“大谷シフト”は有効なのか? 相手チームの思惑と打撃停滞の背景
復帰後の打率は2割ほど
7月31日(現地時間)、大谷は内角低めの速球を捉えてセンター前ヒットを放った 【Getty Images】
ねじ伏せにかかる相手の力をうまく利用しての打撃。一瞬の中に、技術が凝縮されていたが、欲を言えばこのときの打球角度は8.9度。もう少し角度がついていれば、というところ。大谷は「もちろん、ホームランになるのが一番ですけど」と言ったあとで、続けた。
「コースも良かったですし、球ももちろん強いですし、ああいう場面で出てくる左ピッチャーなので、なかなか簡単には行かない中では良かった」
それまでは左の軟投派に手を焼き、珍しく外角のボールになるカーブに手を出して2三振を喫していただけに、溜飲を下げた。
ただ、7月最終日に放ったその一打は、3日に復帰してからわずか13本目のヒット。7月の月間打率は2割3厘に低迷し、通算打率も7月末時点で2割5分8厘まで下がった。マイク・ソーシア監督も、「今は、かみ合っていない」と話したが、大谷本人も今の状態を、「停滞」と形容した。
「常にそういうのはある。ここ(大リーグ)でやっていてもそうですし、小さい頃からやってきて、そういうところばかり」
それはしかし、悪いことでもない。もがくことでしか得られないものもある。
「(そうした経験を経て)もっと先のバッティングが見えてくるのかなと思うので、楽しみな部分ももちろんある」
捉え方次第では、停滞こそ、飛躍の足がかり。
「もちろんシーズン中なので、目先の1本が欲しくなるところではあるんですけど、長期的に見て何が大事になるのか、というのも大事」
大谷は、先を見据えていた。
相手がシフトを敷くケースは50%
7月31日の時点で、大谷に対して相手が内野シフトを敷いた比率は50.5%(100打席)。シフトを敷かなかったケースは49.5%(98打席、いずれも『baseballsavant.com』より)。サンプルに限りがあるものの、偏りがないので比較しやすい。そこで得られるいくつかの数字を比較すると、こういう結果になった。
左が“シフトなし”のデータで、右が“シフトあり”のデータ。カッコ内は左打者のリーグ平均。
打率:.321(.258)、.195(.228)
BABIP:.396(.309)、.259(.271)
wOBA:.410(.320)、.296(.316)
三振の割合:21.4%(16.8%)、30%(23.9%)
四球の割合:7.1%(10.3%)、12%(6.85)
その前にwOBAの目安について触れておくが、大リーグの統計データなどを掲載しているサイト『fangraphs.com』によると、.400が「非常に素晴らしい」、.370が「素晴らしい」、.340が「平均以上」、.320が「平均」、.310が「平均以下」、.300が「悪い」、.290が「非常に悪い」、といった具合に分類される。
これにならえば、大谷のシフトなしのときのwOBAは.410と「非常に素晴らしい」数値だが、シフトありの場合は、.296で「悪い」部類に入ってしまう。
打率や、本塁打を除くグラウンド内に飛んだ打球がヒットになる割合を示すBABIPもシフトなしのときのほうが、圧倒的に高い。シフトありでは、三振の割合も30%に達し、大谷に対してはシフトが有効である、と考えられる。
ちなみに大リーグ全体での左打者に対するwOBAを比較すれば、“シフトなし”の平均が.320であるのに対し、“シフトあり”は.316とほとんど差がない。右打者も含めると、“シフトなし”の平均が.313で、“シフトあり”が.322と逆転する(いずれも7月31日時点)。つまり、wOBAを重視するなら、シフトの有効性が疑われる――。