イングランド代表を知る3つのポイント 真価が問われるのは決勝Tのコロンビア戦

田嶋コウスケ

派閥がない現在の代表

平均年齢25.6歳の若い現代表では派閥が存在しない 【Getty Images】

 最後のひとつは、イングランドの黄金世代が抱えていた派閥問題について。各大会で多少メンバーのズレはあるが、デビッド・ベッカム、リオ・ファーディナンド、ウェイン・ルーニー(すべて元マンチェスター・ユナイテッド)、スティーブン・ジェラード、ジェイミー・キャラガー(すべて元リバプール)、フランク・ランパード、ジョン・テリー(すべて元チェルシー)らを擁した02年のW杯日韓大会から10年のW杯南アフリカ大会まで、イングランド代表は「黄金世代」と呼ばれた。ただ同時に、プレミアクラブ間の戦いも熾烈(しれつ)を極め、各選手たちは国内リーグとチャンピオンズリーグを争うライバルでもあった。

 現役を引退したファーディナンドは次のように述懐する。

「マンチェスター・Uに忠誠を誓い、クラブでの成功を追い求めすぎるあまり、代表では周りが見えなかった。代表で多くを語れば、彼らがクラブに情報を持ち帰る怖さがあった。代表が終われば、すぐに国内リーグが再開するからね。だから、代表メンバーと親しくする気になれなかった。タイトルを争っていたリバプールやチェルシーの選手に心を開けなかったんだ」

 当時のイングランドはクラブごとに派閥ができ、チームとして一枚岩になれなかった。クラブ間の強烈なライバル関係が、代表のパフォーマンスに悪影響を及ぼしていたのだ。

 しかし英紙『インディペンデント』によれば、この黄金世代が一掃し、平均年齢25.6歳の若い現代表では雰囲気が一変しているという。黄金世代の一人であるランパードも「サウスゲート監督が派閥ができないよう工夫している。非常に良いこと」とし、現代表の内情と雰囲気の良さを明かしている。

 実際、アーセナル所属のダニー・ウェルベックは、地元ライバルクラブのトッテナム所属選手との関係について「彼らとはジョークを言い合う仲。俺からクラブのことも聞いたりするし、彼らから尋ねてきたりもする。代表選手のことはなんでも知っているさ」と笑顔を見せる。クラブ間ではライバル関係にあるマンチェスター・シティのラヒーム・スターリングとトッテナムのデレ・アリは、代表を離れても非常に仲が良いという。こうした風通しと雰囲気の良さも、現イングランド代表の特徴だ。

英国内も盛り上がりを見せる

W杯開幕前のイングランド代表への国民の期待値は非常に低かったが、徐々に盛り上がりを見せてきた 【Getty Images】

 W杯開幕前、イングランド代表への国民の期待値は非常に低かった。開幕前は「ベスト8に進出できれば御の字」との意見が多数を占め、黄金世代時にあったような国をあげての異様な盛り上がりは感じられなかった。

 そんな期待の低さを裏付けるように、初戦のチュニジア戦は大苦戦した。しかし、後半アディショナルタイムにCKから決勝弾を挙げて白星でスタートすると、2戦目のパナマ戦は6−1で大勝し、決勝トーナメント進出を早々と決めた。グループリーグの組み合わせに恵まれた感はあるが、ここにきて英国内も盛り上がりを見せてきた。

 特に最終節のベルギーに敗れて2位通過を決めたことについて、英BBC放送は「決勝トーナメントで楽なブロックに入った」と指摘。ブラジルやフランスといった強豪国との対戦が避けられることから、感情的な論調が目立つ英『サン』にいたっては「栄光への道がひらけた」と前向きに伝えた。

 決勝トーナメント1回戦のコロンビア戦から、イングランドの真価が問われるだろう。

 攻撃がうまく機能していない分、セットプレーで先制点を挙げて試合の主導権を握れるか。あるいは、格上に押し込まれたときに、1対1の守備対応に脆さが出る最終ラインがどこまで踏ん張れるか。「イングランド最大のウィークポイント」(英紙『サンデー・タイムズ』のジョナサン・ノースクロフト記者)とされるGKジョーダン・ピックフォードの奮闘も必要になる。真剣勝負の度合いも相手のレベルも、一気に高まる決勝トーナメントからが真の勝負になるだろう。

 期待の目で見れば、若いチームであるが故、勢いに乗ったら加速度的に成長していく強みはある。この勢いに乗ったこそ、イングランドが最も強さを発揮できる瞬間だ。

 はたして、今回のイングランドはどこまで勝ち進めるか──。まずは、7月3日に行われるコロンビア戦が試金石になる。

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著者プロフィール

1976年生まれ。埼玉県さいたま市出身。2001年より英国ロンドン在住。サッカー誌を中心に執筆と翻訳に精を出す。遅ればせながら、インスタグラムを開始

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