リーグ最大のHCが目指す、仕掛けるバスケ HCに聞く、○○はうちがNo.1 八王子編

大島和人

圧倒的な強さでB3を制した「最新クラブ」

「最新クラブ」の八王子ビートレインズには文字通り、Bリーグ「最大」の指揮官がいる 【(C)TOKYO HACHIOJI BEE TRAINS】

 昨季はB3から昇格したライジングゼファー福岡がB2を1シーズンで通過し、B1への昇格を決めた。東京八王子ビートレインズにも快進撃の可能性はあるはずだ。八王子はB3の2017−18シーズンを圧倒的な強さで制覇。B2・B3入替戦で岩手ビッグブルズを83−55で下してB2初昇格を果たしている。

 2017年1月からクラブの指揮を執るのが石橋貴俊ヘッドコーチ(HC)だ。彼に八王子の「リーグナンバーワン」について聞くと、ユニークな答えが返ってきた。

「ヘッドコーチのサイズですね」。そう口にする石橋HCは、確かに210センチ・140キロというBリーグ最大の指揮官だ。

 間もなく50歳を迎える彼が、バスケを本格的に始めたのは18歳と遅い。高校もバスケ部に入ったがすぐ辞めて、その後は帰宅部だった。一般入試を受けて北海学園大学に入学すると、何と6つの運動部が石橋に声を掛けた。

「野球、バスケ、バレー、ハンドボール、アメリカンフットボール、あとなぜか卓球も(笑)。『俺は誰かに必要とされている存在なんだ』と認識しました。体の幅もあるので、バスケが一番向いていると思いました」

 石橋は大学の4年間で急成長を遂げた。「大学3年のときに北海道で『はまなす国体』があったんです。バスケを始めて3カ月で北海道代表になりました。国体の強化も同時に進めながら、北海道のバスケ関係者が協会を挙げて『絶対日本代表にする』と自分を育ててくれました」

 当時の国体は日本リーグに所属している選手は出場できず、各都道府県の選抜はクラブチームの選手や大学生で構成されていた。当時の北海道はセンターに石橋がいて、エースは内海知秀(元女子日本代表HC)。1989年の北海道国体では鈴木貴美一(現シーホース三河HC)を擁する秋田に敗れている。

 それでも石橋の成長は明らかだった。本人が「大学4年時には松下電器以外の全ての日本リーグチームからオファーがありました」と振り返るように、鳴り物入りで日鉱共石へ進むことになった。

今では考えられない「冬の時代」を経験した石橋

 しかし、90年代は実業団チームの休廃部が相次ぐ冬の時代。彼がプレーした日鉱共石、大日本印刷も後に廃部となっている。彼は00年の富山国体に合わせて結成された富山グラウジーズ(当時はクラブチーム)の創設メンバーとなり、プレーを続けた。06年のbjリーグ参入時も現役プレイヤーだった。

 彼はこう振り返る。「グラウジーズは国体のために作られて、ダントツで優勝しました。当時の富山は弱かったんですけれど、その強さを継続させようと、クリニックなどでずっと種をまき続けていました」

 今や富山は八村塁、馬場雄大と複数の日本代表選手を輩出するバスケどころだが、当時の「種まき」が今になって芽を出し始めているのかもしれない。

 引退後の石橋は富山、滋賀レイクスターズ、信州ブレイブウォリアーズ、埼玉ブロンコス、和歌山トライアンズとプロのHCを歴任した。16年には活動休止中の和歌山に籍を残しながら、広島ライトニング、ライジング福岡の指揮も2試合限定で執っている。合計すると八王子も含めて、計8クラブのHCを務めたことになる。

 石橋は言う。「苦しい時代ですよね。選手から急にHCになって、あまりキャリアがない中で、目立つこともあって、よく呼んでいただくんですけれど、勝てない時代が続きました。でも自分にとっては、良い勉強になった時期です」

 石橋は吉本興業のスポーツアスリート部門に所属し、オフにはトークショーなどもこなす「二刀流」のコーチだ。相手の気をそらさない話術を持つ彼は、チームの「顔」としても期待できたのだろう。ただし、資金力のないクラブで指揮を執ることが多く、結果はなかなか伴わなかった。その中で今のBリーグでは考えられないような厳しい環境も経験している。

石橋が試合前のミーティングで必ず話すこと

 八王子のHCに就任して90試合、石橋は試合前のミーティングで必ず同じ話をしている。

「Bリーグになって選手もコーチも『やれて当たり前』みたいなところが少しあるんです。でも感謝の気持ちが一番大切で、ミーティングの始まりに『ここでプレーできることは当たり前じゃない。多くの皆さんの協力があって成り立っている。感謝の気持ちを忘れずにコートに行きましょう』と話をしています。感謝の気持ちがあれば、コートでいい加減なプレーはできません」

 今季の八王子はB2に昇格し、選手やスタッフの入れ替えもあった。日立サンロッカーズ東京(現サンロッカーズ渋谷)を天皇杯制覇に導いたマイケル・オルソンが、アソシエイトコーチとしてチームに加わった。戦術面、選手交代などは石橋よりオルソンの役割が大きくなる。

 石橋はチームが目指すバスケットをこう説明する。

「スピードを上げながら、空いたところをどんどん仕掛けたい。セオン・エディは得点力があって、1オン1を仕掛けられるタイプです。あとは5人がしっかりスペースを取って、地久里(謙成)とかカメ(亀崎光博)が外から決めてくれれば、破壊力のあるオフェンスになる」

 新加入のルブライアン・ナッシュについては「これからですね」とディフェンスの課題を口にしていた。しかし、彼もbjリーグの15−16シーズンで最多得点を獲得したタレントだ。

 八王子が掲げるスローガンは「SHOW TIME」。昨季の八王子はインサイドの高さ、強さでB3を席巻した。今季はより速く得点もたくさん入る、オフェンシブなバスケットを志向している。Bリーグ最大の指揮官が率いる、B2最新クラブ・トレインズの「出発」に要注目だ。

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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