アジアでの勢い増す「ONE」が日本へ チャトリCEOが語る使命と構想

長谷川亮

アジア最大まで成長した格闘技団体「ONE Championship」が来年3月に日本大会を開催する 【写真提供:ONE Championship】

 8月23日、シンガポールの格闘技団体「ONE Championship(ONE)」の日本では初となる大会開催が決定し、その発表会見が都内・ホテルで行われた。日本大会は2019年3月31日に東京・両国国技館で行われ、来年10月11日にも東京大会を予定している(会場は未定)。

 会見にはONEのチャトリ・シットヨートンCEOをはじめ、日本からONEストロー級王者の内藤禎貴(内藤のび太)に元ライト級王者の青木真也、タイトルマッチ経験を持つ山口芽生(V.V Mei)と長谷川賢、そして海外からバンタム級王者ビビアーノ・フェルナンデス(ブラジル)にヘビー級王者のブランドン・ヴェラ(フィリピン)と女子アトム級王者アンジェラ・リー(シンガポール)、さらにジョルジオ・ペトロシアン(イタリア)、ノンオー・ガイヤーンハーダオ(タイ)、ゲイリー・トノン(米国)、ハウフ・グレイシー、ヘンゾ・グレイシー(ともにブラジル)といった主力選手が大集結した。

団体のCEOを務めるチャトリ・シットヨートン氏に話を聞いた 【写真提供:ONE Championship】

 アジア各地で大会を行う総合格闘技(MMA)プロモーションとしての印象が強いONEだが、10月のバンコク大会ではボクシングWBC世界スーパーフライ級王者シーサケット・ソールンビサイ(タイ)の防衛戦がメインイベントに決定。今まで開催した大会内ではMMAだけでなく、グラップリング、キックボクシングなどさまざまな試合形式が行われている。

 アジアを中心に展開を進めるONEの在り方、そしてビジョンは自身も幼少から格闘技をたしなんできたチャトリCEOの生い立ちと考えが強く反映されている。「格闘技が大好きで、私という人間は“格闘技”です」と語るチャトリ氏に話を聞いた。

9歳の時に見たムエタイに魅了された

タイ人の父と日本人の母親との間に生まれたチャトリ氏。9歳の時に見たムエタイで格闘技に魅了された 【写真提供:ONE Championship】

 タイ人の父親と日本人の母親との間に生まれたチャトリCEOはタイで生まれ育つ。最初に出会った格闘技は国技ムエタイ。9歳の時、父親に連れていかれた殿堂ルンピニースタジアムでその魅力に魅了されたという。

「それでムエタイをやりたくなったのですが、お母さんはそれをよく思わなくて、少し時間が掛かって13歳の時に、お母さんがオッケーしてくれて始めることができたんです」

 裕福な家庭に生まれたため専業のファイターではなく学業がメインではあったが、それでも練習は毎日4時間から6時間。試合も30試合ほどを行ったと話す。当時の体重は50キロほどで、得意技はオーバーハンドのビッグパンチとローキック。ムエタイでは異彩となる倒しに行くタイプであったが、そこはエキサイティングな試合が好まれる現在のONEとも共通しているのかもしれない。

半分ビジネスマン、半分格闘家

チャトリCEOは「柔術の先生はヘンゾ・グレイシー(写真)」と話すように、自身もずっと格闘技を経験してきた 【写真提供:ONE Championship】

 家庭ではタイ語と日本語を話し、母親の方針で幼少から英語も学び、大学は米国へ進学。卒業後はタイへ戻る予定であったが、20歳の時に父親が破産。一家は危機を迎えるが、母親からの助言と支えを受け、チャトリ氏はハーバード大学のビジネススクールでMBAを取得。その後ONEを創設し、現在136カ国以上に17億人を超える視聴者を持つイベントへと成長させ、大成功を収めた。

「米国にいる間もずっと格闘技、ムエタイと柔術をやっていました。柔術の先生はヘンゾ・グレイシーです。私は自分のことを半分ビジネスマンで、半分格闘家だと思っています。私は選手たちと同じ経験をこれまでの人生でしてきました。減量もやりましたし、骨を折ったこともあります。勝ったことも負けたこともあるし、そのすべてを体験してきました。だからONE Championshipは本当の格闘家が作った団体というのが私の考えです」

格闘技をアジアの文化として広めたい

米国や欧州への進出の前に、アジアのマーケットで格闘技を盛り上げ、文化として世界に示したいと話す 【写真提供:ONE Championship】

 中でもチャトリ氏は格闘技が持つ精神的な面にその力点を置く。

「米国のファイトスポーツはケンカみたいに“トラッシュトーク”(汚い言葉で相手を挑発する行為)で相手の家族のことまで悪く言ったりしますが、それは格闘技ではありません。本物の格闘技には真摯さや高潔さ、名誉や尊敬、“武士道”といったものがあります。格闘技・武道はアジアの文化ですから、私はそれをちゃんと世界に見せたい。この素晴らしい文化や価値観を世界の人たちに見せて、みんなに分かってもらいたいんです」

 現在ONEはアジア圏での大会開催に注力しており、米国や欧州への進出は考えていないという。

「今は40億人の人がいるアジアがすごく大きな市場なので、欧米でもテレビ放送はしていますが、まだそこでの展開は考えていません。私は格闘技を見世物ではなく、武道や文化として広めたい。アジアには40億人の人がいるので、みんなが集まって力を合わせ、一緒にアジアの一番大切な文化を世界に見せたいと思っています」

英雄パッキャオとの交渉も

ボクシング界のスーパースター、マニー・パッキャオ(右)とも何度も話をしており、ONEのリングに上がる可能性も探っている 【Getty Images】

 前述のように10月の大会ではボクシングの世界タイトルマッチを行うことも決定。ボクシング界のスーパースター、元6階級制覇王者の現WBA世界ウェルター級王者マニー・パッキャオ(フィリピン)とも「話をしているし、チャンスはあると思います」と話し、単なるリップサービスとは受け取れないところがある。

「日本のボクサーがONEで試合をする可能性もありますし、私はいつも他のプロモーターとパートナーになりたいと思っています。他のプロモーターとケンカはしたくないし、助け合って一緒にやりたい。『助け合って一緒にやる』というのは私が格闘技で学んだ心です」

 拡大を続ける「ONE Championship」。ボクシング、シーサケットの世界戦に続くビッグマッチの実現はあるのか、そして来年行われる日本大会の反響やいかに。かつて新日本プロレスとKNOCK OUTのオーナーである木谷高明氏が警戒を語ったONEが来春いよいよ上陸を果たす。
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著者プロフィール

1977年、東京都出身。「ゴング格闘技」編集部を経て2005年よりフリーのライターに。格闘技を中心に取材を行い、同年よりスポーツナビにも執筆を開始。そのほか映画関連やコラムの執筆、ドキュメンタリー映画『琉球シネマパラダイス』(2017)『沖縄工芸パラダイス』(2019)の監督も。

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