真壁刀義はプロレス界の倫理委員長!? 東京03豊本のプロレスあれこれ(特別編)

構成:スポーツナビ

棚橋選手の“覚醒”はこの2年?

来年の東京ドームで再びメインに戻った棚橋選手は「ここ2年ぐらいだよ。本当に良くなったの」と評価する真壁選手 【スポーツナビ】

――真壁選手がG1で優勝した後、それこそ棚橋選手が笑われても「愛してま〜す」と言い続け歓声に変わり、中邑選手も“滾(たぎ)る”スタイルをやり続けて、今はWWEのトップレスラーになっています。やはりこの頃から、新しい“新日本のスタイル”が確立されてきたということでしょうか?

真壁 俺もそう思ってる。新しいスタイル。凝り固まったエリート集団のプロレス。新日本プロレスはこうだという見えないものが、でき上がっていたんですよ。だけど、俺たちが子どもの頃に惚れたプロレスって、それじゃないんだよね。何というか、人と人との憎しみ合いだったり、ジェラシーだったりがあって、その戦いにワクワクしていたんだと。その部分を見せないプロレスは、プロレスじゃないんだよ。ただのスポーツライクな格闘技の一種。そういうのが見たかったら、総合格闘技でも見てればいいだけで、そうじゃないんだよね。レスラーとレスラーの憎しみ合いだったり、ジェラシーだったり、人間模様。そういうのが見たいんだよ。そこを見せられたのが、俺と中邑だったと思うよ。中邑も迷っていた時に、叩き潰したからね。

豊本 なるほど、中邑さんも一度叩き落して、そこから這い上がってきたんですね。まさにライオンが子どもを谷に突き落とすみたいな。だからこそ、真壁さんは立ち上がり様にダイビングニーを落とすんですね(笑)。

真壁 そうだよ(笑)。でも本物だったでしょ? 結局本物だったから今はアイツ、向こうに行っているし。それはすげえ良かったなと思っている。棚橋もクソ野郎だと思っていたけど、最近良くなったよな。

豊本 最近良くなった?

――棚橋選手は2011年にIWGPヘビー級王座の防衛記録を更新していますが?

真壁 全然後だよ。ここ2年ぐらいだよ。本当に良くなったの。

豊本 そうなんですよ! 僕も以前、コラムに書いたんです。
真壁 2年前までは俺が中邑に持っていた感情と同じ。周りが「格好良い」と言っているだけだった。でも最近の棚橋が良いのは丸め込みで試合をひっくり返すところ。アイツ、必殺技がハイフライフローしかなくて、それを連発してただけ。オカダ(・カズチカ)のレインメーカーもそうだけど、なんで同じ技を繰り返すんだよと。もうやめちまえバカヤローって思うんだよね。連発なら誰でもできるけど、一撃必殺だから格好良いんだよ。俺はね、そういう理論なのよ。
 そこをね、まさかの丸め込みで勝つ。ハイフライフローで勝つことにどんな説得力があったのか? でも、あいつの丸め込みは十分、説得力があるよ。それで「こいつ、やっと分かったな」と。昔からチヤホヤされてクソ野郎だったけど、やっと分かるようになったな。

豊本 一緒にタッグも組んでいたじゃないですか!?

真壁 組んでいても関係ねぇよ。でもね、最近のタイトルマッチで電光石火の丸め込みを見せた時、「お前それだよ」って思ったね。

豊本 僕はプロレスというのは3秒間、相手の肩をマットにつければいいものだと思っていて、最近は技もむちゃくちゃになってきたと。ですから棚橋さんは、ハイフライフロー以上のことをしなくて、3秒間、相手の息を詰まらせて勝利しているので、良いなと思っていました。それに昔の新日本プロレスはアントニオ猪木さんの幻影に取り憑かれていたけど、完全に今は「新日本=棚橋」にしたということで、人間味が出てきたなと思っていました。さすがに丸め込みは、僕には分からなかったですね。

