イタリアで巻き起こるC・ロナウド狂騒曲 ユベントスはピッチ内外でどう変わる?

神尾光臣

レアル・マドリーに追いつき、追い越すために

昨季CL準々決勝、C・ロナウドはユーベ相手に華麗なオーバーヘッドを決めた 【Getty Images】

 昨季のチャンピオンズリーグ(CL)準々決勝ファーストレグ。レアル・マドリーの選手としてアリアンツ・スタジアムに降り立ってオーバーヘッドを決めたC・ロナウドに、観客は拍手を送っていた。それを考えれば、ファンの盛り上がりも分かる。だが「ユーベにプリマドンナ(=オペラの主役を務める女性歌手)はいない。ユーベはチームが第一で、かつての名選手たちはこのクラブがスターに育てたのだ」と、大物の加入はクラブの哲学にそぐわないという理由でこのムーブメントに反感を覚える古参のファンも若干いる。だが、そのスターを必要としたのもまたユベントス。過去2シーズンのCLで2度もレアル・マドリー相手に敗退したという競技上の理由もさることながら、興業成績の上でも差を詰めるために、C・ロナウドを欲した感もある。

 2011年に専有スタジアムの使用を開始し、総収入を右肩上がりに伸ばしてきたユベントスだが、それでもCLで優勝を狙うメガクラブとは差があった。大手会計事務所のデロイト・トーマツ社の集計によれば、ユーベの15−16シーズンの総収入は約3億4100万ユーロ(約430億円)だったが、レアル・マドリーは約6億2000万ユーロ(約783億円)と、倍近い数字を出していた。とりわけ大きな差となっていたのは、スポンサードや商品化権などによる商業収入。ユーベの約1億170万ユーロ(約13億円)に対し、レアル・マドリーは約2億6300万ユーロ(約33億円)と倍以上の開きがあった。

 このギャップを埋めるために、ユベントスはイタリア国内のみならず、国外の市場開拓に力を入れ始めた。17年にはクラブのロゴとエンブレムを刷新したが、これはクールなイメージを演出し、他クラブとの違いを際立たせるというマーケティング上の戦略だ。15年に、ユーベはフェラーリなどの企業でマーケティング分析や商品化権ビジネスを担当してきた人物をクラブに迎えた。ファッションやソーシャルメディアへの働き掛けが上手なバスケットボールのNBAをモデルに、伝統的なサッカーファンとは異なる層の開拓へと動いているのだ。

 それを考えると、フェイスブック、インスタグラム、ツイッターの合計フォロワー数が3億3300万人というC・ロナウドをマーケティング上の“即戦力”としてユーベが望んだことは自然な流れだ。実際、効果はすぐに出ている。ユーベは年間シートを全体で3割ほど値上げしたにもかかわらず、C・ロナウド獲得後に弾みがつき、早々に売り切れて3300万ユーロ(約42億円)の収入は確約された。「リーグ戦やCLへの波及を考えたら、チケット販売だけで9000万ユーロ(約114億円)に達することも十分可能」という分析も地元紙から出ている。

 そもそも、商品化権ビジネスに力を入れてこなかったイタリアのクラブでオフィシャルユニホームが爆売れするというのも、これまでになかった現象だ。1億ユーロ(約126億円)の移籍金に3100万ユーロ(約39億円)の年俸という投資額も、収入増によってペイされるのではと予測するメディアもあるが、あながち無理とも言えない勢いだ。

前エースのイグアインとは異なるクオリティー

ユベントスの新エースとして、セリエAとCLの両方でチームをリードできるか 【Getty Images】

 もっとも、肝心なのはC・ロナウドが実際にどういうプレーをし、ユーベでどう機能するのかというところ。12日の紅白戦では、4−2−3−1のセンターFWとしてプレーした。トップ下のディバラにも守備の負担はあまり課せられていなかったので、実質的には4−4−1−1と見た方が良いかもしれない。

 戦術的に昨季のイグアインと位置は同様だが、前線の中央に構えていた前エースストライカーと動きの質は異なる。ややサイドに開き、パスを引き出す。裏のスペースが狙えるようなら躊躇(ちゅうちょ)なく縦へと走り、オフサイドラインを破る。かと思えば前線で巧みにボールキープし、後方から上がってきた味方につないでカウンターを演出するプレーもやっていた。

 一方、ゴール前ではシュートに向け的確なポジションを取る。40分にはDFとMFとの間の空間に場所を移し、オーバーラップしたクアドラードに声を掛けてクロスを呼び込んだ。右足のダイレクトボレーはGKの正面に飛んだが、GKがボールをこぼし、ここに詰めたディバラが押し込んでシュートを決めた。

 また空中戦の競り合いになれば、自慢の身体能力を生かしたヘッドの打点も非常に高い。スピードもあり、ポジショニングも巧みでパワープレーにも対応するし、キックをさせればモーションは素早い。動きの質の高さを見ていれば、セリエAでも点を量産しそうな勢いだ。

 組み立てや突破などに負担を課していなかったのは、ゴール前での動きに集中してもらおうというアッレグリ監督の意図か。その指揮官はC・ロナウドの姿勢を高く評価していた。

「彼は単にうまいだけでなく、毎日ものすごくよくトレーニングする。だからバロンドールを取れたのだろうし、その姿勢はチームにも伝染してほしいと思う」

 ピッチ内で、またクラブビジネスで、CR7の加入がどうユーベを変えるのか。注目のシーズンが始まる。

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著者プロフィール

1973年9月28日、福岡県生まれ。東京外国語大学外国語イタリア語学科卒。97年の留学中にイタリアサッカーの熱狂に巻き込まれ、その後ミラノで就職先を見つけるも頭の中は常にカルチョという生活を送り、2003年から本格的に取材活動を開始。現在はミラノ近郊のサロンノを拠点とし、セリエA、欧州サッカーをウオッチする。『Footballista』『超ワールドサッカー』『週刊サッカーダイジェスト』等に執筆・寄稿。まれに地元メディアからも仕事を請負い、08年5月にはカターニア地元紙『ラ・シチリア』の依頼でU−23日本代表のトゥーロン合宿を取材した。

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