新リーグ開幕に向けたサントリーの試み バレー界を盛り上げる、情熱の仕掛け人

田中夕子

運営も現場も一体になって盛り上げる意識が必要

これからは運営も現場も、「一体になって盛り上げる」という意識に変えていかなければならない 【写真提供:サントリーサンバーズ】

 新リーグになる今季からは、これまでのように試合の開催権が都道府県協会から各チームに譲渡される。そのため、ホームゲーム時にはプロトコールから試合終了までを除く時間は、ホームチームでイベントを含めた運営を行うことができるようになり、収益は各チームに還元される。

 とはいえ、完全なるプロ化ではないため、選手の多くがチームの所属企業に属し、給料は企業から支払われる。結果を出さなければスポンサーがつかず、収入すら得ることができない他競技と比べ、守られている感は否めない。

「僕も選手だったので、今この立場になって自分たちがいかに守られてきたか、ということがよく分かるようになりました。選手は結果を出すことが第一ですから、そのために試合前もいろいろと準備をしたいし、もっと集中したい、と思う気持ちもよく分かります。実際にホームゲームでイベントを行う時も、ファンの方から『試合前の大事な時間に選手を(イベントに)使うなんて何をしているんだ』とお叱りを受けることもありました。そう思ってもらえることはありがたいです。

 ただ、極端かもしれませんが、自分のペースですべてができなければ結果を出せないような選手、チームならばトップで戦う資格はない。これからは運営も現場も、一体になってバレーボールを盛り上げる、という意識に変えていかなければならないんだと思います」

バレーの魅力を多くの人に感じてほしい

先陣を切ってチャレンジを続けてきたサントリー。新リーグでも挑戦は続く 【写真提供:サントリーサンバーズ】

 先陣を切ってさまざまなチャレンジを続けてきた成果は着実につながり始め、サントリーの選手たちはSNSを活用し、さまざまなイベントの告知をしたり、ファンと選手が多く接点を持つイベントを開催するなど、ファンサービスに関しても積極的に取り組むようになった。そしてその姿を見る他チームの選手や運営陣にも影響は波及し、ナイトゲームの開催やプロジェクションマッピングに関して、実現に向けた具体的な策を含め、今度は逆に話を聞かれる機会も増えた。

 最初はたとえ小さな一歩でも、賛同してくれる人たちが増えれば、少しずつ輪は広がり、いつかは、大きな波を起こす。そのために向けたスタートがまさに今季であり、その象徴となるのが東京で行われるJTサンダーズとの開幕戦だ。

「今までバレー会場では味わえなかった空気を前面に出して、地域色も企業色もいい形で打ち出したい。サントリーには『やってみなはれ』という言葉、志があるので、まさにその言葉通り、どんなことでも挑戦したいですよね。スター選手をつくって人を呼ぶことは簡単ですが、それだけでは続かないし、今までと一緒の流れで毎年同じサイクルでやればいいや、ではすぐに衰退します。

 対戦相手も交えてホームゲームを面白く演出したり、選手側からの『こんなことをやってみたい』という意見もどんどん上がってくればいいなと。何より僕はバレーボールが好きなので、その魅力を少しでも多くの人に感じてほしい。見るだけで、そこにいるだけで鳥肌が立つような、熱狂するバレーボール会場をつくりあげたいです」

 あれが足りない、これがダメ。マイナス面に目を向ければきりがない。だからこそ、できない、ではなく、できると信じて誰もやったことがない道を切り拓く。その情熱が、バレーボール界を盛り上げる力になると信じて。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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