西武“山賊打線”はいかに生まれたのか 優勝まで脈々と受け継がれた「無形の力」

中島大輔

山川の飛躍にひと役買った指揮官

不動の4番に成長した山川。指揮官の後押しを味方にし、打者として大きく飛躍 【写真は共同】

 対して、若手は自分の道を進むことで結果を積み重ねた。その筆頭が、1年間4番を守り切った山川穂高だ。

「前後にいいバッターがいて、つなぎの意識を最初から持っていたら僕は受け身になるので、まずは攻めていく。状況や後ろのバッターを考えたりとかはありますよ。その中でまずは一番いい結果を求めて、ホームラン打てる球をまず持って、それが来なかったらどうするか。その選択肢は何個か持って打席に入っています」

 山川はリーグ最多の本塁打(46本)を放つと同時に、チームで最も多く四球(83個)を選んでいる。打ちにいく姿勢の中でしっかり見極め、主砲として不動の存在になった。

 山川や森友哉、源田壮亮、外崎修汰が飛躍し、さらに斉藤や木村というバックアッパーがしっかり自分の仕事をこなした裏には、指揮官の後押しも見逃せない。スタメンで起用したら、たとえ2打席凡退しても3度目のチャンスを与える。そうした中で、打席で「考える幅」が生まれたと山川は言う。

「ここは変化球だろうな、でもそれで真っすぐを見逃したら後悔するよなという待ち方とか、いろんなことを考えています。それは試合に出続けないと無理です。去年のいまの時期だったら(代打の)1打席勝負じゃないですか。それでは(いろんなことを考えるのは)無理です。去年の後半の数字があり、今年の数字の余裕も若干あってこそできることです」

ベテランはシビアな環境から奮起

 辻発彦監督の起用法が若手を伸ばす裏で、ベテランはシビアな環境に置かれた。この10年の西武を支えてきた栗山や中村はレギュラーを確約されず、シーズン途中までベンチスタートに回ることも少なくなかった。

 だが、そうした立場から奮起し、中村は8月の月間MVPを獲得。栗山は後半戦の山場で勝負強さを発揮した。控えだった頃も準備を入念に行い続け、与えられたチャンスをつかもうという前向きな姿勢が結果につながっていると栗山は語る。

「余計なことを一切考えないで、自分のスイングをすることだけをやっています。そうできるのは経験もありますけど、いまの僕は与えられたところをしっかりやるだけ。また明日も試合が続きますし、スタメンで出たいという気持ちもありますし。しっかりアピールするという、そこに集中してというのはありますね」

 球団史上最多の771得点を重ねた打線の援護を受け、多和田真三郎、菊池雄星、榎田大樹が二桁勝利をマーク。リリーフでは平井克典、野田昇吾の奮闘が光った。シーズン途中にヒース、マーティンと二人のリリーバーを獲得したフロントの力も加わり、埼玉県所沢市に本拠地を構えて40周年のシーズンに10年ぶりの優勝にたどり着いている。

10年ぶりVはスタートラインなのか?

今季の優勝が「常勝西武」復活の足がかりになるのか、そうはならないのか。球団のビジョンが問われる 【写真は共同】

 果たして、今季勝ち取ったペナントは「常勝西武」復活への足がかりとなるだろうか。10年ぶりの優勝が意味するのは、それだけ頂点から遠ざかっていたという事実だ。6球団でリーグ優勝を争うプロ野球において、決して及第点には達していない。

 今季の優勝は、現場の選手、首脳陣、裏方が力を結集させ、大勢のファンに後押しされて成し遂げられたものだ。そうして生まれた「流れ」や「勢い」は、何よりの力だった。

 だが、無形の力はシーズン終了とともに雲散霧消し、またゼロからの戦いになる。さらに、来季を戦うメンバーには入れ替えもある。未来から振り返ったとき、2018年の優勝はスタートラインだったと言えるのか、それとも単発的なものだったのか。

 節目の年に手にした勝利の美酒を熟成させ、チームの味わいを深めていくためには、今後、球団としてのビジョンが問われることになる。

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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