真壁 俺はそこだよ。人間味ってところで言うと、アイツはクソ野郎だけど、そこに内藤(哲也)が出てきたんだよ。派手な技でみんなに好かれたいのが見え見えでブーイングだらけだったけど、内藤がすごいのはそこから相手を上手く利用して、大歓声に変えてきたでしょ? そうしたら今度は棚橋の立場がなくなっちゃった。棚橋はこれに対抗してきたんだよ。
 俺が言いたいのは説得力が足りないということ。大技をバンバン出しまくればいいわけじゃない。ただ勝ちたいんだったら、一発ガーンと頭を蹴ればいいし、大技を何十発と出せばいいだけ。でもアイツがレインメーカーをかわして電光石火の丸め込みで決めると、ワーッと盛り上がるんだよ。それが最高に格好良いじゃん。俺がアイツに求めるのはそこ。「お前、やっと気付いたか」と。その上手さがお前の強さなんだと。俺はすごくそれを思ったね。まあ、俺は関係ないんだけどさ(笑)。

豊本 なるほど。その流れで聞きたいんですけど、棚橋さんとケニー(・オメガ)さんが東京ドームでやるじゃないですか? 今、2人がプロレス観のやり合いをしているわけですけど、真壁さんから見て、ケニーさんはどう見ているんですか?

真壁 俺、ケニー・オメガには感情が入らないんだよね。良い悪いじゃなくて、感情が入らない。何か、「こいつぶっ殺してやる」とも思わないし。3WAYのIWGP戦(18年10月8日、東京・両国国技館)の時も、そこに彼が望んでいるプロレスがあるのかなって思った。だけど、ケニー対YOSHI-HASHIとか、ケニー対石井(智宏)とかでは、顔面に膝を食らわせたりしていて、ああいうのを見たとき、「コイツとやってみたい」と思ったけどね。

豊本 それはレスラー目線ですか? それともプロレスファン目線ですか?

真壁 両方かな。こないだのIWGP戦なんかは、心に残んなかった。だったら即効、試合を決めちゃえよと。その方がレスラーとして相手をねじ伏せた感じになるだろ? もちろん評価の仕方は難しくて、寸評の仕方は人それぞれ全然違うからさ。でも、棚橋がその試合の後、俺の心をくすぐるようなことを言ったんだよ。「ここは新日本だ」ってね。棚橋の野郎、俺のセリフを盗みやがったなと思うぐらい、ジェラシーを感じたね。
 俺も若い奴らに言ったことがあるんだよ。派手な技ばっかりやって、テクニカルなことばかり覚えて、本当のレスリングの地力でねじ伏せることを若手の間にやらないことを怒った。「ここは新日本プロレスなんだよ。それができないなら、ほかの団体でも行けよ」ってね。本物のレスリングを見せるっていうのが、新日本の教え方なんだよ。だから「ここは新日本プロレスだ」って。だから、あいつ、俺の日記、盗んだのかもな(笑)。

「スッキリ」で鍛えられた“スイーツ真壁”

実は“スイーツ真壁”の収録が「辛かった」と本音を吐露 【スポーツナビ】

――ここまでいろいろ過去を振り返ってもらいましたが、最近の真壁選手のお話も伺えればと思います。2年前のワールドタッグリーグで優勝し、昨年は20周年記念興行も終えました。ただ王座戦線に絡む機会は減っていますが、真壁選手自身、今の状況はどう捉えていますか?

真壁 ひとつ俺が考えているのは、俺がメディアで踏ん張っている姿、(動画配信サイト「新日本プロレスワールド」の)解説で踏ん張っている姿、大会の第2試合、第3試合、第4試合とか前半戦で戦う姿、いろいろ見えると思うんだけど、これってほかの選手じゃできないでしょ? できるわけがないよな。
 何でかっていうと、俺、日本テレビの「スッキリ」で食レポを3年半以上やらせてもらったのよ。ほぼ4年。そこでディレクターにすげえしごかれてね。

豊本 コメントとかですか?

