、その動きをせざるを得なくなる。下半身を使おうとすると、逆に使えなくなる。投げに行こうとすると、逆に投げられなくなる。今年、それに気付けました」
無期限ファーム調整だったはずが、中田賢一の急病により、最短の抹消期間で再び1軍に。だが、このわずか10日間での取り組みが、武田に大きな確信をもたらすことになる。復帰戦となった7月29日の東北楽天戦。相手打線をわずか3安打に封じて、今季3度目の完封勝利を飾ったのだ。過去2回の半信半疑での完封とは違った。やっていることは間違っていない──。そう実感するには十分だった。