村田諒太が米国で防衛戦を行う理由 日本史上最大の試合への“分かれ道”に

杉浦大介

ESPNでプレビューなどを全米配信

会場となるパークシアターは4月にオープンしたばかりのパークMGMラスベガス・ホテルに併設されたコンサート会場。目の肥えた米国ファンの前で勝利を飾ることができるか 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】

 会場となるパークシアターは4月にオープンしたばかりのパークMGMラスベガス・ホテルに併設されたコンサート会場で、キャパ約5000人という中型規模アリーナだ。

 どの国のファンも母国スターには必要以上に甘くも厳しくもなりがちで、今回も一部の辛口な日本のファンからは「MGMグランドアリーナやマンダレイベイではないのか」といった声が聞こえてきそうだ。その落胆も理解できなくはないが、村田がラスベガスでメインを張るのがこれが初めてならば興行規模も適度に思える。

 今をときめくワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)、現在売り出し中のハイメ・ムンギア(メキシコ)といった興行ポテンシャルの高い選手たちも、ベガスで初めての主役を務めた際にはコズモポリタン、ハードロック・ホテル&カジノといった約2〜3000人収容の小会場を使用した。村田の場合はその約2倍のキャパ。ミドル級タイトルホルダーの話題性、百戦錬磨のトップランクの売り出し能力を考えれば、パークシアターに満員に近い観客を動員することは可能なはずだ。

 唯一残念なのは米国での中継が「ESPN+」での動画配信だけなことだが、プレビューやハイライト映像はESPNのテレビで流される。だとすれば、晴れの舞台の雰囲気は整うに違いない。最近は群雄割拠のミドル級でも役者の1人として挙げられることが増えた中で、まだ未知数の部分も多い“アジアの雄”が手並みを見せる機会がついに到来したと言って良い。

視線はその先にあるビッグマッチへ

「米国のファンの前で内容はもちろん、勝たなければいけないということではありますけど、今回はその次の大きな試合に向けての試合。来月、ミドル級タイトルマッチがあります。その勝者に向けての試合だという風に思っていただければ」

 帝拳ジムの浜田剛史代表が述べていた通り、今戦は村田のお披露目ファイトであり、同時にトップ戦線参入へのオーディションの意味合いがあることはもはやシークレットですらない。浜田代表の指摘した大きな試合とは、9月15日に行われるWBA、WBC王者ゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)対サウル・“カネロ”・アルバレス(メキシコ)戦の勝者との激突。特にゴロフキン陣営との交渉は好感触で進んでいるという話もあり、日本ボクシング史上空前の一戦はもう手が届くところにある。

 日本開催も十分可能なブラント戦をわざわざ米国で行うのは、その後に続くビッグファイトを世界規模で盛り上げるための先行投資に違いあるまい。ただ、ブラント戦の内容が悪かった場合には、そんな話も胸を張って進められなくなる。

 負けは論外、見栄えの悪い苦戦も駄目。10月の米国はMLBプレーオフ、NFL、大学フットボール、NBAのシーズンも花盛りなだけに、スポーツファンへのアピールのためにはインパクトの大きなパフォーマンスが必須になる。少なからず重圧がかかる2度目の防衛戦で、勝負強いロンドン五輪金メダリストはどんなファイトをみせてくれるか。

「(ブラントは)指名挑戦者ですから、それが僕にとっては一番のモチベーション。これをクリアすれば僕にも何かを言う権利だったりとか、誰とやりたいといった風な権利が生まれてくる。いい形でクリアして、次につなげていければ良い」

 村田の言葉通り、ブラントという実力派を打ち破ればさらに巨大なヤマが見えてくる。ベガスで初めて看板を務める記念すべき防衛戦は、“分かれ道”と呼び得る大事な試合。村田の今後を大きく左右する一戦のゴングまで、もうあと2カ月弱である。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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