世界選手権は数学の発想で楽しむべし! 山本隆弘が語る男子バレーの見方<前編>

田中夕子

世界選手権を前に、山本隆弘さんに「男子バレーの見方」を語ってもらった 【写真:坂本清】

 現地時間9日に男子の世界選手権が開幕する。今年はイタリアとブルガリアの共催で行われ、世界ランキング12位(2017年7月7日付)の全日本男子は、ベスト8進出を目標に掲げている。

 大会に向け、日本バレーボール協会は7月28日に「メディアサロン」を実施。全日本男子チームの中垣内祐一監督と伊藤健士アナリストが5〜6月に行われたネーションズリーグの振り返りと課題、世界バレーに向けた強化ポイントを説明した。

 今回は元全日本代表の山本隆弘さんに「メディアサロン」の解説と、それを踏まえた世界選手権の見どころを語ってもらった。山本さんは「男子バレーは数学」と言い切る。その見方を知ると、大会を違った見方で楽しむことができるかもしれない。

ミドルからの攻撃が増えた日本

「男子バレーは数学」と語る山本。日本はミドルを活用することで攻撃の選択肢が増えている 【スポーツナビ】

 男子バレーは数学です。攻撃の割合やコース、すべて数字で表されます。極端な例かもしれませんが、たとえばオポジットが80本、レフトの選手が20本、ミドルは3本しか打たないというデータがあれば、ミドルの3本は捨て、より攻撃回数が多い選手への対策を練ります。

 実際これまでの日本はここまで極端ではありませんが、ミドルの攻撃出現率が低かったので、最初からサイドやオポジットの選手に対するマークが厚く、相手のブロックで失点する場面が多く見られました。

 では今、日本の男子バレーはどんな変化を遂げているのか。日本男子バレーにとって長年の課題であった、ミドルブロッカーの攻撃をいかに増やすか、ということ。昨季から日本代表に選出され、ネーションズリーグでも正セッターとして多くの試合に出場した藤井直伸選手が積極的にミドルからの攻撃を展開することで、海外のチームからも「日本はミドルからの攻撃もある」と意識づけることができるようになりました。

 海外のチームはAパス(セッターが動かずにトスを上げられるパス)が返ればミドルからの攻撃を積極的に展開し、そこに前衛スパイカー、後衛スパイカーのバックアタックを絡め、最低でも選択肢が4枚ある攻撃を仕掛けてきます。まだ粗削りではありますが、日本もようやく同じ土俵に立って勝負ができるようになってきた。それがネーションズリーグでは結果としても現れていたのではないでしょうか。

ミドルを使うと他の攻撃も生きる

ネーションズリーグのデータ。日本はベスト8に入るため、トップ8平均との差を分析している 【提供:日本バレーボール協会】

 サイドアウト(相手チームのサーブ)時の数字を見ても、分かることがいくつもあります。

 まずAパス時の日本のサイドアウトはトップ8各国の平均と比べマイナス6%(70%)。数字にすると大差はないように感じるかもしれませんが、実はこの差がとても大きい。なぜなら、日本のように高さやパワーで劣るチームは、Aパスという絶対的に有利な状況では確実に得点を取れるすべを持っていなければ、互角に渡り合うことができないからです。

 Aパス時は常に日本も4枚攻撃を仕掛け、そこで何を選択するか。ミドルを多く使っている分、相手ブロッカーの中には「まずミドルを警戒する」という意識があります。だからこそ有効になるのがパイプ攻撃(前衛ミドルの攻撃と絡めた中央からのバックアタック)。

 たとえばミドルがBクイックに入るならばバックセンターから、Cクイックならば中央ではなくバックレフトからのパイプを使えば「まずミドル」とマークする相手のミドルブロッカーの動きが遅れ、ブロックが1枚、ないし1枚半の状態で攻撃を仕掛けることができるはずです。

「速い攻撃」と聞けばイコールスピードと考える人が多いかもしれませんが、速さは単純な「トスのスピード」ではなく、「相手のブロックが完成する前に仕掛ける攻撃」のことなので、どれだけ高さで勝るミドルブロッカーであろうと、1、2歩動いて飛ぶブロックは完全な完成形ではありません。そうなれば「高さで負けた」という状況を消し、日本の攻撃が決まりやすい状況をつくることができるのです。

Bパス、Cパスの数字は悪くない

セッターの藤井はミドルの積極活用が持ち味 【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

 繰り返すようですが、バレーボールは数学なので最大でも3枚のブロックに対して、いかに4枚で攻撃できる状況をつくるかが勝負を分けます。相手も当然4枚攻撃の1枚は消したい、特にセッターから近く、ブロッカーにとって一番早く打ってくるクイックをまず消したいと考える。サーブをどの位置に打てば相手の攻撃カードを消せるのか。バレーボールはその攻防になります。

 そう考えると、本来サーブを打ったチームが有利になるはずのBパス(セッターが少し動いてトスを上げられるパス)、Cパス(乱れたパス)からのサイドアウト時、日本の数字はさほど悪くない。これは評価できるのではないでしょうか。

 まずBパス時の69%という数字は、サーブで崩された状況からも藤井選手がうまくミドルの攻撃を使えているということの表れでもあります。ここでサイドに偏ってしまえば相手の思うつぼという中、崩れてもミドルが使える。これは大きな武器です。また、Cパス時もこれまではサイドアウト時に30%取れるか取れないか、という状況でしたが、今は違う。1本で勝負にいくのではなく、状況がよくない時はリバウンドを取ってもう一度攻撃を切り返したり、攻撃できない状況でも相手のセッターに返してコンビを組ませないようにしたり、オポジットに返して攻撃準備を遅らせる。数字には出ていませんが、そういった意識に基づくプレーがネーションズリーグでは多く見られました。

 まだ世界との差はあり、改善の余地もありますがBパス、Cパス時のサイドアウト率が向上していることは確か。Aパス時からの攻撃展開をもっと考え、より高い数字をマークすれば世界のトップ8に入ることも決して夢ではないでしょう。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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