アルゼンチン撃破でフランス代表が覚醒 「みんながリーダー」で成長する若き集団

木村かや子

アルゼンチン戦の勝利で、何かが生まれた

若きレ・ブルーは試合を経るごとに成長し、一体感も増している 【写真:ロイター/アフロ】

 パバール、エムバぺのゴールを祝うため駆けつけた選手たち、そして勝利が決まった瞬間の選手たちの笑顔の中には、これまでになかった何かがあった。

 デシャン監督は、「これはこの若いチームにとって、重要な瞬間だ。選手たちのことをとても誇りに思う」と言った。しかしもちろん、決勝トーナメントはまだ始まったばかり。先発メンバーの半数がW杯初体験であり、平均年齢はおよそ25歳。若さは強みにも弱みにもなり得るが、「このチームは若い。そして私は意図してそのようなメンバーを選んだ」というデシャンは、そのことを承知している。フランスは、いわゆる優勝候補ではないが、少なくとも、先の先まで勝ち進むための潜在能力を有している。

 ここまでの戦いを通じて得たことは、他にもある。まずペルー戦を機に、ようやく基本布陣が定まった。華やかさはないが、ゴール前での存在感、ポストプレー、アシスト、守備への加勢、チームプレーの精神と、多くの面で欠かせない存在のFWジル―の背後に、攻撃のリーダーであるグリーズマン。その右にエムバぺ、左にマテュイディ。守備的MFの位置にエンゴロ・カンテとポグバが入る4−2−3−1。今大会の出だしから、前方への仕掛けのパスをはじめ攻守でいい働きを見せているポグバ、貢献度ではそれに勝るとも劣らないボール奪回役のカンテで形成する2ボランチは、このチームの核でもある。

 そしてその後ろには、右SBにパバール、左SBにエルナンデス、CBにラファエル・バランとサミュエル・ウムティティが並ぶ。平均年齢23歳の若い4バックだが、背後には、W杯開幕以来、安定したパフォーマンスを見せているベテランにしてキャプテンのGKウーゴ・ロリスが控えている。

 そして今、戦い方の大筋も見え始めた。ボールを支配して高い位置でブロックを作るか、それともスピードを生かすためカウンターに賭けるか、という問いに対し、解説を務めるアーセン・ベンゲルは、「今や道は、カウンターのほうに定まった。ボールを奪うや迅速に攻守を切り替え、素早く前方に攻め上がること。それが、今のフランスが持つ能力を最大に生かす方法だ」と言い切りさえした。

若さはもろ刃の剣、それでも夢は広がる

アルゼンチン戦で2得点を挙げてマン・オブ・ザ・マッチに輝いたエムバペ 【Getty Images】

「みんながグリーズマンに期待していたが、ふたを開けてみれば、チームをけん引したのは若手たちだった」と言った者もいる。しかし、その判断を下すのはまだ早い。

 若さに似合わぬ冷静さに定評があったエムバぺだが、判断ミスをすることもあり、毎試合実力を見せることができていたわけではない。エムバぺが、現在知られている以上の怪物に化けるか否かは、次の試合以降のお楽しみということになるだろう。W杯の決勝ラウンドの試合で2得点した10代の選手は、17歳でそれをやってのけたペレ以来だ、と世界は騒ぎ始めているが、本人は「うれしいし、名誉なことだけど、物事の軽重を正しく判断すべきだ。ペレは別のカテゴリーの選手だよ」と、礼儀正しく比較を回避した。

 おそらく一番適切なのは、「このチームのリーダーは、チームのみんなだ」と言ったポグバの見解だろう。やはり解説を務めていたユーリ・ジョルカエフ(元フランス代表)は、こう言ってそれに同意した。

「最初はポグバだ、グリーズマンだ、と個人について言っていたが、今日のフランスは、この瞬間にはパバール、それからエムバぺというように、チームとして前に進んでいた。このチームの強さは、みんなが屈強だということだ」

 ポグバはまた、「僕らはまだチャンピオンになったわけじゃない。喜ぶのは明日までで、そのあとは次の試合に集中だ」と言って、熱くなっているメディアをなだめさえした。

「まだまだ先は長いんだ。そして僕は、このチームとともに、可能な限り先まで勝ち進みたいと思っている」

 どのくらい遠くまで? 若い才能は、2週間で大きく花開く可能性と、経験不足の罠(わな)にはまる可能性の双方を持つ、もろ刃の剣だ。しかし少なくとも、夢を実現する可能性は、そこにある。

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著者プロフィール

東京生まれ、湘南育ち、南仏在住。1986年、フェリス女学院大学国文科卒業後、雑誌社でスポーツ専門の取材記者として働き始め、95年にオーストラリア・シドニー支局に赴任。この年から、毎夏はるばるイタリアやイングランドに出向き、オーストラリア仕込みのイタリア語とオージー英語を使って、サッカー選手のインタビューを始める。遠方から欧州サッカーを担当し続けた後、2003年に同社ヨーロッパ通信員となり、文学以外でフランスに興味がなかったもののフランスへ。マルセイユの試合にはもれなく足を運び取材している。

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