錦織“ポジショニングの変化”で劣勢打開 浅越しのぶの全米オープンテニス解説

構成:スポーツナビ

サーブのコースを読む力、プレースタイルの幅の広さを発揮

チリッチの強烈なサーブに対応した錦織(右)。ポジショニングの変化や、リターン、プレーの幅で相手にプレッシャーをかけた 【写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ】

(錦織はだんだんと相手サーブに対応していたが?)コートインタビューの最後の方でも「フォアに100パーセント来ると思った」と言っていましたが、もうコースを“読んで”いたと思います。互いに長年一緒に対戦したり練習したりしてきて、相手のクセやコースというのは大体見えてきています。それにチリッチ選手は、第1セットからワイドサーブが多かった気がします。フォアサイド(デュースサイド、コートの右半分)から打つ時はワイドサーブが多かったので、その時の方向はほぼ読んでいたのではないでしょうか。読めていたからこそ、普通だったらノータッチで決められてしまうようなサーブに対しても、錦織選手は何本も手を伸ばしていました。かなり読みはすごかったです。錦織選手のリターンは、以前から世界トップレベルだと評価されていますので、その対応力はすごいと思いました。

(チリッチ選手は、錦織選手のリターンを打ち返せない場面もあったが?)チリッチ選手は身長が高いので、ネット際にボールが落ちた時は結構ミスをしていました。背が高いから、ネット前に落ちたボールに対して、ひざを曲げて下から持ち上げる動作がすごく難しいと思うんです。ですから、(サーブを)返すだけでもチリッチ選手にとってはプレッシャーになると思います。手を伸ばして返すだけでも、すごい事です。
 チリッチ選手の方は、最初はコートの中に入ってプレーしていましたが、だんだんとベースライン近辺だけのプレーになっていきました。錦織選手と比べると、プレースタイルの幅の広さが全然違うなと思いました。錦織選手にはいろいろな引き出しがあります。試合の中でポジションを変えたり、相手のコースを読んだり、いろいろな事ができるのが錦織選手の特徴なのではないかなと思います。

どうしても勝ちたい――メンタルの強さを感じた試合

 試合の最初の方はチリッチ選手のサーブがバシバシと入っていました。そこから試合を覆したメンタルの強さはすごいです。
 この準々決勝で、あのセンターコートで、気候もあまり良い条件ではない。お互い様ではありますが、その中でああやって気持ちをリカバリーしていくのは大変なこと。錦織選手は決勝経験者だとは言え、今大会は今までにないくらい暑いと言われている中で、よく集中力が持ったなと思いました。
 あとはこれだけ長い試合をして勝つには、「どうしても勝ちたい」という気持ちを強く持つ事が大事なのではないでしょうか。錦織選手は、いざプレーが始まったら目の色が変わります。その切り替えと集中力の高さは本当にすごいなと思いました。

(次の準決勝に向けては?)相手がノバク・ジョコビッチ選手(セルビア)ですからラリー戦になると思います。今日みたいな一発のプレーで得点が決まっていくような試合というよりも、じっくりじっくりと組み立ててくるプレー。いかに本来の錦織選手のプレーである「コートの中に入ってのプレー」を生かせるかですし、それが1番の決め手ではないでしょうか。今日はチリッチ選手のミスに何度か助けられたところもありますが、次は自分からの攻撃で切り開いていくのが大事ですね。

浅越しのぶ(あさごえ・しのぶ)プロフィール

1976年兵庫県生まれ。小学校4年生から軟式テニスを始め、園田学園中学校への入学をきっかけに硬式テニスを始めた。97年にプロ転向。2004年、カナディアン・オープンで杉山愛とのペアでダブルス優勝。同年のアテネ五輪はダブルスベスト4、全米オープンテニスではベスト8に入り大活躍した。06年に現役引退。翌年結婚し、11年に長女を、14年に長男を出産。現役時代の自己最高ランキングはシングルス21位、ダブルス13位。WTAツアーで3度のシングルス準優勝、ダブルスで8勝を挙げた。日本オリンピアンズ協会会員(2009年〜10年代議員を務めた)

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