真壁 そうそう。俺がコメントを言うと、「真壁さん、もう1回」と。もう1回やっても「真壁さん、もう一丁」って何度も何度も繰り返して。

豊本 それじゃ山本小鉄さんじゃないですか! もう一丁、もう一丁って。

真壁 スクワットは1000回からだよって、バカ野郎!(笑) まあ、それぐらい厳しかったのよ。俺、まるっきし素人だったから。どこにでもいるプロレスラー、単なるスイーツ好きのプロレスラーだから。そりゃあ、テレビに出演させてもらうんだから、人の10倍以上やんなきゃダメでしょ。だから厳しく言われたよね。厳しく言われて、正直言うと「早く俺をクビにしてくれよ」って思ったね。辛すぎて。だけど、ふと1回収録が終わった後、「ちょっと待て、普通はテレビに出たいもんだよな。そこでスポットを当ててくれるんなら、一生懸命やってクビになればいいや」と思ったんだよね。一生懸命やってクビになるなら、礼は尽くしただろうと。それで良しと思って、いろいろな番組の食レポを見て、表現の仕方をトレーニングしたね。彦摩呂さんのビデオを見て、「俺だったら、こんなこと言おうかな」とか。
 でも1シーンで4回も5回も繰り返すから、すぐ俺の頭の中で用意した単語はなくなるんだよね。最終的には、「真壁さん、このコーヒー、どうですか?」って聞かれて、「あれだな。台風の次の日に、道端を歩いていると砂利が泥だらけになって水が溜まってるだろ? あの水溜りぐらい、いい色だよ」って。もうわけ分かんないよね。

豊本 全然、褒めてないじゃないですか!(笑)

真壁 でも、ディレクターは「真壁さん、それいいっすね」ってね。もうドサクサの苦し紛れですよ(苦笑)。
 普通の食レポもするし、狙ったコメントも考える。でも、「真壁さん、もう1回いきましょう」ってなって、そのさじ加減が分からず本当にお手上げ。だったら最初から全力で全部やろうと。まともなこともやるし、文字羅列させたり、わけの分かんないことを言ったり。そうすると、まともな食レポが選ばれたり、4番目に使ったのが選ばれたり、本当にメチャクチャで、なんだこの世界観って。結局、俺みたいな素人は、最初から全力でやるしかないから、全部全力コメント。

豊本 真壁さんは本当に真面目ですね。

真壁 俺に任せられた仕事なら、100%で相手に返して、相手が100%で受け取ってくれたらそれでいいだろって。

豊本 真面目ですね!(笑) なかなかそれができないんですよ。普通はどこかで手を抜いて、怠けちゃうものですよ。でも、成功する人は必ず努力しているって、長州力さんも言ってましたね。

真壁 (長州さんの口マネで)そりゃそうですよ。そんなんじゃないと通用しないですよ(笑)。

ワールドタッグリーグは「俺自身も見物」

現在開催中のワールドタッグリーグは「本当に、俺自身も見もの」と話す真壁選手(右) 【スポーツナビ】

――ある意味、メディアとリングの両立を先がけてやっている存在になるのが、今の立ち位置なんですね。

真壁 そうだね。先がけだし、こんなチャンス、絶対にもらえないからね。

豊本 確かにそうですね。

真壁 だから今はどっちを選ぶかではなく、100%でやるしかねえなと。例えばタッグマッチで最高な試合を見せるには、タッグパートナーを信頼しつつも見守りながら試合をするってこと。ヘナーレはまだヤングボーイで荒削りな面もあるからそれをしっかりサポートして、暴れるところは2人で思いっきり暴れて。

豊本 でも結局、メディアに出て真壁さんの名前が新日本の中でもトップクラスで一般に広まり、それで「プロレスを見てみようかな」と思う人が、まずは真壁さんを見に行くことで、ほかにも棚橋さんだったり、オカダさん、内藤さんがいる。そこでそういう選手を好きになってくれれば広がりますからね。

真壁 そう! それでいいんです。俺もアントニオ猪木を見に行って、藤波辰爾を好きになって、長州力を好きになった。それがタイガーマスクだっていい。全部同じなんです。だから入り口は俺でいい。ただ、俺が入り口になるなら、俺の所属している新日本プロレスを見ろよとは思っています。とくと味わえと。新日本プロレスもすごくいいカラーの選手がいっぱいいるし、内藤もオカダも、素晴らしいですから。彼らに言うことはないですよ。

豊本 本間(朋晃)さんには?

