イングランド代表を知る3つのポイント 真価が問われるのは決勝Tのコロンビア戦

田嶋コウスケ

チュニジア戦とパナマ戦に連勝し、第2戦を終えたところでグループリーグ突破を決めたイングランド 【Getty Images】

 イングランド代表が、ワールドカップ(W杯)ロシア大会で決勝トーナメントに進出した。

 グループリーグの結果は2勝1敗。チュニジア戦とパナマ戦に連勝し、第2戦を終えたところでグループリーグ突破を決めた。そして、互いに主力を温存したベルギーとの最終節は0−1で敗戦。この結果、グループGを2位で通過することになった。

決勝Tでのアプローチは攻撃的か、守備的か

 初戦のチュニジア戦は2−1で辛勝。そして、2戦目のパナマ戦は力の差が大きく、シンプルな縦パスやクロスボールだけでチャンスの山を築いた。試合後は6−1の歴史的な大勝に沸くことになったが、スコア以上に実力差があったように見えた。さらに、最終節のベルギー戦は両軍のグループリーグ突破が事前に決まっており、内容的にも消化試合の域を出なかった。

 こうして振り返ると、イングランドの実力を知る物差しになったのは初戦のチュニジア戦だ。

 前半は、前線から圧力をかけてチュニジアを圧倒した。チーム全体で行進するかのように、グイグイと押し込みゴールチャンスをつくった。ところが、後半にチュニジアが4バックから5バックにシステムを変更すると、状況は一変。攻撃は途端に停滞し、後半アディショナルタイムまで1−1で推移するという大苦戦を強いられた。

 原因は、攻撃の構成力不足に尽きる。3〜4人の選手が連動するアタックは皆無で、相手が守備を固めてくると手詰まりになってしまうのだ。最前線のハリー・ケインが好調を維持しているのは心強いが、決勝トーナメントから相手の守備組織のレベルが高まるだけに、一抹の不安を残す。

 改善のポイントは、いかに相手のポゼッション時に高い位置でボールを奪えるか。相手DFラインのパス回し時に最前線からプレスをかけ、ボールを奪って素早くショートカウンターを繰り出す。この形をイングランドは得意とするだけに、勢いに乗った速攻からゴールに迫りたい。

 ただ、W杯予選期間と同時進行で行なった強豪国との強化試合では、一貫して守備的なアプローチをテストしてきた。ブラジルやドイツ、フランス、イタリアといった強豪を相手に、重心を低くした堅守速攻の戦術を採用してきたのだ。

 ここまでW杯ロシア大会では3−5−2の戦術を用いながら、ウィングバックが高い位置をとってアグレッシブに攻撃を仕掛けた。しかし、強化試合では最終ラインの枚数を増やした5−4−1に変形してプレーした。守備を重視しながら、カウンターで攻撃を仕掛けるアプローチを用いたのである。

 決勝トーナメント1回戦のコロンビア戦で、ギャレス・サウスゲート監督がどちらの戦術を採用するのかも注目したいポイントになる。

セットプレーのアイデアはNFLとNBAから

ゴールが量産できるようになった理由は、用意周到に準備してきたセットプレーにあった 【Getty Images】

 お世辞にも連動性の高い攻撃を奏でいるとは言い難いイングランドで、強力な武器になっているのがセットプレーだ。グループリーグで奪った8ゴールの内、4分の3にあたる6ゴール(PK2つを含む)をセットプレーから決めているのだ。膠着(こうちゃく)状態を崩す「切り札」、あるいは、奪えば優位に立つことができる先制点の「突破口」として、効果的に機能している。

 もちろんW杯が始まってから突然、ゴールを量産できるようになったわけではない。サウスゲート監督は、W杯に向けてセットプレーを用意周到に準備してきた。4年前のW杯ブラジル大会では総ゴールの11%がCKから生まれているが、47歳の指揮官は他の大会に比べるとその比率が高いことに注目。同時に、緻密な作戦の多いアメリカンフットボール(NFL)やバスケットボール(NBA)といった米国のスポーツから、技術やアイデアをサッカーに応用できないかとリサーチを進めてきたという。実際、サウスゲート監督は今年2月に米国ミネソタ州ミネアポリスで行われたニューイングランド・ペイトリオッツ対フィラデルフィア・イーグルスのNFL優勝決定戦、スーパーボウルを視察。米国へ出発する前に「攻撃面と守備面の戦略に注目したい」と語っていた。

 そんな指揮官の狙いを具現化させているのが、コーチを務めるスコットランド人のアラン・ラッセルだ。現役時代はイングランドやスコットランドの下部リーグでプレーした苦労人で、キャリアの晩年を米国の下部リーグで過ごした。ここで米国スポーツに親しみ、とくに細部にこだわるアメフトの戦術に強い感銘を受け、独自に研究を進めたという。

 現役引退後はプレミアリーグのクリスタル・パレスで攻撃専門コーチに就き、そこでの手腕を買われて昨年3月にイングランド代表のコーチに抜擢(ばってき)。米国で培った豊富な知識を生かし、37歳の若さで代表のセットプレー担当を任されるようになった。

 ラッセルの手腕が最も光ったのは、パナマ戦の4点目に見せたFKのトリックプレーだろう。キッカーのキーラン・トリッピアーから、ジョーダン・ヘンダーソン→ケインと事前のプラン通りにボールと人が動き、最後はジョン・ストーンズがヘディングシュートをたたき込んだ。

 また、2−1で勝利した初戦のチュニジア戦でも、CKが威力を発揮した。この試合のイングランドは「CKでペナルティー・マーク付近にボールを入れ→高身長のDFが空中戦に競り勝ち→ファーサイドに詰めるケインに合わせる」という流れを徹底。7本あったCKのうち、この流れで4回はケインにボールが渡り、2回がゴールにつながった。特に、後半アディショナルタイムに決めたケインの決勝点は、彼の決定力を生かす「セットプレー戦術」が功を奏した格好だ。チュニジアの分厚い守備に苦しんだが、セットプレーがイングランドを救ったのである。

 意外なことに、4年前のW杯ブラジル大会で、イングランドは8本あったCKとFKから一度もネットを揺らせなかった。しかし今大会は、すでに4ゴールを奪取。ベルギー戦は消化試合になったため手の内を隠したが、コロンビア戦では異なるアプローチでゴールを狙うだろう。

1/2ページ

著者プロフィール

1976年生まれ。埼玉県さいたま市出身。2001年より英国ロンドン在住。サッカー誌を中心に執筆と翻訳に精を出す。遅ればせながら、インスタグラムを開始

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント