希有なクラブの最強「ケミストリー」 HCに聞く、○○はうちがNo.1 西宮編
チーム創設時からのキーマンの存在
「最初に対戦したときにアウトサイドシューターの谷直樹と、ガードで得点力もある道原紀晃の2人が、特に強く印象に残っていたんだ。2巡目の対戦があるので、彼らの名前を覚えておかなくてはと、自分のノートに書き留めてもいた。次の対戦でも、その印象は変わらなかった。もし自分が来季も日本でHCをするなら、彼らとサインしたいと思っていたんだよ」
谷は兵庫ストークスとして誕生したチーム創設時に、道原はその翌年に加入した、共に生え抜きのプレーヤーである。選手の出入りが多く発生するBリーグの中で、西宮は彼らに代表されるように、長く在籍する選手が多い希有なチーム。それゆえ、いち取材者として距離を置いたところから接しても、選手間の絆の深さを感じさせられる場面に出会うことは少なくない。今季、指揮官に就いたばかりのライコビッチHCも、西宮がリーグNo.1だと誇れるのは、ずばりその部分だと言う。
「まだシーズンが始まっておらず、他のチームとの比較ができないので、絶対にこれがベストだと断言はできないが、このチームはとてもいいケミストリーを持っている。選手間はもちろん、スタッフやフロント陣も含めてだ。私は今までに、このような環境に身を置いたことはない。数人の新しい選手が入り、社長、GMも新しく替わった。ポジティブなエネルギーがあり、今は新しいことを生み出せるチャンスに満ちている。クラブ全体がいいケミストリーでつながっていることは、そのための大きな力になるに違いないよ」
目指すべきは「失点73〜74点。得点77〜80点」
「ディフェンス面は、これまで以上にハードにプレーすることを求める。オフェンスではタレント性のある選手がそろっているが、個々の能力が突出しているかといえば、そうではない。だが、たとえば谷や道原も個人では絶対的ではなくても、2人の力が合わされば攻撃力はリーグでトップ3に入る。そこに(ドゥレイロン・)バーンズが加われば、トップだ。そうするためには、攻守にわたって細部を意識してプレーしなければいけない。小さなことでもアドバンテージを得たら、それを大きくするために賢くプレーする。それが、私が求めるスタイルだ」
今季を戦う上で理想の勝ちゲームのスコアを問うと、傍らにあったホワイトボードを引き寄せ、ペンを走らせながらこう解説してくれた。
「われわれの力を踏まえた現実的なところから数字を導き出すと、目指すべきは失点を73〜74点に抑える。得点は77〜80点だが、理想としてはそれ以上を取りたい。失点と得点の数字を並べてみると分かるが、勝敗を分けるボーダーラインの数字は非常に近いところにある。攻撃と守備のバランスを保ちながら、試合中の勝負どころにいかに気付くか。それが、とても大事だ。勝つためには、細かいところで相手を少しずつでも上回らなければいけない。その小さな違いが、大きな変化につながるのだ」
東欧の知性派HCは、今季の西宮でどのような新しいことを生み出し、チームに新しい風を吹かせるのか。その手腕に注目したい。