真壁 本間? アイツには言うことしかねぇよ(苦笑)。

豊本 (大爆笑)

真壁 でもそんな感じでの今があるので、気難しい顔をしながら会場とか道場には入るようにしてます。「真壁さん、機嫌悪いんじゃないか?」って思わせるようにね。

豊本 緊張感を与えるということですか?

真壁 緊張感ですよ。そういうのを持たせておかないと、若いのがナメてきやがるんで。ちょっといい試合をして、スポットをもらい、雑誌の取材を受けましたと。それだけで鼻が2メートルぐらいに伸びますからね(笑)。
 それぐらいでピノキオになるな、俺たちが教えた後輩はみんなやったよ、勘違いするなということです。少しでも甘い顔をするとそうなるので、あいつらは子どもと同じ。二十歳を超えていても、大人子ども。だから俺たちが厳しい目で見てやって脱線しないように戻してやる。天狗になる前に、その鼻をへし折ってやるんです。

豊本 もう、新日本プロレスの倫理ですね!(笑)

真壁 俺ら、新日本プロレスが低迷していた時代から戻るまで10年かかっていますからね。10年ですよ、10年。その間にいろいろ苦しい思いもしたし、勉強もいろいろできた。でもやっぱり、俺が思っている信念は間違っていないなと、もう完全に立証されたので。だからこの考えを変える必要はないなと。

――それでは最後に、豊本さんからこれからの真壁選手に期待することなどはありますか?

豊本 今、話を聞いただけでも本当に、新日本プロレスの倫理委員長だなということが分かりました。真壁さん、元々、プエルトリコにいましたよね? その時にうちの奥さん(ミス・モンゴル)と一緒だったんです。その当時の話を奥さんに聞いているのですが、向こうの道場で素人みたいな選手がいきなりプロレスデビューしていて、やっぱり若いから調子に乗っていると。それを見て、真壁さんは「何なんだ、あいつらは」と言っていたと。それを見て真壁さんはきちんと常識があるプロレスラーなんだという印象を受けたと話していました。
 多分、新日本から出てデスマッチをしていた時期に自分が見えたとおっしゃっていましたが、元々できていた人なんですよね。真壁さんは。今の立ち位置は、成るべくして成っていると思います。

真壁 そんな感覚は全然ないですけどね。

豊本 でも素晴らしいと思います。あと気になるのはGBHをどうするかですね。

真壁 そうですね……。コケシの野郎を引っ叩いてでも、上がって行くしかないですからね。でも彼自身の意欲があるから、やってみろやと。その後のケツ持ちは俺がやるからよと。

――そうなると年末のワールドタッグリーグ、そして来年の1.4東京ドームも楽しみですね。

真壁 本当に、俺自身も見ものだよ。本当にどうなるか分からない。今年は14チームが参加して、総当りのリーグ戦になるでしょ? そんなことありえないからね。全部のタッグチームと当たるわけですから。勝敗に四の五の言わせないわけですよ。その決着戦というのが面白い。俺としては最高だよ。
 今回のパートナーのヘナーレはまだこれからのヤツだけど、一回アキレス腱切って苦しい思いもしているし、俺もやってるからよく分かるんだよね。でも一回、地獄の底まで落とされた人間は、上がるしかない。こけしの野郎の気持ちを背負うつもりはねぇけど、今回もテッペンを狙うしかねぇなと。それしかないんだよ、俺たちには。

豊本 期待しています!

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