江の島の海で「とにかく金メダルを」 セーリング土居愛実が目指す3度目の五輪

岩本勝暁

海外遠征は年間300日以上

全身を使って帆を操るセーリング。目に見えない“風”を味方につけるための知識、技術、センスが求められる 【スポーツナビ】

 タフでなければ生きていけない世界だ。

 昨年から今年にかけて年間16レースをこなす。海外遠征も増え、一年の300日以上を海外で過ごしている。はじめはホームシックにかかることもあった。それでも、レースがない時はオーストラリアに行き、コーチのアーサー・ブレッドの指導を受けながら現地の選手と一緒に練習している。
 ヨットの手配にも慣れてきた。ロンドン五輪の後はヨーロッパでヨットを借りて車に載せ、コーチの運転で数千キロも移動していたという。

「コーチに負担が掛かったので、今年は日本で買ったヨットをコンテナで送って、ヨーロッパでずっとキープしています。業者に預けておいて、レースが開催される場所まで運んでもらう。それが結局、一番安くつきます。シーズンが終わってヨットを売れば、多少はお金も戻ってきますから」

 どれだけ大変な思いをしても、それでも海に出続ける。

 なぜか。

「勝ちたい、それだけです」

 シンプルな言葉だ。それでいて、凄(すご)みがある。

 好きな景色がある。セーラーだけに与えられた特権、海上の特等席から望む大パノラマだ。

「海に出たときに見る、陸の感じが好きなんです。世界のいろいろなところに行くので。例えば、先日はデンマークに行きました。どんな景色だろうと思っていたら、自分がイメージしていたデンマークと一緒だった。また、バルセロナだったらサグラダ・ファミリアが見えたり。そういうのを楽しんでいます」

 海外遠征から帰ってくると、つかの間のオフを横浜の実家で過ごす。
「やっぱり家が落ち着きますね。お母さんの手料理を食べるとホッとします。実家では犬を飼っているんです。ヨークシャーテリアで名前はチョコ。犬に会うと、日本に帰ってきた気がします」

「とにかく金メダルを取りたい」

海上から見る、陸の景色は格別だ。慣れ親しんだこの江の島で、土居は五輪の金メダルを狙いにいく 【スポーツナビ】

 2020年7月26日、江の島に五輪が帰ってくる。

「とにかく金メダルを取りたいという気持ちです。それから、いつも自分が練習をしている場所で五輪が開催されるので、今まで自分に関わってくださったたくさんの人に見にきてほしい。自分がセーリングをしているところは、なかなか見てもらう機会がないですから。五輪という舞台でそれを見てもらえるのは、本当に一生に一度のこと。恩返しというか、いろいろな人に『自分はこんなことをやってきたんだよ』というのを見てもらいたいですね」

 真っすぐ前を見据える。

 あと2年――、やがてその日はやって来る。慣れ親しんだ海。ホームの大歓声は、きっと追い風になるだろう。

 風よ、吹け。もっと、吹け。そして、金メダルを運んでこい。

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著者プロフィール

1972年、大阪府出身。大学卒業後、編集職を経て2002年からフリーランスのスポーツライターとして活動する。サッカーは日本代表、Jリーグから第4種まで、カテゴリーを問わず取材。また、バレーボールやビーチバレー、競泳、セパタクローなど数々のスポーツの現場に足を運ぶ。

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