【追悼】バウマン事務総長からの贈り物 FIBAのトップが示してくれた「信頼の証」
彼の眼には日本の明るい未来が見えていた
バウマン事務総長(左)の眼には、日本の明るい未来が見えていたからこその制裁だった 【写真:アフロスポーツ】
「予選は来年夏に始まるので期間は短い。6カ月間でタスクを達成して、状況を改善することで承認にこぎつけなければいけない。確かに難しい作業だが、不可能ではない。女子代表は出場の可能性も高いと聞いている。でもこの実現はクラブのリーダー、リーグ、さまざまな都道府県の代表の手に掛かっている。タスクフォースとしては全力で、6月までにすべての仕事を終えるということを目指す」
NBL、bjリーグと分裂していた男子のトップリーグ統一を疑問視する質問に対してはこう返していた。
「皆さんが強い懐疑心を持っていることが理解できないのと同時に、問題が長く続きながら8年間に渡って解決策が見いだされていないことで楽観的な気持ちが薄れているのかもしれない。でも私は楽観主義者だ」
当時の空気感を思い出せば、その言葉が実現すると考えていたファンは少数派かもしれない。それくらい重苦しい空気、停滞感が日本のバスケ界には漂っていた。しかしバウマン事務総長の言葉通り、リーグの統一、JBAの新体制構築といった改革は6カ月の短期で決着した。彼の眼には日本バスケの明るい未来が見えていた。だからこそFIBAを挙げて難局に介入し、事態をいい方向に導いてみせた。
バウマン事務総長は今年3月にも来日し、JBAの臨時評議員会にオブザーバーとして出席した。その時も記者の取材にこう応えている。
「日本バスケの改革は成功しているのか?」との問いに対しては「成功しています。イエスです」と切り出し、こう続けた。
「協会のチーム、理事会メンバーは素晴らしい働きをしてきた。数年前まで誰も信じなかったと思うが、リーグも見事に成功している。観客数が増え、メディアへの露出も増えた。三屋(裕子)会長は現在FIBAのセントラルメンバーに入っている。それは日本が変わってきたというわれわれからの一つの信頼の証だ」
描いていた十年後、二十年後の未来
日本が今まさに戦っている男子バスケのワールドカップ(W杯)予選は、19年の中国大会から「ホーム&アウェー方式」が全世界で導入されている。これにより日本のバスケファンも6月のオーストラリア戦、9月のイラン戦のような熱い戦いを生で見られることになった。
従来は「セントラル方式」と言われる2週間程度の短期集中開催が標準だった。サッカーの世界でもW杯アジア予選は1994年の米国大会まではセントラル方式で、98年のフランス大会から「ホーム&アウェー」に切り替わった。日本に関して言えば、この国のサッカー協会が代表ビジネスによって大きな収入を得て、経営的に拡大していく端緒になった制度変更だ。
もちろんバスケとサッカーでは枠組みが違い、協会と各国の力関係も異なる。ホーム&アウェー方式を導入するためには、全世界を股にかけてリーグ戦のカレンダーを調整し、国際試合の日程を確保する必要があった。NBAやNCAA(全米大学体育協会)は現時点でW杯予選への対応を行っていないし、お膝元のヨーロッパでもクラブ側の反発があると聞いている。
しかしバスケが世界へより深く根ざし、競技としてビジネスとして飛躍するために、彼は十年後、二十年後の未来を思い描いていただろう。彼のリーダーシップがあればその構想は実現しただろうし、そうなれば各国、各クラブもその利を享受できたはずだ。世界のスポーツ界は大きな存在を喪った。今はただ聡明で誠実で、並外れたビジョンを持っていたリーダーの逝去が悔やまれる。