西武“山賊打線”はいかに生まれたのか 優勝まで脈々と受け継がれた「無形の力」

中島大輔

9月30日、10年ぶりのリーグ優勝が決まり胴上げされる西武・辻監督。“山賊打線”と称される強力な攻撃で頂点をつかみ取った 【写真は共同】

 本拠地・メットライフドームで福岡ソフトバンクと北海道日本ハムに怒涛の5連勝を飾り、10年ぶりのリーグ優勝を大きく引き寄せた9月19日。この5試合で18打数7安打、3本塁打、9打点と猛打をさく裂させたキャプテン・浅村栄斗は体のケアを終えると、真っ暗なチーム駐車場を引き上げながら12球団最強打線の真価をこう語った。

「いい形で回ってくれば、そのままいい流れで打てます。そういう勢いは、今年はずっとあると思う。誰かが打って、その流れに乗れれば大量得点にもつながるし。そういうゲームがずっとできている」

 決して目には見えない「流れ」や「勢い」という無形の力は、今季何度も相手を飲み込んだ。チーム防御率はリーグ最低の防御率4.27だったものの、ともに同トップのチーム打率2割7分3厘、771得点(2位ソフトバンクは641点、今季の成績は9月30日終了時点)を記録した“山賊打線”が優勝の原動力となった。

秋山「アウトのなり方が大事」

 27年ぶりの開幕8連勝を記録するなど好ダッシュを決めた4月中旬、前回の優勝を知る栗山巧は「10年前と似たような勢いを感じる」と話している。

「誰かが塁に出て、つながっていったらビッグイニングになるんじゃないかという期待を持ちながら、みんな点が離れてもやっていると思う。それはここ最近に限ったことではなくて、何年も前からずっとやって来たことの積み重ねが結果として表れていると思います。あきらめずにやる」

 栗山や中村剛也、浅村や秋山翔吾に代表されるように「強く振る」力は、今や西武の伝統であり看板だ。球団の黄金期を知る土井正博コーチ(当時、現中日)はまだ若手だった秋山や斉藤彰吾、木村文紀らに対し、「常勝西武の教え」を説いていた。名伯楽の薫陶を受けた秋山は4月8日の試合前、「アウトのなり方が大事」だと話している。

1番打者として打線を引っ張った秋山。黄金期を知る名伯楽の教えを自らのバットで体現し続けた 【写真は共同】

「例えば走れるランナーが一塁にいたら、走るのを待つのは当たり前。話し合いの中で、相手がストレートを投げてくるところでそれを振りにいくことも必要です。逆に言えば、甘く打ちやすいボールが来る可能性もありますし」

 リーグトップのチーム盗塁数128を「目に見える力」とすれば、その裏には一塁走者が走らない中でも相手バッテリーにプレッシャーをかけ、打者が狙い球を絞りやすくなるという「無形の力」もある。そうした積み重ねが「流れ」や「勢い」を生み出してきた。秋山が続ける。

「進塁打など最低限の仕事でチームに貢献した分を次の人が(ヒットや得点などで)返してくれたとして、それが自分に回り回って返ってくるものだと思っているので。その打席でヒットがほしいとか、漠然と打つだけでは、たぶんその人には苦しみしか返ってこない。うちの選手はもともと能力が高いと思われているということは、そういうことをやろうと思えばできるんですよ。個人の数字や調子に左右されることは野球をやっていてあるので、どれだけ『最高はここ、最低はここ』というラインを作っておくか。最低のことができれば、それが次には自分に返ってくると思えば、やれないことはないと思います」

 中堅としてチームを引っ張る立場になった秋山や浅村は、状況に応じて自分の仕事をし、その結果として優れた個人成績を残した。

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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