世界の名将に評価された23歳 水球・足立「自分はまだまだ」からの未来

田坂友暁

光った水球センス 岐阜から埼玉、そして東京へ進学

19歳だった14年アジア大会で初代表。2年後のリオ五輪にも名を連ね、その後の世界選手権に出場した。活躍もすれば、力を出せない悔しさも味わった 【写真:Enrico Calderoni/アフロスポーツ】

 世界を騒がせる一流プレーヤーとなった足立だが、その素顔は23歳の気持ちの良い青年だ。取材ひとつ一つにしっかりと応え、自分の気持ちを素直に話す。良かったプレーを褒めると、はにかんだ笑顔を見せる。
 日本チームのなかでも、その底抜けに明るく、素直で愛されるキャラクターの足立は、いわゆる“いじられキャラ”である。先輩後輩関係なく、多くの選手に囲まれている姿をよく目にする。まさにチームのムードメーカーでもある。

 そんな足立が生まれ育ったのは、岐阜県各務原市。小学2年生のとき、先に水球をやっていた兄をきっかけに水球の世界に飛び込んだ。
 体は決して大きくないものの、センスを感じさせるプレーを随所に披露していた足立は、水球名門校である埼玉の秀明英光高に進学。
 当時の足立を見た日本代表の大本洋嗣ヘッドコーチは「こいつは戦力になる」と思ったという。足立は高校生のときから、世界に羽ばたける逸材であるとの評価を受けていたのである。
 そして当然のように、水球日本一のチームである日本体育大に進学。大本ヘッドコーチの元でトレーニングを開始することとなる。

 足立が初代表入りを果たしたのは、今からちょうど4年前。19歳だった14年夏に行われた、アジア大会(韓国・仁川)だ。当時の日本は、アジアナンバーワンのカザフスタンと中国に次ぐ3番手のチームだった。
 しかし、足立はデビュー戦となるアジア大会でも、物おじすることなくそのセンスを爆発。ミドルレンジからいくつもシュートを放ち、アジア大会2位に貢献した。

大エース引退の日本代表 2020へ向け、後を継ぐ存在に

リオ五輪時のエース、竹井昂司(写真)は引退。後継者と目される足立だが「自分は自分にできることをやるだけです」。自分の道を、しっかりと見つめている 【写真:青木紘二/アフロスポーツ】

 代表デビューまでトントン拍子で成長してきたかに思われたが、足立には弱点があった。好不調の波が激しいのである。
 まさに不調のどん底にいたのが、15年の世界選手権(ロシア・カザン)だ。足立らしい軽快なフィールドワークとセンス溢れるシュートはなりを潜め、精彩を欠くプレーが続いた。

「自分は、まだまだだと思い知らされました」

 言葉少なに会場をあとにする足立の背中が、少し小さく見えたほどだった。

 それでも一度ハマれば強いのも、足立の良さだ。同年12月に行われた、リオ五輪の最終大陸予選では調子を取り戻し、当時のエースであった竹井昂司とともに得点を量産し、32年ぶりの五輪出場に貢献。初めて五輪の舞台に立つことができた。

 五輪後、その竹井が引退。ハンガリーの水球プロリーグに所属していた竹井は、ゴール数で5位につけるほどの天才的プレーヤーでもあった。足立はこれから、そんな世界でも名の通った竹井のあとを継ぐことになる。プレッシャーにならないのか、そう聞いてみると、足立らしい素直な言葉が返ってきた。

「竹井さんはすごい選手だったので、その後を継ぐと聞くとプレッシャーはありますが、自分は自分にできることをやるだけです」

 大本ヘッドコーチも「2020年の東京五輪では中心選手になってもらいたい。いや、なってもらわないと困ります」と、足立にかける期待は大きい。ただ、それだけの潜在能力を秘めている、ということにほかならない。

 好不調の波を小さくすること。海外選手の当たりに負けない体を作り上げること。大本ヘッドコーチが提唱する超攻撃型のフォーメーションである“パスラインディフェンス”は、どのチームよりも泳ぎ、動き回るシステムだ。これを32分間フルに泳ぎ続けられる体力をつけること。

 課題は多いが、それも伸びしろ。まだ23歳になったばかりの足立は、水球選手としてのキャリアをスタートさせたばかり。足立はきっと、2年後の東京五輪の舞台で躍動する姿を見せてくれることだろう。

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著者プロフィール

1980年、兵庫県生まれ。バタフライの選手として全国大会で数々の入賞、優勝を経験し、現役最高成績は日本ランキング4位、世界ランキング47位。この経験を生かして『月刊SWIM』編集部に所属し、多くの特集や連載記事、大会リポート、インタビュー記事、ハウツーDVDの作成などを手がける。2013年からフリーランスのエディター・ライターとして活動を開始。水泳の知識とアスリート経験を生かした幅広いテーマで水泳を中心に取材・執筆を行っている。

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