連載:燕軍戦記2018〜変革〜

最下位→2位と快進撃のヤクルト 小川監督&宮本ヘッドで「変革」進む

菊田康彦

「凡事徹底」できずCS敗退

CSでは3位巨人にまさかの2連敗。宮本ヘッドは「こちらの責任」と敗因を語る 【写真は共同】

 10月は6勝1敗と、右肩上がりでポストシーズンに突入したヤクルトも、3年ぶりの大舞台では厳しい現実を突きつけられた。

 本拠地の神宮球場で行われる巨人とのCSファーストステージを前に、宮本慎也ヘッドコーチは短期決戦を戦う上でのポイントを語っていた。

「CSファーストステージは超短期決戦なので、流れが(勝敗を)すごく左右する。流れをつかむには、シーズン中からずっと言っている『凡事徹底』ができるかどうか。全力疾走を怠ったりとか、ベースカバーを怠ったりした時には流れが(相手に)行っちゃうので、当たり前のことをできるかどうかですね」

「凡事徹底」とは、なんでもないような当たり前のことを徹底的に行うこと、という意味の四字熟語である。この言葉は昨年までも首脳陣がしばしば口にしていたが、今年は宮本ヘッドらがシーズンを通してナインにその意識を浸透させてきた。だが、結果的にCSではそれができなかった……。

 第1戦、1回表の巨人の攻撃。ヤクルト先発の小川が1死から2番の田中俊太を四球で歩かせると、その田中が次打者のケーシー・マギーの初球に盗塁成功。バッテリーは虚を突かれ、捕手の中村悠平は送球すらできなかった。

「(流れを)相手に渡してますよ。僕らの教育不足です。動いてくるって言ってるのに初球に走られて。けん制も入れないし……」

 試合後、この場面に言及したのは、ほかならぬ宮本ヘッドだった。1死二、三塁から四番・岡本和真の犠牲フライで先制した巨人は、同点で迎えた3回に坂本勇人のソロで勝ち越し。7回には無死一塁、打者・陽岱鋼の場面でヒットエンドランを仕掛けると、これが二塁打となって1点を加えるなど、ヤクルトを引き離した。

「(陽の)エンドランの時も、牽制を入れさせてるのにサインを見落としてる。教育不足です、僕らの。(7回の攻撃では)ランエンドヒットでセンターにフライを上げてるし……。1年間何を教えてきたんだろうって思いますね」

 1対4で初戦を落とし、クラブハウスに引き上げる道すがら、宮本ヘッドはそう言って肩を落とした。流れが大きくモノを言う「超短期決戦」で隙を見せれば、流れは相手に持っていかれてしまうし、それを取り戻すのは難しい。翌日の第2戦は相手先発の菅野智之にノーヒットノーランに抑え込まれ、0対4で完敗。ヤクルトにとって3年ぶりのCSは、あっけなく終焉(しゅうえん)を迎えた。

「せっかく神宮でできたのに、ファンの方に申し訳ないなっていう気持ちが一番ですね。見せどころなく終わってしまったので……」

 そう言ってファンに詫びた宮本ヘッドは、「凡事徹底」できずに敗れたことについては「徹底させられなかったのは、こちらの責任。できるようにしていかないと」と話す一方で、「1年間戦う体力、技術だけでなく、短期決戦を勝ち抜く『野球脳』みたいなものもないと、日本一になるには両方必要なんで。自分に何が足りないか、どうすればいいかっていうところをしっかり考えてから、秋季練習に来てくださいと言いました」と、ナインの奮起を促した。

小川監督が感じた手応え

 昨年のことを思えば、貯金9の2位という成績には胸を張っていい。ただし、優勝した広島には7ゲーム差を付けられ、直接対決では6勝19敗と全く歯が立たなかった。その広島に目の前で優勝を決められ、CSでは巨人・菅野に史上初のノーヒットノーランという屈辱も味わった。だから「この悔しさを次につなげていかないといけない」と、小川監督は言う。

 悪夢のような2017年シーズンから1年。ヤクルトの「変革」は進んだのか、選手の意識は変わったのか──。

「そんなにすぐ変わるものじゃないですけど、今年は試合に向かう意識というところでは、彼ら自身も(変わったと)感じる部分があると思うんですよ。実際、客観的に見てもそういうところで感じるものはあったので……。もちろん変わってきたことは事実だけど、今のままじゃいけない。向上するためには、さらに変化していかなきゃいけないという話は(選手に)しました」(小川監督)

 ローマは1日にしてならず。とはいえ、前に進んでいるのは間違いない。10月22日から始まる秋季練習、そして来月の秋季キャンプと、この秋も確実にその歩みを進めていく。さらなる「変革」を目指して──。

<了>

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著者プロフィール

静岡県出身。地方公務員、英会話講師などを経てライターに。メジャーリーグに精通し、2004〜08年はスカパー!MLB中継、16〜17年はスポナビライブMLBに出演。30年を超えるスワローズ・ウォッチャーでもある。著書に『燕軍戦記 スワローズ、14年ぶり優勝への軌跡』(カンゼン)。編集協力に『石川雅規のピッチングバイブル』(ベースボール・マガジン社)、『東京ヤクルトスワローズ語録集 燕之書』(セブン&アイ出版)。

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