“敵将”エディー、日本への思い 「真のラグビー国になりました」

斉藤健仁

強烈な“口撃”も、リーチは「憎めないエディーさん」

エディージャパンで成長したリーチ マイケルは圧巻のトライを奪うなど活躍した 【斉藤健仁】

 だが、ふたを開ければ、さすが、エディーだった。11月の4試合は「ワールドカップの予行練習」と、かつて日本代表時代にも使っていた言葉を繰り返した。日本代表時代、リーチを主将にしたように、副将だったSO/CTBオーウェン・ファレルをリーダーシップの底上げのためにHOディラン・ハートリーとの共同主将に指名。南アフリカ代表戦ではフィジカルを前面に出し12対11で勝利。続くニュージーランド代表戦では、ハイパントキックを効果的に使い、15対16で敗戦したものの、あと一歩で勝利できたという内容だった。

 南半球の強豪相手に互角に戦い、エディー節はますます冴える。地元のメディアに日本代表戦の対策を聞かれて「酒と寿司」と答えたり(LOマロ・イトジェによると本当にお寿司を食べたという)、「フィジカルにスマッシュにいく。(日本代表選手たちは)寺に行って祈れ!」と“口撃”した。ただ、日本代表選手たちもジョーンズHCには十二分に慣れているため、意に介している様子はまったくなかった。
「本当に憎めないエディーさんの言っていることだと思いますが、そこに対して何も言うこともないですし、気にしていないですし、深く考えてもいないです」(リーチ)

「もしイングランド代表の選手の中に悩んでいる人がいれば、相談に乗ります(苦笑)。エディー対策は山田に聞け、寺に行っても解決しないぞ、と」(WTB山田章仁)

「本当に良くなった。ケンキはいい選手ね!」

イングランド代表として来年のワールドカップ制覇を狙う 【斉藤健仁】

 実際の試合は、エディーの薫陶を受けたリーチ、CTB中村亮土、WTB福岡堅樹、山田らが躍動。イングランド代表が逆転勝ちし、日本代表は敗れたが、ジョーンズHCは日本語で「素晴らしいね。(日本代表は)本当に良くなった。ケンキはいい選手ね!」とかつての教え子たちの成長した姿に目を細めた。

「(日本代表とトゥイッケナム・スタジアムで対戦することの意味を)今朝、考えていました。私が日本代表をジョージアやルーマニアに連れて行きました。フレンチバーバリアンズとの対戦をル・アーブルで組みました。今や日本代表はオールブラックスと対戦し、8万1000人のトゥイッケナムでイングランド代表と対戦した。日本は真のラグビー国になりました。

 今日の日本代表のパフォーマンスにも満足していますし、日本代表のラグビー国としての地位が上がったと思います。さらにここに日本のメディアがたくさん来ています。ラグビーコミュニティができています。ジェイミー(・ジョセフ)とトニー(・ブラウン)は素晴らしい仕事をしていますし、リーチの卓越したキャプテンシーで次々と若くて才能のある選手がブレイクしています」(ジョーンズHC)

 イングランドメディアから、日本代表に前半リードされたことを批判されて「今日はレッスンだ」、「ファイナルスコアがすべて。後半は25対0でした。日本代表にアップセットされるとは思っていませんでした」と早口で話していたジョーンズHCは日本代表選手やメディア、知人との束の間の再会を楽しんでいるかのようだった。

日本開催のワールドカップへ

イングランド代表の共同主将を務めるSOオーウェン・ファレル 【斉藤健仁】

 エディーイングランドは、秋のテストマッチシリーズの最終戦で、こちらもジョーンズHCがかつて率いたオーストラリア代表を37対18で下し、対ワラビーズの連勝を6に伸ばした。

 日本代表時代と違い、エディーは怒鳴ったり叱ったりすることはないという。FL/LOコートニー・ローズは「エディーはその時期によって何をすべきか考えて行っている。今秋はワールドカップの準備として捉えている。その意味で言うとフィジカルに重点を置いたのでは」と言えば、SOファレルは共同主将という立場もあり「日本人はエディーに関心があるようだけど、チームというのは、コーチや選手のそれぞれが役割をまっとうすることで成立するもので、ひとりの変化によって変わっていくものでもない」と、質問をかわし、あくまでもチームとして戦っていることを強調した。

 いずれにせよ、今秋のテストマッチシリーズを、ジョーンズHCは3勝1敗で終えてピンチを脱出したことは間違いない。イングランド代表を復調させ、選手たちに自信を取り戻すことにも成功した。エディーのワールドカップでの通算成績は16勝2敗である。よく知る日本で、外国人として初めてラグビーの母国を率いるジョーンズHCがワールドカップで再び旋風を起こす可能性は十二分にあろう。

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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