錦織とジョコ、違いはミスとここぞの体力 浅越しのぶの全米オープンテニス解説

構成:スポーツナビ

ワクワクさせてくれる錦織のプレー 課題を挙げるなら

ポイント場面でガッツポーズを見せる錦織 【Getty Images】

 連戦が続いて体はもう疲れていると思います。体力が切れたときに集中力も切れます。タフにずっとやってきている選手でも、体力がなくなってくるとメンタルが崩れて、プレーにも影響してくるので、やはり体力は大事です。
 今回対戦したジョコビッチ選手や、準決勝で棄権してしまいましたがラファエル・ナダル選手(スペイン)、ロジャー・フェデラー選手(スイス)は体力がすごいなと思いますね。決勝でいつも一番良いテニスをしています。普通はどんどんパフォーマンスが落ちてくるものですが、トップの選手は最終日に向かってどんどん調子が上がってきます。
 日本人でここまでの選手は過去にいないので、どういう精神状態でやっているかは分からないのですが、他国のトップの選手を見ていると最後の最後まで戦える体力がある。それは錦織選手にもつけてほしいなと思いますね。

 負けてしまったとは言え、ベスト4まで残っているのはさすがです。日本人としては未知の世界まできている選手で、それは誰が何と言おうと素晴らしい事です。

 大会を通して思ったのは、サービスの安定感です。ワイドサーブとセカンドサーブが安定していました。セカンドサーブはスピン量を多くして、かなり弾むサーブをしています。相手からすれば、なかなかコートの中に入って、攻撃的に打ち込めないようなスピンをかけています。サービスを改良して、すごく良くなった点だと思いました。
 フォアハンドでコートの中に入って打つショットも、今日のジョコビッチ戦では難しかったですが、ここまでの試合ではすごく良いショットが出ていました。

腕や脚に鍛えられた筋肉が浮かぶ。トップ中のトップの世界を目指して、錦織は戦っている 【Getty Images】

 課題を挙げるとしたら、取り組んでいるサービスでしょうか。セカンドサービスのバウンドが短いので、それは強化点だと思います。
 セカンドサービスのバウンドが短いというのは、跳ねる位置の事です。今はサービスラインよりもだいぶ手前(サービスエリア中央周辺)で跳ねるのですが、それよりもっと深い(サービスライン寄りの)位置で跳ねるサーブになると、相手にとっては打ち込みにくいボールになります。あとは錦織選手自身も言っていましたが、テニスをもう一段階上げたいと。それを常に考えながらやらないといけないというのはありますね。
 2年後の東京五輪の時期にはちょうど30歳で、ベテランの域に入ってきます。試合運びやポイントの取り方とか、経験を重ねるにつれて今より良くなってくる。ただ年を重ねると体力的にも問題は出てくると思いますので、その辺を強化していかないといけないです。

 錦織選手はいろいろとコートの中で作戦を変えたり、自分で考えたりという引き出しを持っている選手です。“天才”と言う表現は、「天才は1日にしてならず」ですからあまり言いたくはありませんし、努力があるからこそいろいろなプレーができるのですが、でもすごく頭のいい選手だなと思います。そういった錦織選手のプレーは、日本のみなさんだけでなく、世界中の人が楽しんでいるのではないでしょうか。どんなプレーをやってくれるのだろうというワクワクがありますね。

浅越しのぶ(あさごえ・しのぶ)プロフィール

1976年兵庫県生まれ。小学校4年生から軟式テニスを始め、園田学園中学校への入学をきっかけに硬式テニスを始めた。97年にプロ転向。2004年、カナディアン・オープンで杉山愛とのペアでダブルス優勝。同年のアテネ五輪はダブルスベスト4、全米オープンテニスではベスト8に入り大活躍した。06年に現役引退。翌年結婚し、11年に長女を、14年に長男を出産。現役時代の自己最高ランキングはシングルス21位、ダブルス13位。WTAツアーで3度のシングルス準優勝、ダブルスで8勝を挙げた。日本オリンピアンズ協会会員(2009年〜10年代議員を務めた)

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