相手に刻まれた大坂なおみの成長と変化
敗れてなお光った「賢いプレー」

粘り及ばすキーズに敗北を喫する

大坂なおみ(左)は敗れたものの、キーズ(右)相手に成長の跡を見せた
大坂なおみ(左)は敗れたものの、キーズ(右)相手に成長の跡を見せた【写真:アフロ】

 成長の跡というのはもしかしたら、当事者以上に、コート上でラケットを交えた対戦相手の目にこそ、克明に映るものかもしれない。


 大坂なおみ(日清食品)がマディソン・キーズ(米国)と初めて対戦したのは、2年前の全米オープン。その時は大坂が第3セットで大きくリードするも、終盤で追い上げられ大逆転負けを喫した。その半年後に実現した再戦では、キーズが6−1、6−4で完勝している。


 そして3度目の対戦となった、今回の全仏オープン3回戦――。昨年の全米オープン準優勝者は、立ち上がりから完璧とも言えるテニスで大坂を圧倒した。高速サーブはことごとくコーナーを捉え、自慢の強打もライン際に鋭く刺さる。またこの日のキーズは、普段はさほど打たぬドロップショットも多用。硬軟自在のプレーを見せるキーズに対し、大坂は「今日は何をやってもうまくいかない」苦境に陥った。


 第2セットもキーズが序盤でブレークし、ゲームカウント3−1とリード。この時点で、試合の行方は決したかに思われた。


 だが大坂は、その後の第6ゲームをブレークする。終盤の第9ゲームでもブレークされるが、再び直後のゲームを奪い返した。勝利が近づいたがゆえの硬さからか、あるいはリードしたことへの安堵(あんど)からか、いずれのゲームでもキーズのミスが増えたという側面もある。ただそれらも、諦めることなく食い下がり、集中力を切らさぬ大坂の姿勢があったからこそだろう。


 結果的には、もつれこんだタイブレークの末に、キーズが第2セットも奪う。先行した大坂だったが、中盤の長いラリー戦を制したことで流れを掌握したキーズが、そのまま勝利へと駆け込んだ。

「最後まで素晴らしかった」大坂の姿勢

大坂はリードを奪われても集中力を切らさず、最後まで相手に食い下がった
大坂はリードを奪われても集中力を切らさず、最後まで相手に食い下がった【写真:アフロ】

 初対戦がフルセットの大接戦だったことを思えば、対戦を重ねるごとに相手が大坂の特性を理解して、攻略法を体得してきたかに見える。ところがキーズは、「第2セットに彼女はプレーのレベルをあげてきた。そこが、前回の対戦とは大きく異なっていた点であり、彼女がいかに良いプレーヤーになっているかを物語っている」と言った。

「だから、私の方が少し年上で良かったと思うわ。おかげで、最後は“ベテラン”的な勝ち抜け方ができたから」。


 対する大坂は、「とても悪いプレー」に終始した試合の中で、それでも終盤に追い上げることができた理由を「簡単に勝たせはしないぞ」と思ったことにあったという。


「とにかく、食らいつこうと思っていた。何か特別なことをした訳ではないし、戦術を変えた訳でもない。強打しても入らないし、相手を押し込もうと思ったけれどそれでもできなかったから……あえて言えば、少しボールにスピンを加えたことくらい」


 どんなに悪い日でも、最後まで諦めずに戦えば何かが起こりうる――それが今日の試合で大坂が、新たに獲得できた最大の収穫だったという。


 大坂は、第2セットの追い上げについて「特に何かを変えた訳ではない」と言った。だが、実際にコート上で対峙(たいじ)したキーズの思いは、少々違う。

大坂の変化と成長は、キーズ(右)の記憶に脅威として刻まれた
大坂の変化と成長は、キーズ(右)の記憶に脅威として刻まれた【写真:ロイター/アフロ】

「彼女のコート上での姿勢は最後まで素晴らしかったし、最後までうなだれることがなかった。そして何より……彼女は第2セットで、とても賢くプレーした」


 その「賢いプレー」の内訳とは、「第1セットからは大きくプレー内容を変え、いろんなショットを混ぜるようになってきた」点だという。だから第2セットでは、大坂のプレーに対応するのが難しかったのだと勝者は説明した。


 大坂が、第2セットでのプレーの変化について明確に説明しなかったのは、語るを良しとしなかったからなのか、あるいは、ごく自然にやったことでさほど自覚していなかったからなのか、それは分からない。ただ6−1、7−6というスコア以上に、大坂の変化と成長は、相手の記憶に脅威として刻まれていた。


 試合後の大坂は、決して落胆や失意の表情は見せなかった。それは「テニスでは、一つの試合や大会で結果がでなくても、次に良い週が訪れることがある」からだ。そしてそれこそが、「インディアンウェルズの優勝で、私が学んだこと」だという。

 いかなる状況でも諦めず、活路を見いだし、次の戦いに向けて前を向く――20歳で迎えた今シーズン、大坂なおみは真の意味で、テニスプレーヤーとしての日々を送っている。

内田暁

テニス雑誌『スマッシュ』などのメディアに執筆するフリーライター。2006年頃からグランドスラム等の主要大会の取材を始め、08年デルレイビーチ国際選手権での錦織圭ツアー初優勝にも立ち合う。近著に、錦織圭の幼少期からの足跡を綴ったノンフィクション『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)や、アスリートの肉体及び精神の動きを神経科学(脳科学)の知見から解説する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。京都在住。

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