ロペテギが陥った「四面楚歌」状態 マネジメントに不可欠なフロントとの関係

小澤一郎

亀裂が見えていた選手との関係、立場の弱さを露呈

ロペテギ(中央)と選手の間にはすでに亀裂が入り始めていた 【写真:ムツ・カワモリ/アフロ】

 一方でロペテギと選手の関係にも亀裂は見えていた。

 たとえば、マルセロは公の場ではロペテギ擁護の立場を崩さなかったが、クラシコ直前のCLプルゼニ戦でのゴール後、ジダン体制でフィジカル部門の責任者を務めていたアントニオ・ピントゥスに駆け寄り、彼にゴールを捧げている。一部報道によれば、ロペテギは自らのチームスタッフの一人であるフィジカルコーチのオスカル・カロを同部門の責任者として立て、ジダンが去っても籍を残したピントゥスを事実上の構想外にしたとされている。しかし、30代前半のオスカル・カロのフィジカルトレーニング、コンディショニングは一部選手からの評判が悪く、ピントゥスのメソッドに戻すべきだと考えていた中心選手がマルセロだった。

 とはいえ、自身が連れてきたフィジカルコーチではないピントゥスがフィジカル部門に残っているあたりにも、ロペテギが置かれた立場の弱さが見える。レアル・マドリーの監督にとって一番重要なマネジメント力を発揮しようにも、自らが望んだ選手、スタッフでチームを作れないのであれば、結果が出なくなった途端にチームは四面楚歌の状態に置かれてしまう。短いキャリアの中でもロペテギはポルトやスペイン代表で強いパーソナリティー、リーダーシップを発揮して比較的うまく組織マネジメントを行っていた監督だ。また、自らのスタッフにメンタルコーチを入れて、マネジメントやリーダーシップの専門性を高めてきた人間でもある。確かにジダンやジョゼ・モウリーニョのようなカリスマ性はないが、マネジメント能力が低い監督でもない。

 ジョゼップ・グアルディオラ体制で黄金期を築いたバルセロナの4シーズンを追ったドキュメンタリー映画『ボールを奪え パスを出せ/FCバルセロナ最強の証』の字幕監修をしていて、あることに気づいた。全てがバラ色に思えるペップ・バルサの4年でさえ、会長交代があった最後の4年目はフロントの後ろ盾を失ったペップが精神的に不安定となり、主力選手の信頼を徐々に失っていくのだ。バルサ時代のペップでさえ、うまくマネジメントできていないシーズンがあったことを思えば、ビッグクラブの監督のマネジメントがいかにフロントに影響されるものなのかが分かる。4カ月で2度の解任を告げられる事態を招いた張本人は確かにロペテギだが、「フレンだけの責任ではない」という『マルカ』紙の見出しはあらためて記しておきたい。

スポーツナビからのお知らせ

木崎伸也:著、ツジトモ:イラスト、F:制作協力 【講談社】

 ロペテギ監督解任の1つの要因となった、「チームマネジメント」。サッカーチームにとって、とても重要な要素であることは間違いありません。それは日本代表においても同様だと言えるでしょう。

 遠慮、確執、齟齬(そご)、断絶……。降りかかるさまざまな問題を、監督はどのように解決し、チームを1つにまとめていくのか。代表チームのキーマンに食い込み、ディープな取材を続ける気鋭のジャーナリスト木崎伸也氏が、フィクションで描く「勝敗を超えた日本代表の真相」――。小説『アイム・ブルー』が、スポーツナビでの連載に新章を加え、大幅加筆してついに書籍化!

【もくじ】
第1章 崩壊――監督と選手の間で起こったこと
第2章 予兆――新監督がもたらした違和感
第3章 分離――チーム内のヒエラルキーがもたらしたもの
第4章 鳴動――チームが壊れるとき
第5章 結束――もう一度、青く
第6章 革新――すべてを、青く

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著者プロフィール

1977年、京都府生まれ。サッカージャーナリスト。早稲田大学教育学部卒業後、社会 人経験を経て渡西。バレンシアで5年間活動し、2010年に帰国。日本とスペインで育 成年代の指導経験を持ち、指導者目線の戦術・育成論やインタビューを得意とする。 多数の専門媒体に寄稿する傍ら、欧州サッカーの試合解説もこなす。著書に『サッカ ーで日本一、勉強で東大現役合格 國學院久我山サッカー部の挑戦』(洋泉社)、『サ ッカー日本代表の育て方』(朝日新聞出版)、『サッカー選手の正しい売り方』(カ ンゼン)、『スペインサッカーの神髄』(ガイドワークス)、訳書に『ネイマール 若 き英雄』(実業之日本社)、『SHOW ME THE MONEY! ビジネスを勝利に導くFCバルセロ ナのマーケティング実践講座』(ソル・メディア)、構成書に『サッカー 新しい守備 の教科書』(カンゼン)など。株式会社アレナトーレ所属。

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