連載:未来に輝け! ニッポンのアスリートたち
17歳の武器は“ノースプラッシュ” 兵庫県出身の飛び込み選手・荒井祭里
トップ選手に学んだ世界選手権 涙の日本選手権初V
初めて出場した念願の世界選手権。10メートルシンクロで決勝に進出したものの、「初めての世界大会で、緊張して思うような演技ができませんでした」。10位で入賞を逃した。期待に胸を膨らませたそのデビュー戦は、悔しさが残る結果となった。
だがこの世界選手権で、真面目で真摯(しんし)に競技に取り組む荒井の姿勢が良く分かる場面があった。
自分の出場種目が始まる前も終わった後も、荒井は毎日、真剣なまなざしで飛び込みプールを見つめていた。世界でメダル争いをする選手たちの姿を、試合のときだけではなく、練習の時間もずっと見続けていたのだ。
荒井を指導する馬淵崇英コーチは「世界のトップクラスの選手たちの演技を見ることも勉強。祭里にとって大切な時間です」と話していた。
「世界で活躍する選手たちは、練習からすごい。自分も試合のときだけではなく、練習からもっと演技の完成度を上げたい」
2017年9月、女子高飛び込みで初優勝を飾り感極まる荒井祭里 【写真は共同】
5回の演技の合計得点で争われる女子高飛び込み決勝で、荒井は1回目から高得点を叩き出す。3回目に飛んだ305C(前踏み切り後ろ宙返り2回転半抱え型)では、「ボン!」という音とともに全く水しぶきの上がらない美しい入水を披露し、7人の審判うち、5人が9点(10点満点)をつける最高の演技を見せつけた。
勢いに乗った荒井は、残りの2回も大きな失敗なく、得意の入水でノースプラッシュを連発。結果、パーソナルベストとなる363.40点をマークして、涙の日本選手権初優勝を果たした。
国際大会の採点は、国内大会よりも多少厳しくなる。そのため、単純比較はできないとはいえ、荒井は世界選手権の同種目で6位に相当する得点を叩き出したのである。
「自分の演技を見てもらえる今シーズン最後の大会だったので、良い演技を見てもらおうと思って頑張りました。今までは予選が良くても、決勝で得点を落とすことが多かったので、今回は決勝でも良い演技ができて良かったですし、今までで一番高い得点を獲得して優勝できて本当にうれしかったです」
手作りの練習環境で日々練習
JSS宝塚には飛び込み競技用のプールはあるものの、1メートルと3メートルの飛板と、同じ高さの台があるだけ。荒井が得意とする10メートル高飛び込みの練習ができる設備はない。飛び込みの陸上トレーニングには欠かせないトランポリンはあるが、設置されている場所は屋外。柵を挟んですぐそばには住宅街が広がっている。その他ではエアロバイクが置いてあるのは、倉庫を改築した簡易的な施設の中。限られた環境で最大限の効果を生み出すため、そのほかにも創意工夫が施された、手作りのトレーニング器具が並んでいる。
飛び込み選手のトレーニング環境としては、決して恵まれているわけではない。それでも荒井は、板橋や寺内らとともに、黙々とトレーニングをこなす。荒井が練習環境に対して何か言及したことは、一度もない。自分のやれることを、やれる環境でこなすだけ。そんな意志が、練習中の荒井の姿からは感じ取れた。
荒井は今年8月に行われるアジア大会(インドネシア・ジャカルタ)の出場を決めている。
少しずつ、国際大会の常連になりつつある荒井。150センチの小柄な体と、まだあどけなさの残るかわいらしい笑顔の裏には、溢れんばかりの情熱と強い意志が秘められている。
たった1年で、アスリートとして大きく成長した荒井の伸びしろは未知数。東京五輪までは、あと2年もある。ひとつ一つの大会をこなしていくなかで、確実にアスリートとしての純度を高めていく荒井。東京五輪の舞台では、必ず板橋と並んで世界の舞台で美しい入水を披露してくれていることだろう。“一瞬の美”の求道者は、今日も一意専心の思いでプールに向かって飛び続ける。