パラと健常、垣根を超えたバド今井大湧 背中を押した愛工大名電高恩師の言葉

瀬長あすか

アジアユース金メダル 実感したメンタル面の成長

アジアユースでは日本選手団の主将という大役を担った今井(右から2人目) 【写真は共同】

 その後日体大に進学した今井は、健常者のインカレ予選などに出場しながら、パラバドミントンの大会に出場。初挑戦となった17年11月の世界選手権はシングルス銅メダル、若手が出場する同年12月のアジアユースパラ競技大会では強豪国の同世代を抑えてシングルス金メダル、続く日本障がい者バドミントン選手権で2年ぶりに優勝する活躍を見せたのだ。

 なかでも、アジアユースパラ競技大会の優勝は今井にとって大きな意味を持つ。

 その直前に開催され、今井自身17年シーズンのクライマックスと位置付けていた世界選手権の後、「数日間、何も考えられなかった」という脱力感に見舞われていた今井。世界選手権では、準決勝でバドミントン王国・マレーシアで健常者と渡り合ってきた実績を持つ世界ランキング1位のリク・ハウ・チア相手に0−2で敗れていた。

「狙っていた金メダル獲得がまだ難しいということは、どこかで感じていました。でも、1位の選手と『いい試合をしたい』と思って臨んだのに、差がすごくありすぎて……気持ちも入れて挑んだだけに、その差が悔しくて仕方ありませんでした」

 右肩にまひがあるものの、優れたボディーバランスで長年トップに立ち続けるリクに、今井はまだ一度も勝利を収めていない。だが、東京で金メダルを取るには倒さなければならない相手だ。

「自分には東京パラリンピックで勝つという目標がある。うかうかしている時間はない。気持ちを切り替え、アジアユースを新しいスタートにしようと思いました」
 アジアユースでは日本選手団の主将という大役に。「チャレンジすることで一回り大きくなれればと考えました」

 そして迎えた、世界選手権2週間後に迎えたアジアユース予選は、初日でインドネシアのデヴァ・アンリムスティに1−2まさかの敗退。本人は主将のプレッシャーこそ否定したが、「気持ちに焦りが出て立て直せなかった」と話し、呆然(ぼうぜん)としていた。

 しかし、そのアンリムスティとの対戦は再び決勝でめぐってきた。ラリーの得意な相手に第1セットを奪われるも、ラインギリギリのショットなどを決めて第2セットを取り返し、第3セットでは大学生になってからパワーの増した重いスマッシュがさく裂。見事初日の悔しさを晴らす大きな1勝を手にした。決勝では課題だった試合中の気持ちのコントロールも自然に行うことができたといい、リードされてもゲーム中で修正するたくましさが見て取れた。また、緩いショットも効果的に決まり、「もうスマッシュだけの選手ではない」と周囲に印象付けた今井。冷静に試合を分析しつつ、「競ったときに冷静になり、勝ち切ることができた。プレー的に成長できた」と自信をつけた様子で語った。

恩師が感じる変化、地域社会へも好影響

16年日本障害者バドミントン選手権では、五輪2大会出場の池田信太郎とデモンストレーション競技を披露。交流の輪の中心に、今井もいる 【写真:アフロスポーツ】

 今井は盆暮れ恒例のバドミントン部OBによる集まりで母校・愛工大名電高を訪れる。その印象を顧問の日詰先生はこう語る。

「バドミントン漬けの大学生活が充実しているからか、以前よりも積極的になり堂々としているように見えますね。高校時代から食べる量を増やしてもなかなか大きくならなかった体も、今や胸板が厚くなり、大腿部やふくらはぎも太くなったなぁと感じます。彼の出場する国際大会はインターネットでよくチェックしますが、強豪国の選手に負けずに頑張ってほしいです」

 日詰先生によると、今井がパラバドミントンに挑戦するようになり、地域でもパラバドミントンの講習会が開かれるなど、健常者と障がい者の垣根がなくなったという。そして、期待せずにはいられない。彼が東京パラリンピックの表彰台に立ったとき、その交流の輪はさらに大きくなるのだ、と。

 今年10月に開催されるアジアパラ競技大会(10月/インドネシア・ジャカルタ)は、東京パラリンピックのひとつの試金石になる重要な大会だ。アジアパラを制することができれば、東京パラリンピックの金メダル獲得も夢ではない。アジアパラ優勝の先にある世界ナンバーワンの座を目指し、今井は今日もシャトルを追い続ける。

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著者プロフィール

1980年生まれ。制作会社で雑誌・広報紙などを手がけた後、フリーランスの編集者兼ライターに。2003年に見たブラインドサッカーに魅了され、04年アテネパラリンピックから本格的に障害者スポーツの取材を開始。10年のウィルチェアーラグビー世界選手権(カナダ)などを取材

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