世界選手権ではローテーションに注目 山本隆弘が語る男子バレーの見方<後編>

田中夕子

サイドアウト率が最も高いS4ローテ

日本のS4ローテ(古賀は李のポジションに入る)。サイドアウト率が最も高い 【スポーツナビ】

 セッターが前衛に上がるため不利に思われるS4、S3、S2ローテですが、S4ローテのサイドアウト率は日本がトップ(72%)です。1つの理由はバックライトから西田選手が攻撃に入りやすいこと。自分の前でサーブレシーブをする選手がいないので、スパイク練習のように真っ直ぐ助走に入り、気持ちよく攻撃を仕掛けることができる。それがS4ローテです。

S3ローテは藤井の負担が少ない

日本のS3ローテ(古賀は李と代わって後衛中央に入る)。この時サーブで崩されることはほとんどない 【スポーツナビ】

 同様にセッターが前衛中央にいるS3ローテもサイドアウト率が高い。これはセッターの移動距離が少なく、藤井選手の負担が少ないことが1つの要因です。サーブレシーブのフォーメーションもリベロが中央にいるので、もしも狙うとしたら両サイド。比較的正面でボールを取ることができるので、よほど相手のサーバーがいい時でなければ崩されることもほとんどありません。

ブレーク率を見るとサーブの重要性が分かる

ブレーク率を見るとサーブが機能しているかが分かる。日本はS6のブレーク率が低い 【提供:日本バレーボール協会】

 ブレークの数字を見ると、サーブがいかに重要かが分かります。

 たとえば日本の数字が極端に低いのはS6ローテ(21%。トップ8平均より12%も低い)。ブレークが取れない原因を単純に考えれば、相手にサイドアウトを簡単に取られているということです。つまりサーブがほとんど機能していないということ。ネーションズリーグではポジション2に福澤選手が入ることが多かったので、福澤選手のサーブがもう少し機能する、あるいはこのポジションに石川祐希選手が入ればサーブの効果率も上がり、ブレーク率も高くなるのではないでしょうか。

 反対にS3ローテはブレーク率が高い(34%)。これはポジション5に入った柳田選手のサーブ効果率が高かったということを意味しています。セッターが前衛にいても、サーブで崩せればそれだけ得点チャンスが広がる。

 象徴的だったのが2015年のワールドカップ、カナダ戦です。おそらく普通に力と力で戦えばカナダが上回るのですが、日本はストレート勝ちを収めた。勝因はサーブです。サーブが機能したため、相手は思い通りの攻撃を組むことができませんでした。単純にお互いがチャンスボールからラリーを始めれば、よほど力の差がない限り、大差がつくことはありません。相手の攻撃枚数を減らし、自チームに有利な状況を作り出す。勝敗のカギを分けるのはサーブ、と言っても過言ではないのです。

日本の方向性は間違っていない

日本が成長を遂げているのは間違いない。世界選手権では地元・イタリアとの開幕戦が最初の山場となる 【写真:坂本清】

 まだ世界トップとの差はありますが、数字でも示されているようにその差が少しずつ縮まっているのも事実です。今の全日本男子が取り組んでいる戦術は成果を出していますし、方向性も間違っていない。サーブの向上とAパス(セッターが動かずにトスを上げられるパス)時の攻撃展開など、課題が改善されれば、上位進出の可能性は十分に広がるはずです。

 僕が現役を引退する前(2012年)に帯同したワールドリーグで、世界と日本は何が違うのか。その点だけを注視していた結果、当時見えて来たのは圧倒的にミドルの打数が少ないということでした。でも今は世界選手権に出場する藤井選手や関田選手のように、どんな状況でも積極的にミドルを使えるセッターが出てきて、Vリーグでも「ミドルを使わないと勝てない」という意識が根付いてきた。そうすればパイプ攻撃も生きるようになり、まさに今の日本男子が取り組んでいるような攻撃展開がスタンダードになっています。

 同じく課題であったサーブレシーブもオーバーハンドパスが強い福澤選手が加わったことで、フローターサーブに崩される場面も少なくなった。多少崩されたとしても、藤井選手はミドルを使える。日本男子は世界で戦うことのできるレベルへと、成長を遂げているのは間違いありません。

 だからこそ、上位進出を狙う世界選手権でカギになるのは地元・イタリアとの開幕戦です。昨年のワールドグランドチャンピオンズカップと違い、ベストメンバーで臨むイタリアは強い相手で、会場は相手のホーム。日本にとっては完全アウェーです。その厳しい状況でどんな戦いができるか。相手のペースに一方的に押されて負けるようでは苦しい。ですが、たとえ負けたとしてもやるべきことが確立され、少しでも多くの手応えをつかむことができれば次につながりますし、勝つことができれば完全に勢いに乗ることができます。

 自分たちが取り組んできたことをどれだけ発揮し、どこまで成長できたか。それを知るためにこれ以上の機会はありません。まずは開幕戦。サーブの狙いやディフェンスのポジション、攻撃の組み立て。さまざまな意図を探りながら、日本男子の戦いに、ぜひ注目して下さい。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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