2001年 toto本販売をめぐって<後編> シリーズ 証言でつづる「Jリーグ25周年」

宇都宮徹壱

totoを支えたJリーグの公共性と先見性

totoは単なる賭博ではなく、国民の生涯スポーツや健康増進に寄与するもの 【写真:aicfoto/アフロ】

 01年の本発売以降のtotoは、改変の連続であった。03年より、toto会員限定でコンビニでの発売を開始(一般販売は06年から)。ネットでの販売は05年からである。それでも、売上金額と助成事業費は下降線をたどっていた。そんなtotoがV字回復したのが07年。この年の4月に発売された、コンピュータでランダムに予想するtotoBIGが大当たりとなり、売上金額は637億1184万円、助成事業費は9億4910万円に跳ね上がった。だが、それ以上に特筆すべきことは、「スポーツをとばくの対象にするのはけしからん!」と訴えていた反対派の主張が、すっかり聞かれなくなったことだろう。

「僕自身もボールを蹴りますし、取材であちこちのスポーツ施設を訪れますが、totoの助成金で作られたグラウンドや施設が全国にたくさんあるじゃないですか。最近、東京2020大会協賛くじが発売されましたけれど、17年前からスポーツの普及と発展に影響力を与えてきたのがtotoだったわけです。その先見性はすごいと思いますね」

 岩本が語るように、totoは単なるとばくではなく、国民の生涯スポーツや健康増進に寄与することが広く周知された。われわれはつい金額のほうに関心を寄せがちだが、そうした国民的なコンセンサスが得られたこと、そしてそのための努力を続けた先人たちの努力にも目を向けるべきではないか。ところで本稿を読んで、Jリーグに関する言及が少ないことに、すでにお気づきの方もいるだろう。実のところスポーツ振興投票部は、準備段階からJリーグとも定期的に折衝を重ねている。ところが、それほど苦労した記憶はないと田村幸男は回想する。

「私が『Jリーグは偉いな』と思ったのは、こちらが困るような話を一切してこなかったことですよ。もちろん本音を言えば、自分たちにいっぱいお金を流してほしいと思っていたはずです。とはいえ、私たちも役所ですから『基本的にはすべてのスポーツが対象ですから、Jリーグだけにお金が流れるような形にはできません』というお話をさせていただきました。そうしたら、当時チェアマンだった川淵(三郎)さんが『当たり前だ!』と(笑)。あの方は本当に、先見の明がありましたね」

 スポーツ振興くじの予想対象が、それまで国民的なスポーツだった野球や相撲でなく、サッカーだったのはなぜか。「八百長がしにくい」という競技の特性があったのは間違いない。しかし一方でJリーグが、その設立当初からサッカーのみならず「日本のすべてのスポーツの発展に寄与する」という明確な目標を持っていたことも大きかった。その公共性こそが、当時の文部省の理念と見事に合致したのである。totoがすっかり日常のものとなったのは、Jリーグの先見性と公共性があればこそであった。

<この稿、了。文中敬称略>

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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