樋口新葉、五輪落選の苦難を乗り越えて 「スケート界の歴史に残る人物に」
五輪落選という苦い経験を味わった樋口新葉に、これからの4年に向けた決意や競技者としてのゴールを語ってもらった 【写真:坂本清】
「五輪に行けなかったことに対しての気持ちの整理はあと4年できないと思う」。そう話す樋口は、すでに2022年の北京五輪を見据え、新たな挑戦を始めている。昨季抱いていた葛藤、これからの4年に向けた決意、そして競技者としてのゴール。苦い経験を乗り越えようとしている樋口に、今の思いを聞いた。
今季はたくさん挑戦できる年
シーズン初戦で新SPを披露。「今までのものと最も違う」ということで曲を選んだ 【写真は共同】
今季はたくさん挑戦できる年だと思うので、いろいろなことにチャレンジしたいと思っています。例えば表現の部分や技術的な部分だったり、トリプルアクセルなんかもしっかり試合で入れられるようにしたいです。
――すでにシーズン初戦を終えて、ショートの『エナージア』を披露しました。プログラムの手応えとこの曲を選んだ意図は?
昨シーズンとは異なる表現の仕方でしたし、観客のノリも全然違いました。滑っていて楽しかったです。あとは最初の試合だったということもあり、どこをどう直すか、ジャンプまでのステップをどう変えるかという部分が分かったので、次の試合までの課題かなと思います。
この曲を選んだ意図としては、自分が滑ったことのないジャンルを滑りたいと思っていて、それを振付師の方にも言っていました。何曲か聞いたのですが、この曲が一番盛り上がるし、今までのものと最も違うということで決めました。
五輪落選を経て学んだこと
「他の選手よりも五輪に対しての気持ちが弱かった」。それが出場権を得られなかった要因だと樋口は考えている 【写真:坂本清】
もちろん一生懸命頑張っていましたが、五輪を目指すにあたり、もう少しできたところもあったと思います。今振り返ってみると、五輪を現実的に考えられていない部分があったかもしれません。「すごく出たい」と思っていましたが、五輪に出ている自分をイメージできなかった。他の選手よりも五輪に対しての気持ちが弱かったのではないかと思います。ただ、昨シーズンそういう経験ができたので、これからの4年は今までよりもっと密度の濃い4年にできると思っています。
――昨シーズンを通じて一番学んだことは?
平昌五輪に出場できないことが決まって、全日本選手権からは1カ月くらい本当に滑らなかったんです。でも、世界選手権も含めて全日本選手権の後に試合が2つあったし、切り替えなければいけなかった。だから試合という見方ではなく「何かを表現する。それを観客に伝える」ということを世界選手権では意識するようにしました。もちろん試合では勝ちたいですけど、それよりも自分が満足する演技と、観客に自分の演技が伝わるようにということを考えて滑るようになりました。世界選手権を経て、そういうことを考えながら滑るというのも大切だなと思いました。
これまでは技術的なことしか考えていなかったという樋口。しかし、五輪に出場できなかったことで、「何かを表現する。それを観客に伝える」という意識に変わった 【写真:坂本清】
そうですね。あまりそこを強く意識して滑ってはいなくて……。もちろん何かを伝えなくてはいけないと思いながら滑っていましたが、それよりも「ここのジャンプではこういうふうに跳んで」とか「ステップでレベルを落とさないように」とか、そういう技術的なことしか考えていなかったかなと思います。
――苦い経験を通じて、根本的な意識が変わったのですね。
試合とアイスショーの違いというところと一緒かもしれないですけど、競技というくくりではなくて、スケートとして見てもらおうと思うようになりました。