ヤングなでしこはこうして世界一になった 忍耐と勝負強さで「予定通り」のW杯優勝

工藤拓

まるでシメオネのアトレティコのよう

フランスで行われたU−20女子W杯で初優勝したヤングなでしこ 【Getty Images】

 試合終了の瞬間、ピッチに両膝をついて泣き出したGKスタンボー華の元に控えGKの鈴木あぐりが駆け寄り、勢いよく飛びついた。

 キャプテン南萌華の元に数人の選手が集まり、笑顔で抱擁を交わす。フラッシュインタビューに呼ばれた長野風花はいつまでも涙が止まらず、困った苦笑いを浮かべていた。

 日本が初優勝を果たしたU−20女子ワールドカップ(W杯)。ガレットとシードルが美味なフランス・ブルターニュ地方にて、池田太監督率いる「太(ふとし)ジャパン」が描いた軌跡に立ち会える幸運に恵まれた。

 女子サッカーの取材は初めてで、今大会が始まるまで、このチームを見たこともなかった。それでも6試合を戦い抜いた濃密な19日間を通し、若きなでしこたちがたくましく成長していく様子をはっきりと実感することができた。

 攻守に労を惜しまぬ運動量。1人のミスを周囲の素早いカバーで補う連帯意識。ハイプレッシャー、スモールスペースの状況下でもプレーの精度を落とさない、素早く正確な状況判断とボールコントロール。

 こうした個々の能力と意思統一された組織力に加え、今大会の日本は苦しい時間帯を我慢して耐え抜ける忍耐力、そして自分たちの時間帯を逃さず得点を奪える勝負強さが際立っていた。まるでディエゴ・シメオネ率いるアトレティコ・マドリーのようなチームである。

 戦術的にも明確な狙いが見て取れた。守備時は2トップがセンターバック(CB)からサイドバック(SB)まで追い込み、4−4の守備ブロックを高く押し上げてインターセプトを狙う。攻めては複数のアタッカーが近い距離感を保ちながら、ライン間に顔を出す2トップやサイドMFへのくさびをスイッチに、ワンタッチやダイレクトのパスを多用した連係プレーを何度も見せた。

 最終ラインから中盤にかけてのビルドアップは準優勝したスペインも質の高いプレーを見せたが、アタッキングサードにおける連動性の高さは日本が頭一つ抜けていた。サッカーの質からすれば、日本の優勝は妥当な結果だったと明言できる。

辛勝したがミスも目立った米国との初戦

粘り強く戦って米国に勝利。白星スタートを切った 【Getty Images】

 とはいえ、もちろんどの試合も圧倒できたわけではない。特にグループリーグの米国戦、スペイン戦はどう転んでもおかしくない接戦で、この2試合がその後の躍進を決定づけたと言える。

 中でも米国との初戦は、ハラハラさせられるプレーの連続だった。

 キックオフの直後、前線にロングパスを蹴ろうとしたMF長野が足を滑らせる。インターセプトから攻め込んでくる米国に対し、守備陣の対応もちぐはぐで、あっという間にシュートまで持ち込まれた。

 その後も最終ラインでボールを奪われてあわや失点の危機を招いたり、CKやFKから危険なシュートを許したりと危なっかしい場面がいくつもあったが、ここで失点を許さずハーフタイムを迎えられたことが大きかった。

 後半は徐々に動きが落ち、ミスが目立つようになった米国とは対照的に、日本の選手たちは運動量が落ちないだけでなく、硬さが取れて思い切りの良いプレーが増えていく。

 そして76分、MF林穂之香が30メートル超の位置から放ったロングシュートで先制。ゲーム終盤にはDF宮川麻都と林が足をつって交代するほどぎりぎりの状況で耐えながら、何とか逃げ切りに成功した。

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著者プロフィール

東京生まれの神奈川育ち。桐光学園高‐早稲田大学文学部卒。幼稚園のクラブでボールを蹴りはじめ、大学時代よりフットボールライターを志す。2006年よりバルセロナ在住。現在はサッカーを中心に欧州のスポーツ取材に奔走しつつ、執筆、翻訳活動を続けている。生涯現役を目標にプレーも継続。自身が立ち上げたバルセロナのフットサルチームは活動10周年を迎えた。

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