樋口新葉、五輪落選の苦難を乗り越えて 「スケート界の歴史に残る人物に」

スポーツナビ

何もせず一瞬に感じる1カ月だった

昨シーズンはGPファイナルに出場するという目標を果たしたことで、一度気持ちが切れてしまった 【写真:坂本清】

――昨シーズンはいろいろな葛藤もあったと思います。どのように自分の気持ちと折り合いをつけていましたか?

 シーズン前のオフの気持ちの余裕さと、シーズンに入ってからの気持ちというのが、びっくりするくらい全然違って……(苦笑)。この余裕さはどこに行ってしまったのだろうという感じです。特に昨年はすごく大変で、絶対にGPシリーズで表彰台に乗って、GPファイナルに行きたいというのがありました。五輪の選考基準なんかもあったので、それを1番に考えていました。

 ファイナルに出場できて、その目標も達成したんですけど、そこで1回気持ちがプツッと切れてしまって……。世界選手権が終わっていろいろ振り返ってみると、ダメな部分というのはやり切らずに諦めてしまうところだったなと思うので、そこは今シーズンから直していきたいなと思います。

――全日本選手権が終わって1カ月間は滑りさえしなかったと言っていましたが、その間はどう過ごされていたのですか?

 全日本選手権のときにケガをしてしまって、それもあって本当に引きこもり状態でした。家から出ない感じだったので、友達がなんとか外に出してくれたりもしました。あとはだんだんと「滑らなかったらどうなるんだろう」とも思い始めて……。そんなことを考えていたら1カ月がたって、「そろそろ滑れば?」ということをいろいろな人に言われました(苦笑)。ただリンクに来ても、ダラダラと滑ってという感じで……。何もしなさ過ぎて一瞬に感じる1カ月でした。

――もうスケートはやりたくないくらいの感じでしたか?

 全く滑りたくなかったです。全日本選手権の次の日のアイスショーも「滑らなければいけないのかな、滑っていいのかな」という感じで滑っていて……。お正月も全然食欲がないし、気持ちがなえていました。友達と初詣に行ったのですが、外に出ても楽しい気持ちにならないから先に帰ってしまったり……。何をしていても楽しくないし、ずっと無感情みたいな感じでした。

――どこで気持ちが上向いてきたのですか?

 五輪が近づくにつれてニュースが多くなってきて、それを見るわけじゃないですか。見たくないから「五輪の時期は何か予定あったかな?」と思って確認したらまさかの試合でした(笑)。「ケガが治ってなかったら棄権してもいいよ」と先生に言われていて、本当に1週間前まで出るかどうかずっと悩んでいました。練習を始めて2週間から3週間くらいでの試合だったのですが、体力が戻るのか心配だったのもあります。でも五輪の裏の試合で良い演技をすれば、五輪に出たことにはならなくても、感覚としては自分の中に残るかなと。今思えばそれが切り替わる瞬間だったんじゃないかと思います。

――新シーズンを迎えるにあたって気持ちの整理はついたのですか?

 そうですね。五輪に行けなかったことに対しての気持ちの整理はあと4年できないと思うんですけど、また次の五輪に向けて、今季は本当に気持ちを切り替えていろいろなことに挑戦できますし、せっかくの4年なので、もっと進化していきたいなという気持ちがあります。

池江璃花子からの喝「絶対にこけないで」

仲の良い池江璃花子からは多くの刺激を受けている。世界選手権のときは電話で喝を入れられた 【写真は共同】

――今季はルール変更もあり、大技に挑戦するリスクも高まると思います。それでもチャレンジすることを明言したのはどういう理由があったのですか?

 人に目標を言って、それを達成するというのが自分の考えなんです。有言実行したいと思いますし、その方が「頑張らないと」という気持ちになるので、そうしています。

――表現することもより求められてくると思いますが、表現力を向上させるためにどういう取り組みをしていますか?

 昨年みたいにバレエなどはあまり行けてはいないのですが、今は本当に細かいことでも普段の生活で気がついたことをノートに書いています。それがいろいろなところでつながってきたりする。例えば、伸びている枝を見たときにつながったのが、ジャンプの軸のイメージでした。枝をイメージして跳べば、きちんと跳べそうだなと。あとは衣装などもこういう色がいいとか思いついたりするんです。ただ、枝の生え方が軸に見えてしまうというのも良いのか悪いのかは分からないですね(笑)。

――それだけフィギュアスケートのことをいつも意識しているということで(笑)。最近何か人から言われて心に響いた言葉や出来事はありましたか?

 だいぶ前なんですけど、3月の世界選手権のショートで転んでしまったんですね。それでフリーまでの間の日に水泳の池江璃花子ちゃんから電話が来て「もう絶対にこけないで!」って(笑)。私も「こけません!」と言って、フリーを滑ったら転ばなかったので、それが一番響きましたね。

――池江選手はずいぶんストレートに言うんですね。ただ刺激を受けることも多いのでは?

 けっこうありますね。毎回あんなに日本記録を出せるものじゃないと思いますし、スケートだったらありえないので、すごいなと思います。

自分に何が足りないかが分かった

「スケート界の歴史に残る人物になりたい」。それが樋口にとって競技者としてのゴールだ 【写真:坂本清】

――北京五輪に向けて、新たな4年がまた始まりました。五輪に出られなかった経験を4年後に向けてどう生かしていきますか?

 一つはもう二度とあんな思いはしたくないという気持ちが強いことです。それを4年間忘れず、頑張れることが大きいと思います。あとは自分に何が足りないかというのが分かったこと。昨年はメンタル的に弱い自分がいたり、大事なところで失敗してしまうというのがあったので、今年からはもっと気持ちを強く持って滑りたいなと考えています。

――競技者としてのご自身の強みはどういうところだと思いますか?

 諦めが悪いことですね。今までも何とかして、最終的には成し遂げてきました。わがままなのかなとも思います。

――わがまま?

 基本的に自分がやりたいと思ったことはやりたいんです。やりたくなくてもやらないといけないことはあるので、それは別なのですが……。諦めないということにおいても、どうしてもここで決めたい、どうしてもここでやりたいと思ったときに、練習でもう終わりと言われているのにやったりとか、そういう感じです。

――今後、新たに挑戦してみたいことはありますか?

 4回転など人がやっていない技はやはり挑戦したいと思います。ただ、まだ3回転半が跳べていないのに4回転はできないと思うので、とりあえず3回転半をきっちり回れるようにしたいです。

――競技者としてのゴール、最終目標はどういうところに置いていますか?

 スケート界の歴史に残る人物になりたいです。例えば五輪3連覇だったり、世界選手権5連覇だったり……。人が成し得ていないことを達成したいと思っています。

(取材・文:大橋護良/スポーツナビ)

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